相続税を節税する方法9選を紹介|基本の考え方と注意点とは?

多額の財産を相続すると相続税も高額になるため、少しでも税負担を抑えるために節税方法をお探しになる方は少なくありません。現在、相続税を節税できる制度が数多く存在しており、それらをうまく組み合わせれば税額を減免することが可能です。

この記事では、相続税の節税に有効な方法について紹介します。節税対策の注意点についても解説するので、ぜひ相続税の負担軽減にお役立てください。

相続税を節税するときのポイント

相続税を節税するときに押さえておきたい基本のポイントは、以下の3つです。

  • 基礎控除を把握しておく
  • 相続財産を減らす
  • 相続税評価額を下げる

相続税を計算するときは、「基礎控除」と呼ばれるすべての方に適用される控除があります。相続財産が基礎控除額以下の場合、相続税は発生しません。基礎控除額は法定相続人の人数によって変わるので、「自分の場合はどうなのか」を知ることが大切です。

また、相続税は相続財産の評価額に応じて計算されるため、財産そのものや相続税評価額を下げることも有効です。具体的にどのような方法で財産や評価額を減少させられるのかについては、このあとの見出しで説明します。

節税対策を考えるときは、相続税の概要や計算方法を理解しておく必要があります。相続税については、こちらの記事でご確認ください。

【関連記事】相続税はいくらかかる?基準となる額から相続税の計算方法を解説

相続税を節税する方法9選

相続税を節税する方法は、大きく9つに分類できます。

  1. 非課税枠を活用する
  2. 配偶者の税額の軽減制度を活用する
  3. 未成年・障害者控除を適用する
  4. 生前贈与を行う
  5. 不動産の特例を活用する
  6. 墓地や仏具などを生前に購入しておく
  7. 孫に財産を相続させる
  8. 遺贈寄付する
  9. 養子縁組を行う

各項目の詳細についてみていきましょう。

非課税枠を活用する

相続税には、2つの非課税枠が設けられています。非課税枠を活用すれば、相続財産の一部を課税対象から外すことが可能です。

ここでは、主な非課税枠についてみていきましょう。

基礎控除

基礎控除は、相続税の課税対象となる財産から一定額を控除できる制度です。控除可能な金額は、法定相続人の人数によって異なります。

具体的な計算方法は、次のとおりです。

基礎控除額=3,000万円+(600万円×法定相続人の数)
※出典:国税庁「No.4152 相続税の計算

例えば、法定相続人が配偶者と子ども2人の場合は、「3,000万円+(600万円×3人)=4,800万円」が基礎控除額となります。基礎控除額は相続人の人数が多いほど増えて、金額も大きいので、正しい計算方法を知っておくことが大切です。

【関連記事】相続税の基礎控除とは?計算方法や間違えやすいポイントを解説

死亡保険金・死亡退職金の非課税枠

生命保険金や死亡退職金など、被相続人が亡くなったことをきっかけに受け取る財産は、「みなし相続財産」として相続税の課税対象となります。

ただし、以下の金額までは相続税が非課税です。

非課税限度額=500万円×法定相続人の数※
※相続放棄した人や相続権を失った人を含めた人数
※養子を含める場合、実子がいる場合は1人、実子がいない場合は2人までカウントする
※※出典:国税庁「No.4114 相続税の課税対象になる死亡保険金

例えば、法定相続人が3人の場合は、死亡保険金と死亡退職金がそれぞれ1,500万円、合計3,000万円まで非課税になります。節税対策として生命保険に加入する際は、この非課税枠を意識しながら保険商品や月々の支払額を決めることがおすすめです。

配偶者の税額の軽減制度を活用する

配偶者が財産を相続する場合は、「配偶者の税額軽減」という特例を利用できます。この制度を使うと、配偶者が相続する財産のうち、以下のいずれか大きい金額までは相続税が非課税になります。

  • 1億6,000万円
  • 配偶者の法定相続分

※出典:国税庁「No.4158 配偶者の税額の軽減

このように、配偶者の税額の軽減制度は、特に節税効果が高い制度です。

ただし、配偶者に多額の財産を相続させると、その後の二次相続で子どもたちの税負担が大きくなる可能性があります。その理由として、二次相続では配偶者控除が使えなくなることや、相続人が減ることで基礎控除額が減少することが挙げられます。

したがって、必ずしも配偶者に多額の財産を残すことが正解とも言い切れません。配偶者が高齢の場合は、一次相続と二次相続の両方を見据えた計画を立てることが大切です。

【関連記事】相続税における配偶者の税額軽減の計算方法を詳しく解説します

【関連記事】二次相続で相続税額が高くなる理由は?一次相続との違いも解説

未成年・障害者控除を適用する

未成年者や障害者が相続人になる場合は、それぞれ控除を受けることができます。

具体的な控除額は、次のとおりです。

項目控除額
未成年控除未成年者控除額=(18歳-相続時の年齢)×10万円
障害者控除一般障害者:(85歳-相続開始時の年齢)×10万円特別障害者:(85歳-相続開始時の年齢)×20万円
※出典:国税庁「No.4164 未成年者の税額控除」「No.4167 障害者の税額控除

未成年控除では18歳までの年数、障害者控除では85歳までの年数に応じて、相続税から直接税額を控除できます。各控除は基礎控除とは別枠で適用されるので、未成年の方や障害者の方は相続税負担を大幅に抑えることが可能です。

なお、控除額が相続税額よりも大きいときは、控除しきれなかった金額を扶養義務者の相続税から差し引くことも可能です。

【関連記事】相続税における障害者控除の適用条件とは?計算方法や注意点を解説

生前贈与を行う

生前贈与は、生前から計画的に財産を移転することで、相続財産を減らせる節税方法です。生前贈与には複数の制度があるので、それぞれの特徴を理解したうえで活用することが大切です。

ここでは、代表的な生前贈与の節税方法をみていきましょう。

暦年贈与

暦年贈与とは、「毎年一定の金額までの贈与であれば贈与税がかからない」という仕組みを活用した贈与方法です。暦年贈与制度を利用すると、毎年110万円までの贈与を非課税で行うことができます。

この制度には贈与する相手や用途の制限がないので、柔軟な財産移転が可能です。子どもや孫が複数いる場合は、それぞれに贈与することでより多くの財産を移転でき、相続時の税負担を軽減しやすくなります。
但し、令和6年以降行う暦年贈与については、相続発生時に生前7年前までに行われた贈与財産については、将来相続が発生した際相続税の計算上相続財産に持ち戻される場合がありますので、これに注意しないといけません。

※出典:国税庁「No.4402 贈与税がかかる場合

【関連記事】贈与税の申告に必要な書類|申告が必要なケースと添付書類も紹介

相続時精算課税制度

60歳以上の親や祖父母から20歳以上の子どもに贈与を行う場合は、相続時精算課税制度の活用もおすすめです。

この制度を適用すると、2,500万円までの特別控除と年間110万円の基礎控除の両方が受けられるので、将来の相続財産を前倒しで贈与しやすくなります。なお、控除額を超えた部分には一律20%の税率が適用されます。

ただし、一度この制度を選択すると、暦年贈与への変更ができなくなる点に注意しましょう。また、贈与された財産は、年間110万円の基礎控除内の贈与を除き、将来相続が発生した際に相続税の計算上相続財産に加算されることになり、相続税の節税にはならないことに注意が必要です。

※出典:国税庁「No.4402 贈与税がかかる場合

【関連記事】相続時精算課税制度とは?必要書類とメリット・デメリットを解説

一括贈与

上記以外にも、一定の目的で贈与を行う場合は、贈与額の非課税枠が適用されます。

代表的な制度として、表のようなものが挙げられます。

制度概要限度額
教育資金の一括贈与祖父母等から30歳未満の子・孫への教育関連費用の贈与を非課税とする制度受贈者1人につき1,500万円(学校等以外は500万円)
住宅取得等資金父母や祖父母から住宅取得等のための資金の贈与を受けた場合、一定額までの贈与税を非課税とする制度・省エネ等住宅:1,000万円・一般住宅:500万円
配偶者控除(おしどり贈与)婚姻期間20年以上の配偶者間で、居住用不動産等の贈与を行う場合に、一定額までの贈与税を非課税とする制度2,110万円(基礎控除110万円含む)
結婚・子育て資金両親や祖父母から子・孫への結婚・子育て資金の贈与を支援する制度受贈者1人につき1,000万円
出典:国税庁「祖父母などから教育資金の一括贈与を受けた場合の贈与税の非課税制度のあらまし」「No.4508 直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の非課税」「No.4452 夫婦の間で居住用の不動産を贈与したときの配偶者控除」「No.4511 直系尊属から結婚・子育て資金の一括贈与を受けた場合の非課税

各制度には細かい要件があり、適用時には申請が必要となります。希望する制度がある場合は、詳細を確認のうえ、適切に手続きを進めましょう。

不動産の特例を活用する

不動産が相続財産に含まれる場合は、相続税評価額が高くなりやすい傾向にあります。節税のために、土地の評価額を下げられる不動産関係の特例を活用することがおすすめです。

ここでは、代表的な不動産に適用される特例について紹介します。

小規模宅地等の特例

小規模宅地等の特例は、被相続人が住んでいた自宅や事業用地の評価額を最大80%減額できる制度です。例えば、自宅として使用していた土地であれば一定の部分について、評価額を80%減額できます。

この特例は非常に大きな節税効果が期待できる一方で、厳しい適用要件が設けられている点に注意が必要です。

「親子で同居しておく」「相続人が引き続きその土地を利用する」「相続開始から3年以内に売却や用途変更をしない」などの対策が必要です。税理士に相談して、早いうちから制度について理解を深めておきましょう。

※出典:国税庁「No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)

【関連記事】小規模宅地等の特例の計算 – 広島 相続税申告相談プラザひろしま

家なき子特例

家なき子特例とは、被相続人の配偶者や同居していた親族以外でも「小規模宅地等の特例」の適用が受けられる制度です。

家なき子特例を受けるには、次のような要件を満たす必要があります。

  • 被相続人に配偶者や同居人がいない
  • 相続開始前の3年間に持ち家に住んでいない
  • 相続した宅地を、相続税申告期限まで所有し続けている
  • 相続開始前3年以内に「3親等以内の親族」または「相続する人と特別の関係のある法人」が所有する家屋に居住したことがない
  • 相続開始時に住んでいる家屋を所有したことがない

※出典:国税庁「No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)」

家なき子特例は、本来の意図とは異なる形で利用されることが増えたため、平成30年の法改正によって要件が厳しくなっています。適用可能か判断できないときは、税理士や税務署に相談してみることを推奨します。

【関連記事】家なき子特例とは?小規模宅地等の特例を使うための条件や考え方を解説

賃貸用建物の建築・購入

賃貸用不動産は、自宅不動産よりも相続税評価額が低く設定される傾向にあります。特に、建物の評価額は土地に比べて大幅に低くなることが多いので、賃貸用不動産を建築・購入して節税するという方法もあります。

物件によって異なるため一概にはいえませんが、評価額の目安は土地で購入額の約8割、建物で5~6割程度です。一般的に、木造よりも鉄筋コンクリート造のほうが評価額は高くなる傾向にあり、建築時期によっても変わってきます。

また、賃貸収入を得られるようになるので、納税資金を確保できたり収益物件として資産価値を維持できたりと、節税対策以外のメリットも多く得られます。

墓地や仏具などを生前に購入しておく

生前に墓地や仏具などを購入しておくことで、相続財産を減らす効果が期待できます。なぜなら、お墓や仏壇などの宗教関連財産は相続税の課税対象外となるためです。

具体的には、墓地や墓石、仏壇、位牌、仏具などの購入費用や管理費用は、相続財産から除外されます。

ただし、あまりにも高額なものを購入した場合や実際の使用目的が不明確な場合は、税務調査の対象となる可能性があります。「適切な金額での購入を心がける」「相続間際ではなく計画的に購入する」など、不正な節税対策であると判断されない範囲で行うことが大切です。

孫に財産を相続させる

相続は通常、親から子、子から孫の順で行われていきますが、この場合は同じ相続財産に対して2回相続税が課されることになります。そのぶん、相続税を多く納付することになる可能性があるので、相続財産を孫に直接承継させて課税される機会を減らすことも、節税対策としては有効です。

相続人に孫を加えると、基礎控除額を増やせるというメリットもあります。特に、子どもの数が少ない場合は、孫を相続人に加えて基礎控除額を増やすと大きな節税効果が得られます。

ただし、相続人の子どもには「遺留分」が認められているため、遺留分侵害の問題が生じないように注意しなければいけません。孫への相続を検討する際は家族で十分に話し合い、子どもたちの理解を得ておくことが重要です。

遺贈寄付する

遺贈寄付すると、その金額は相続財産から除外されます。相続税の課税対象額が減少するので、結果的に相続税の節税が可能です。

寄付の対象となる公益法人は、教育機関や医療機関、福祉施設、宗教法人など多岐にわたります。

また、自分の選んだ自治体に寄付する「ふるさと納税」を活用することもおすすめです。ふるさと納税を行うと、任意の自治体を応援できるだけではなく、2,000円の自己負担でお得な返礼品を受け取れます。

社会貢献しながら納税や相続税対策をしたい方は、遺贈寄付を検討してみてもよいでしょう。

【関連記事】ふるさと納税で相続税節税はできるのか?計算方法やよくある注意点を解説

養子縁組を行う

養子縁組を行うと法定相続人が増えて基礎控除も増額されるので、高い節税効果を得られます。普通養子の場合は、1人につき600万円の基礎控除額が加算されます。

ただし、あきらかに節税対策が目的とみなされる養子縁組は、認められません。実質的な親子関係があり、家族として生活を共にしているなど、実態のともなう養子縁組であることが求められます。

また、養子の数には制限があります。被相続人に実子がいる場合は1人、実子がいない場合は2人が数の上限です。

養子縁組を検討する際は、家族関係や生活実態を十分に考慮したうえで、専門家に相談しながら手続きを進めましょう。

【関連記事】養子縁組で相続が変わる?相続の範囲やメリット・デメリットを解説

相続税を節税するときの注意点

相続税を節税するときは、次のような注意点を押さえておく必要があります。

  • できるだけ早く始める
  • 過度な節税は否認されるリスクがある
  • 家族でよく話し合っておく
  • 財産が減りすぎないように注意する

どのようなことなのか、詳細をみていきましょう。

できるだけ早く始める

相続税対策は、被相続人の死亡直前や死後では間に合わないものも多く存在しています。そのため、できるだけ早くスタートすることがおすすめです。

例えば、暦年贈与は贈与開始のタイミングによって移転できる金額が大きく変わりますし、不動産の特例を活用するには一定期間の居住実績が必要になります。また、配偶者の税額軽減や養子縁組などの対策も、十分な期間がなければ効果を発揮しない場合があります。

できるだけ早い段階から専門家に相談して長期的な視点で計画を立てることが、効果的な節税につながるのです。

過度な節税は否認されるリスクがある

相続税法には、租税回避を防ぐためのさまざまなルールが設けられています。

例えば、相続開始前3年以内の贈与財産は相続財産に加算されます。また、不自然な養子縁組は否認される可能性があるため注意が必要です。

税務署が実態を調査して「過度な節税」だと判断した場合は、税務調査の対象になったり更正処分を受けたりするリスクがあります。節税対策を行う際は、税理士などの専門家によく相談したうえで、法令の趣旨に沿った適切な範囲での実施を心がけましょう。

家族でよく話し合っておく

相続税対策は、家族全員に影響を与える大きな問題です。

特に、生前贈与や養子縁組は、家族仲に多大な変化をもたらす可能性があります。また、不動産の活用や事業承継に関する相続税対策は、相続後の生活に直接的な影響を与えるでしょう。

将来的な家族間でのトラブルを防ぐためには、対策の内容や目的について十分に話し合い、合意を得ておくことが不可欠です。特に、相続税対策の内容が遺留分を侵害する可能性がある場合は、法定相続人全員の理解を得ることが重要になります。

財産が減りすぎないように注意する

節税対策には、不動産の購入や生命保険の加入など、費用がかかるものも多くあります。過度に節税を意識するあまり、生活に必要な資金まで投資することがないよう気をつけなければいけません。

特に、高齢者の相続人は、今後の医療費や介護費用も考慮に入れる必要があります。不動産投資を行う場合も、維持管理費用や修繕費用を含めたうえで計画を立てなければ危険です。

今の生活水準を維持するための資金を確保しつつ、無理のない範囲で節税対策を進めましょう。

相続税の節税なら税理士にご相談ください

相続税の節税には、非課税制度や特例の適用、生前贈与、不動産の活用など、さまざまな方法があります。利用できる制度を適切に組み合わせることで、相続税を大幅に節税することが可能です。

ただし、相続税の制度は非常に複雑なうえ、頻繁に改正が行われます。そのため、知識のない方が自己判断で対策を進めることは推奨できません。

相続税対策をご検討の方には、税理士に相談しながら自分に必要な制度を見極めることがおすすめです。早めに税理士と連携することで相続税対策を有利に進められるほか、税理士報酬の前払いで相続財産を減らす効果も得られます。

相続税申告相談プラザひろしま」では、相続と向き合い30年以上の専門家が相続税の節税サポートを実施しています。節税でわからないことやお困りのことがあれば、お気軽にご相談ください。