相続する財産が一定の金額を超えると、相続税を支払う義務が生じます。しかし、すべての相続人に相続税が課されるわけではないため、「誰が相続税を支払うのか」「いつまでにどうやって支払うのか」を疑問に思う方は多いかもしれません。
この記事では、相続税の支払い義務者や対象となるケース、支払い方法の基礎知識について解説します。相続税について知っておくべき情報をまとめているので、相続を控えている方はぜひ参考にしてみてください。
相続税は誰が払う?
相続税は、それぞれの相続人が個人で支払います。
相続税は、相続や遺贈によって財産を取得した人が、それぞれの取得した財産の割合に応じて個別に納める税金です。支払い義務があるのは、以下の人たちです。
- 法定相続人
- 代襲相続人
- 受遺者
- 特別縁故者
- 特別寄与者
ここでは、各相続人がどのような立場の人なのか詳しくみていきましょう。
法定相続人
法定相続人は、民法で定められている相続権利を持つ人です。
被相続人の配偶者は、常に相続権を持つ法定相続人です。その他の人については、以下の順位で相続権が認められています。
順位 | 該当者 |
常に法定相続人 | 配偶者 |
第1順位 | 子ども (子どもが亡くなっている場合は孫) |
第2順位 | 父母(父母が亡くなっている場合は祖父母) |
第3順位 | 兄弟姉妹(兄弟姉妹が亡くなっている場合は甥・姪) |
なお、相続税を計算するときは、法定相続人の人数に応じた「基礎控除」を受けることが可能です。法定相続人が多くなるほど基礎控除の額も大きくなり、相続税の負担を軽減できます。
代襲相続人
代襲相続人とは、本来の相続人が被相続人より先に亡くなっていたり相続権を失ったりした場合に、その人に代わって相続する権利を得た人のことです。
例えば、被相続人の子どもがすでに亡くなっている場合、その子どもの子ども(被相続人からみて孫)が代襲相続人として相続権を得ます。代襲相続人も、取得した財産の価額に応じて相続税を負担する必要があります。
なお、代襲相続は相続順位の上位者のみに認められるもので、権利があるのは第3順位の兄弟姉妹の子(甥・姪)までです。
受遺者
受遺者とは、遺言によって被相続人から財産を受け取る人のことです。法定相続人以外の第三者でも、遺言に記載があれば、財産取得の権利を得ることができます。
受遺者が取得する財産にも相続税が課され、受遺者本人が納税をする必要があります。また、法定相続人に該当しない受遺者は2割加算の対象となるため、相続税負担が重くなりやすい点に注意が必要です。
特別縁故者
特別縁故者とは、「被相続人と特別な縁故関係があった」と家庭裁判所に認められた人のことです。例えば、被相続人の生前の介護をしていた人や、長年にわたり生計を共にしていた人などが該当します。
特別縁故者として財産分与を受けた場合も相続税が課され、2割加算の対象となります。
特別寄与者
特別寄与者とは、被相続人の介護や看護、財産の維持管理などを行っていた、法定相続人以外の親族です。
2019年の民法改正により、被相続人の療養看護などに努めた人は、法定相続人に対して「特別寄与料」を請求できることになりました。この特別寄与料にも相続税が課され、さらに2割加算の対象となります。
出典:国税庁「相続税法基本通達等の一部改正について(法令解釈通達)のあらまし(情報)」
相続税の申告・納付が必要になるケース
相続税申告・納付の対象になるのは、以下の2つのケースです。
- 相続財産の総額が基礎控除を超える場合
- 申告が必要な特例を適用する場合
それぞれどのようなことなのか詳細をみていきましょう。
相続財産の総額が基礎控除を超える場合
相続税の基礎控除は、すべての相続人に認められる控除制度です。
法定相続人の数に応じて控除を受けることが可能で、取得する財産が基礎控除の範囲内に収まっていれば相続税の申告と納付は不要です。取得する財産が基礎控除よりも多い場合は、超えた金額に対して相続税が発生します。
基礎控除の計算式は、以下のとおりです。
基礎控除額=3,000万円+(600万円×法定相続人の数) |
例えば、法定相続人が配偶者と子ども2人の場合、「3,000万円+(600万円×3人)=4,800万円」が基礎控除額となります。
なお、基礎控除の計算に使用する法定相続人の数には、相続放棄した人も含まれます。また養子がいる場合は、実子がいるときは1人まで、実子がいないときは2人まで法定相続人の数に算入することが可能です。
内部リンク:相続税の基礎控除とは?計算方法や間違えやすいポイントを解説
申告が必要な特例を適用する場合
基礎控除以外にも、相続税にはさまざまな控除や特例があります。控除や特例を使用することで、相続税の納付が不要になるケースは少なくありません。
ただし、すべての控除や特例が基礎控除のように申告なしで適用できるわけではない点に注意しましょう。以下の特例は、適用要件に相続税申告が含まれているので、適用によって相続税が0円になる場合でも申告が必要です。
- 配偶者の税額軽減(配偶者控除)
- 小規模宅地等の特例
- 相続時精算課税制度
- 相続税の寄付金控除
申告を忘れると制度が適用されなくなる可能性があるので、早めに手続きを済ませることをおすすめします。
内部リンク:小規模宅地等の特例の計算
内部リンク:相続税における配偶者の税額軽減の計算方法を詳しく解説します
誰が払うのか判断が難しいお金
相続税以外にも、相続発生時には「誰が払うべきなのか」を迷ってしまうお金は多く存在しています。その代表的な例として挙げられるのが、以下の3つです。
- 生命保険金にかかる相続税
- 相続税の相談で発生した税理士報酬
- 延滞税・加算税
ここでは、それぞれを支払うべき人物についてみていきましょう。
生命保険金にかかる相続税
生命保険金は、遺産分割の対象にならないので、契約時に決めた保険金の受取人が全額受け取ることになります。そして相続税も、受取人が支払う必要があります。
ただし、生命保険金を受け取る際は、次のような非課税枠を適用することが可能です。
生命保険金の非課税枠=500万円×法定相続人の数 |
例えば、相続人が配偶者と子ども2人の場合、「500万円×3人=1,500万円」までは非課税となります。
生命保険金がこの非課税枠の範囲内であれば、相続税の申告と納付は不要です。非課税枠を超えた部分については、保険金の受取人が相続税を支払わなければなりません。
内部リンク:相続税の基礎控除は生命保険にも使える?非課税枠や節税ポイントを解説!
相続税の相談で発生した税理士報酬
税理士への相続税申告の相談は任意なので、費用の支払い方法についても決まりはありません。
一般的には、次のような支払い方法が考えられます。
- 相続人の代表者が一括で支払う
- 各相続人が相続割合に応じて負担する
- 個人で相談した場合は本人が負担する
税理士報酬の支払い方法を個人で決めると、後々トラブルに発展するリスクが高まります。円滑な相続税申告のために、あらかじめ相続人同士で話し合って決めておくことがおすすめです。
延滞税・加算税
延滞税や加算税は、本来の相続税とは別に発生する追加の税金です。期限までに相続税を納付しなかった場合は「延滞税」、無申告や過少申告に該当する場合は「加算税」の対象となります。
共同相続人には、全員に連帯納付義務が発生します。そのため、一部の相続人が相続税を支払わずに延滞税や加算税を課せられた場合は、他の相続人に督促がくる可能性がある点に注意が必要です。
相続税の延滞税や加算税は、税率が非常に高くなるケースもあります。詳しい税率については、こちらの記事でご確認ください。
内部リンク:相続税の時効は何年?さかのぼる年数や理由、ペナルティを解説
相続人が知っておきたい相続税の基礎知識
「誰が相続税を支払うのか」ということ以外にも、相続税には気をつけておきたいポイントが多く存在しています。
ここでは、相続人が知っておきたい相続税の基礎知識をみていきましょう。
相続税の計算方法は?
相続税は、以下の流れで計算できます。
- 「プラスの遺産-マイナスの遺産」で正味の遺産総額を計算する
- 「3,000万円+(600万円×法定相続人の数)」で相続税の基礎控除を計算する
- 「遺産総額-基礎控除」で課税遺産総額を計算する
- 法定相続分に従って課税遺産総額を分割する
- 分割した課税価格に税率をかけて各人の仮の相続税を算出する
- 各人の仮の相続税を合計して相続税の総額を算出する
- 相続税の総額を実際の相続割合に応じて按分する
- 控除や加算を反映して納付税額を算出する
※出典:国税庁「No.4152 相続税の計算」
ポイントは、基礎控除を超えた部分だけに相続税が課される点と、いったん相続税の合計額を計算してから実際の相続割合に応じて按分する点です。
上記のように、相続税の計算方法は非常に複雑です。期限までに正確な計算をすることが難しい場合は、概算で申告を行い、あとから修正申告や更正の請求を行うこともできます。
内部リンク:相続税はいくらからかかる?目安の金額や計算方法を解説
相続税はいつまでにどこで支払えばよい?
相続税の納付期限は、相続開始を知った日の翌日から10か月以内です。この期限までに、申告と納付の両方を完了させる必要があります。
相続税を支払う方法には、以下の4種類があります。
支払い方法 | 注意点 |
金融機関・税務署の窓口 | 平日の日中のみ対応 |
コンビニエンスストア | ・税額30万円以下の場合のみ可能 ・税務署で納付書を発行するか、自分でQRコードを作る必要がある |
クレジットカード | ・1回で納付できる税額は1,000万円未満まで ・手数料が発生する |
e-Tax | ・相続人全員がe-Taxで申告する必要がある ・e-Taxを利用できないケースがある |
なお、税務署から納付書が送付されることはありません。納付の際は、税務署に備え付けの納付書に必要事項を記入するか、国税庁ホームページからダウンロードした納付書を使用しましょう。
相続税は相続財産で支払ってもよい?
相続税は、それぞれの相続人が自分の財産から支払うことが原則です。
ただし、以下の要件をすべて満たす場合は、相続財産から支払うことも認められています。
- 納税までに遺産分割協議や預貯金の名義変更が完了していること
- 相続人全員が相続財産からの支払いに合意していること
- 納付期限内に支払うこと
相続税の納付期限は、相続開始を知った日の翌日から10か月以内です。そのため、相続財産を納税資金に充てたい場合は、それまでに遺産分割協議と預貯金の名義変更を済ませておく必要があります。
法定相続人の確定や相続財産の調査、相続税の計算には多くの時間と手間がかかります。相続財産で納税することを希望する場合は、スピーディーに対応することが大切です。
代表者がまとめて支払ってもよい?
相続税は原則それぞれの相続人が個別で納付しなければいけませんが、相続人の代表者がまとめて納付することも不可能ではありません。
例えば、「納付期限に間に合わせるために代表者が全員分の相続税を立て替えて、後日精算する」という方法を取ることも可能です。ただし、他の相続人の相続税を肩代わりすると、贈与とみなされて贈与税が追加で課されます。
特に気をつけたいのが、親が子どもの相続税を支払うケースです。この場合は、贈与税の発生を防ぐために、財産分与の段階で相続税相当額を上乗せして相続させるなどの工夫が必要になります。
相続税を支払うときの注意点
相続税を支払うときは、以下の注意点を押さえておきましょう。
- 連帯納付義務がある
- 現金で支払えない場合は税務署に相談する
- 相続する人によっては2割加算される
- 二次相続のリスクに気をつける
各項目の詳細を説明します。
連帯納付義務がある
相続税には、「連帯納付義務」という特殊な制度が設けられています。これは、ある相続人が相続税を納付しなかった場合、他の相続人に対して納税を求めることができる制度です。
例えば、4人の相続人のうち1人が支払いを行わなかったときは、残りの3人に対して税務署から納付の催促が来る可能性があります。たとえ自分の分をすでに払い終えていたとしても、未納付の相続人の分を追加で支払わなければならないケースもあるのです。
このような事態になることを避けるためにも、相続人全員でしっかりと支払い計画を立てておくことが大切です。
現金で支払えない場合は税務署に相談する
相続税は現金での一括納付が原則ですが、まとまった現金の用意が困難な場合は、税務署に相談することで別の納付方法を選択できます。
現金で支払えない場合の選択肢として、「延納制度」と「物納制度」があります。
制度 | 概要 | 主な要件 |
延納制度 | 相続税を分割で納付できる制度 | ・納税額が10万円以上 ・金銭納付が困難な理由がある ・延納税・利子税に相当する担保が用意できる ・担保提供関係書類などを期限内に提出できる |
物納制度 | 相続税を相続財産で納付できる制度 | ・延納にしても金銭で納付することが困難な理由がある ・物納適格財産がある |
これらの制度の利用を希望する場合は、必ず納付期限までに申請して許可を受ける必要があります。また、物納は延納が認められない場合の補完的な制度として位置づけられているため、原則として延納の検討が優先されることを押さえておきましょう。
期限内に手続きが完了しなければ、延滞税が発生してしまいます。資金繰りに不安がある場合は、できるだけ早めに税務署へ相談しましょう。
内部リンク:相続税は延納・分納できる?可能になる条件やデメリットを解説
内部リンク:相続税の物納とは?対象財産や手続方法、物納に適している人を解説
相続する人によっては2割加算される
法定相続人以外の人が財産を取得した場合、相続税額に20%が加算されます。
2割加算の対象となるのは、次のような相続人です。
- 受遺者
- 特別縁故者
- 特別寄与者
- 被相続人の養子かつ被相続人の孫でもある人のうち、代襲相続人にはなっていない人
※出典:国税庁「No.4157 相続税額の2割加算」
これは、親族以外への財産移転を防ぐために設けられた制度です。法定相続人以外への財産移転を検討する際は、この追加負担を考慮に入れたうえで計画を立てる必要があります。
二次相続のリスクに気をつける
二次相続とは、相続が発生してから短期間のうちに、再び相続が発生することを指します。例えば、父親の相続後に母親も亡くなるようなケースが該当します。
二次相続の際は、以下の理由により相続税額が高くなりやすいため注意が必要です。
- 相続人が減ることで控除額が下がる
- 二次相続では高額な配偶者控除が適用できない
- 一次相続で取得した財産も課税対象になる
特に気をつけたいのが、一次相続で取得した財産とともに「相続税の納付義務」も引き継がれる点です。1回目の相続で発生した相続税を支払う前に相続人が亡くなった場合、2回目の相続で相続人になった方は、1回目と2回目の両方の相続税を支払うことになります。
ただし、相次いで相続が発生した場合は「相次相続控除」という制度を適用すれば、一次相続で発生した相続税の一定額を二次相続の相続税から控除することができます。相次相続控除は計算方法が複雑で細かい要件もあるので、「適用可能かどうか」「いくら控除できるのか」については税理士にご相談ください。
相続税のお困りごとは税理士にご相談ください!
相続税の申告や納付には、さまざまな専門知識が必要です。誰が支払うのか、いくら支払うのか、どのように支払うのかなど、判断に迷うシーンも多いので、余裕を持って申告・納付できるように早めに準備を進めておきましょう。
相続税に関してわからないことがある方は、相続に詳しい税理士にご相談ください。早い段階から相談や対策をしておくことで、相続税の負担を適切に抑えることが可能です。
「相続税申告相談プラザひろしま」では、相続と向き合い30年以上の専門家が相続税に関するさまざまなご相談に対応しています。相続税についてお困りのことがありましたら、お気軽にご相談ください。