相続税の物納とは?対象財産や手続方法、物納に適している人を解説

国税は原則現金で納付する必要がありますが、相続税に関しては相続財産による納付(物納)が認められています。ただし、どのような場合・財産でも可能なわけではなく、物納を認めてもらうには一定の要件を満たさなければいけません。

この記事では、相続税の物納について解説します。相続税の納付でお困りごとがある方は、物納制度をうまく活用していきましょう。

物納とは

物納とは、不動産や株式などを現物納付することで金銭を支払う制度です。消費税や所得税などの国税は金銭納付が原則ですが、相続税に限っては、納付を困難とする金額を限度に物納が認められています。

最大55%の税率が課される相続税は負担が大きくなりやすく、すぐに現金化できない財産を相続することも多いため、納税資金の確保が困難なケースは珍しくありません。そのような方の生活が困窮してしまうことがないよう、物納制度が設けられているのです。

相続税の物納が可能になる条件

相続税の物納は誰でも利用できる制度ではなく、厳しい要件が設けられています。

物納が認められるのは、以下の要件をすべて満たす場合です。

【物納の要件】
延納にしても金銭で納付することが困難な理由があり、納付を困難とする金額を限度としていること物納申請財産は、納付すべき相続税額の課税価格計算の基礎となった相続財産のうち、日本国内に所在する次に掲げる財産(※1)および順位となること物納に充てることができる財産が物納に不適格な財産(管理処分不適格財産)に該当せず、物納劣後財産に該当する場合は、他に物納に充てられる財産がないこと物納しようとする相続税の納付期限または納付すべき日までに必要書類を税務署長に提出すること
※1 後述
※※出典:国税庁「No.4214 相続税の物納

相続税に関しては、物納以外にも延納という措置が設けられています。延納は、一定の要件を満たすことで支払期限を延長できる制度です。物納を行うには、延納しても金銭の納付が困難であると認められる必要があります。

物納を申請できる金額は、預貯金や現金に換価が可能な財産を控除して、実際に納付が困難であると判断される範囲に限られます。また、物納できる財産の種類は指定されているので、「どのような財産でも物納に充てられる」というわけではない点に注意しましょう。

物納を希望する場合は、相続税の納付期限または納付すべき日までに必要書類を揃えて税務署に申請しなければいけません。申請が間に合わないときは「物納手続関係書類提出期限延長届出書」を提出すると、書類の提出期限を最長1年間延長可能です。

相続税において物納が認められる財産

物納できる財産は、指定されている国内の財産に限られます。

国税庁が定めている物納が認められている財産は、次のとおりです。

<第1順位>
不動産、船舶、国債証券、地方債証券、上場株式等不動産および上場株式のうち物納劣後財産に該当するもの
<第2順位>
非上場株式等非上場株式のうち物納劣後財産に該当するもの
<第3順位>
動産
※引用:国税庁「No.4214 相続税の物納

原則、第1順位の財産から物納に充てることが求められ、後順位の財産は、税務署長が特別の事情があると認める場合のみ物納に充てられます。

また、特定登録美術品に関しては、一定の書類を提出すれば順位にかかわらず物納に充てることが可能です。

相続税の物納が認められない・認められにくい財産

相続税の物納に充てることが認められない、認められにくい財産として、「管理処分不適格財産」と「物納劣後財産」があります。

ここでは、各財産の詳細についてみていきましょう。

管理処分不適格財産

管理処分不適格財産とは、管理や処分に支障がある財産全般を指します。

管理処分不適格財産の一例としては、次のようなものが挙げられます。

担保に設定されている不動産境界が明らかになっていない土地権利の帰属について争いがある不動産や株式暴力団と何らかの関連がある財産
※参考:国税庁「No.4214 相続税の物納

上記の財産は、売却しにくく管理の負担が大きいため、物納財産に充てることが認められていません。また、公の秩序に反する財産も物納財産として不適切だとされています。

物納劣後財産

物納劣後財産とは、物納財産としての価値が他の財産よりも劣っているものを指します。

物納劣後財産の一例としては、次のようなものが挙げられます。

法令に違反して建築された建物や土地維持管理に特殊技能を要する建物や敷地事件または事故などの事情によって正常な取引が行われない可能性がある不動産事業を休止している法人の株式
※参考:国税庁「No.4214 相続税の物納

物納劣後財産は、資産価値が低く処分しにくい財産である点が特徴的です。そのため、他に物納へ充てられる財産がない場合を除いて、物納財産として認めてもらえません。

相続税を物納で納めるための手続きの流れ

相続税の物納を希望するときは、次の流れで手続きを進めていく必要があります。

  1. 物納申請書と物納手続き関係書類を記入する
  2. 相続税納付期限までに税務署へ書類を提出する

各手続きの詳細について説明します。

1.物納申請書と物納手続関係書類を記入する

まずは、物納申請書と物納手続き関係書類を準備します。

物納の申請は、遺産分割協議を済ませたあとであり、なおかつ物納財産の目録や各財産の詳細な資料を用意したうえで行う必要があります。そのため、早めに準備を始めておくことが大切です。

ここでは、物納の申請に必要な書類を具体的にみていきましょう。

なお、物納に関連する各種申請書類は、国税庁ホームページの様式集より入手可能です。

物納申請書

物納申請書とは、物納を希望する旨を申請する書類です。物納を希望する相続税額や物納に充てようとする財産などを記載します。

物納申請書だけでは情報が十分でないので、後述する「金銭納付を困難とする理由書」という書類も一緒に提出します。

物納財産目録

物納財産目録とは、物納に充てる財産に関する詳細を記載した書類です。

不動産を物納するときは地番や地目、床面積などを、有価証券を物納するときは銘柄や数量などを明記します。物納に充てる財産によって書式が異なるため、ダウンロードする際は注意が必要です。

金銭納付を困難とする理由書

金銭納付を困難とする理由書は、相続税を金銭で納めることが困難である理由について詳細に説明する書類です。相続した財産や納税者固有の財産などを明らかにし、「どれくらい期限内に納税できるのか」「どれくらい物納できるのか」を記載します。

他にも、生活費や配偶者・親族の収入、臨時的な収入・支出など記載すべき項目が多く、内容が複雑な点に注意が必要です。

物納劣後財産等を物納に充てる理由書

物納劣後財産等を物納に充てる理由書は、物納劣後財産がある場合のみ提出が必要な書類です。物納に充てる物納劣後財産と、他の財産を物納に充てることができない事情を記載します。

物納手続関係書類

物納手続関係書類は、物納する財産ごとに必要となる書類です。

土地であれば地積測量図や境界線に関する確認書、建物であれば登録事項証明書や間取り図、有価証券であれば証券の写しなどが必要になります。各財産で用意すべき書類が大きく異なるため、様式集の「物納手続関係書類チェックリスト」で確認しておきましょう。

2.相続税納付期限までに税務署へ書類を提出する

物納の申請は、相続税の納付期限または納付すべき日までに行う必要があります。必要な書類を揃えて、相続開始の翌日から10か月以内に税務署で申請しましょう。

物納申請を行ったあとは税務署長による調査が行われ、物納申請期限から3か月以内に許可または却下の判断が下されます。このとき、財産の状況によっては審査の期間が最長9か月まで延長されることもあります。

期限までに書類を提出することが難しい場合は「物納手続関係書類提出期限延長届出書」を提出すれば、1回あたり3か月、最長1年間の期限延長が可能です。

なお、管理処分不適格と判断されたことによって物納申請が却下された場合は、代わりの財産による再申請を1度だけ行えます。また、延納によって相続税の納付が可能と判断された場合、物納が却下された分の相続税に関して延納申請を行うことが可能です。

相続税の物納を検討しても良い人

相続税の物納を検討したほうが良いのは、次のような方です。

  • 売却が難しい財産を所有している場合
  • 手元に納税に充てられる資金がない場合
  • 延納手続きをしても納税できる見込みがない場合

手元に納税資金がなく、納税期限までに金銭を用意できない方は、物納を検討するとよいでしょう。

なかには、相続した不動産を売却して納税すべきかどうか悩む方もいるかもしれませんが、売却して現金化すべきか物納すべきかはケースバイケースです。不動産を相続評価額以上で売却できればよいのですが、現金化を急ぐ場合、買い叩かれたり納得のいく条件で売れなかったりすることが多いためです。

財産を売却しても相続税を払える見込みがない場合は、物納を選択したほうがメリットは大きくなるでしょう。

相続税の物納を検討しないほうが良い人

物納よりも金銭で相続税を納付したほうが良いのは、次のような方です。

  • 売却しやすい財産を所有している場合
  • 物納手続きを行う時間的余裕がない場合

相続した不動産などの財産が売却しやすいものである場合は、相続税評価額以上で売れる可能性があるため、現金化したほうがお得になります。ただし、不動産を売却するときは仲介手数料や各種税金の支払いが必要になるため、トータルコストをふまえて判断することが大切です。

また、物納は相続税の納付期限までに申請する必要があるため、時間がなくて必要書類を揃えられない方は制度を利用できません。無事に物納申請が済んでも、物納が却下された場合や訂正が必要になった場合は、納付期限以降の期間に対する利子税や延滞税が課されます。

物納が認められるケースは非常に少ないので、申請を行うことで損をしてしまうリスクはゼロではありません。本当に物納を選択すべきかどうか、しっかりと専門家へ相談することがおすすめです。

相続税の納付方法でお困りなら専門家へご相談を

相続税は高額になることが珍しくなく、相続する財産によっては金銭での納付が難しいケースも多々あります。どうしても金銭を相続税の納付に充てることが難しいときは、物納を検討してみるとよいでしょう。

ただし、物納を認めてもらうには厳しい要件を満たす必要があり、財産ごとに必要となる書類も多岐にわたります。適切に申請を行わないと却下されてしまう可能性もあるので、専門知識を持ったプロに相談しながら進めたほうが安心でしょう。

相続税申告相談プラザひろしま」では、相続と向き合い30年以上の専門家が相続手続きのサポートを実施しています。相続税の物納でわからないことやお困りごとがあれば、お気軽にご相談ください。