家なき子特例とは?小規模宅地等の特例を使うための条件や考え方を解説

家なき子特例とは、被相続人の配偶者や同居していた親族以外の親族でも「小規模宅地等の特例」が受けられる制度です。宅地の相続税を大幅に減額できる特例である一方で、多くの要件が設けられているため、利用を考えている方は注意が必要です。

本記事では、家なき子特例の概要や適用要件、必要な書類を解説します。少しでも相続税の負担を軽減できるよう、正しい知識を身につけていきましょう。

家なき子特例とは

家なき子特例とは、被相続人と同居していなかった親族が宅地を相続する際に「小規模宅地等の特例」を使えるようにする制度です。家なき子特例は正式名称ではなく、小規模宅地等の特例のなかにある特例のひとつという位置づけです。

小規模宅地等の特例は、被相続人の配偶者や同居していた親族が宅地を相続した場合に、土地評価額を最大80%減額できる制度を指します。高額な相続税を支払えずに宅地を処分せざるを得なくなる相続人への配慮や、空き家対策の一環としてうまれました。

この制度を利用すれば、要件を満たした「被相続人や同居していた親族」以外の親族にも小規模宅地等の特例が適用されるようになります。相続税の評価額を大幅に減額できるため、積極的に活用したい制度であるといえます。

家なき子特例が適用になる要件

家なき子特例は、どのような親族にも適用されるわけではありません。この特例の適用を受けるためには、以下の要件を満たす必要があります。

  1. 被相続人に配偶者や同居人がいない
  2. 相続開始前の3年間に持ち家に住んでいない
  3. 相続した宅地を、相続税申告期限まで所有し続けている

ここでは、各要件の詳細を説明します。

※出典:国税庁「No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)」

被相続人に配偶者や同居人がいない

1つ目の要件は、被相続人に配偶者や同居人がいないことです。未婚や離婚、死別などで配偶者がおらず、かつ相続人となる親族の誰とも同居していないことが求められます。

両親と子どもの3人家族のうち父がすでに亡くなっており、子どもが遠方でひとり暮らしをしている状態で母が他界した場合は、このケースに当てはまります。

相続開始前の3年間に持ち家に住んでいない

2つ目の要件は、相続人が相続開始以前の3年間に次の条件に当てはまる持ち家に住んでいないことです。

  • 相続人本人の持ち家
  • 相続人の配偶者の持ち家
  • 相続人の3親等以内の親族の持ち家
  • 相続人本人と特別な関係がある法人の持ち家

つまり「本人や親族、関係性がある会社以外が所有する賃貸物件」に住んでいることが求められるということです。

そもそも家なき子特例は、実家を承継したい人や理由があって別居している人への救済措置としてうまれた制度です。そのため、現在持ち家に居住している人に対しては適用されないように要件が定められています。

相続した宅地を、相続税申告期限まで所有し続けている

3つ目の要件は、相続した宅地を相続税申告期限である10か月間所有し続けることです。

家なき子特例は、相続した宅地を引き継ぐ人に向けた特例です。そのため、相続後すぐに宅地を売却する人には適用されません。申告期限内に売却手続きなどを行った場合、税務署に指摘される可能性があるため注意が必要です。

なお、相続税申告期限を過ぎたあとは、相続した宅地を売却しても法律上の問題は生じません。

平成30年改正後に加わった家なき子特例のポイント

宅地を引き継ぐ人の相続税負担を軽減するためにうまれた家なき子特例。しかし、本来の意図とは異なる形で利用されることが増えたため、平成30年の法改正によって要件が厳しくなり、対象者の範囲がより狭まりました。

法改正で押さえておきたいポイントは、以下の2点です。

  • 相続開始前3年以内に「親等以内の親族」または「相続する人と特別の関係のある法人」が所有する家屋に居住したことがない
  • 相続開始時に住んでいる家屋を所有したことがない

各ポイントの詳細をみていきましょう。

相続開始前3年以内に「3親等以内の親族」または「相続する人と特別の関係のある法人」が所有する家屋に居住したことがない

法改正後は、「相続開始前の3年間に持ち家に住んでいない」という要件に含まれる「持ち家」の範囲が広がりました。

法改正前の要件は、相続開始以前の3年間「相続人本人または相続人の配偶者」の持ち家に住んだことがないというものでした。しかし、平成30年に「3親等以内の親族または相続する人と特別の関係のある法人」が所有する家屋に居住したことがないという要件が加わったのです。

この背景には、相続対策で不動産の名義を変更するケースが多くみられたことが影響しています。例えば、相続人が相続前に不動産の名義を子どもや会社に変更し、家なき子特例の要件を満たすというケースが挙げられます。

法改正の目的は、新しく要件を追加することで関係者を含む実質的な持ち家を明らかにして、適用の範囲を狭めることです。持ち家に住んでいるにもかかわらず、名義変更で作為的に「持ち家がない状況」を作り出す相続人を制度の適用外にするために、要件が厳しくなったのです。

相続開始時に住んでいる家屋を所有したことがない

「相続開始時に住んでいる家屋を所有したことがない」ことが要件に追加されたことも、法改正で押さえておきたいポイントです。この要件を追加した目的も、相続税対策のため作為的に「持ち家がない状況」を作り出すことを防ぐためです。

以前は、持ち家を第三者に売却し、家賃を支払いながらそこに住み続けることで、家なき子特例を利用するというケースがありました。このような、相続税の負担を軽減するための行き過ぎた行動が横行していたため、対策として要件が追加されたのです。

家なき子特例による相続税対策の考え方

家なき子特例の適用には厳しい要件が設けられているため、「自分には適用されるのか」と不安に思っている相続人は多いかもしれません。

例えば、以下のようなケースで特例は適用されるのでしょうか。

  • 相続開始から申告期限までに家を購入した
  • 賃貸住宅に住んでいるが別荘などの別の不動産を所有している
  • 相続後に宅地を賃貸物件にしたい

ここでは、各パターンに分けて相続税対策の考え方を解説します。

相続開始から申告期限までに家を購入した

相続開始時は賃貸物件に住んでいたものの、相続税の申告期限が到来するまでに持ち家を購入して入居したケースです。この場合、相続人は持ち家に居住している状況になりますが、家なき子特例の適用を受けることが可能です。

家なき子特例の要件では、「相続開始前3年間に持ち家に住んでいないこと」と定めています。そのため、相続開始「後」に持ち家を購入しても制度の適用に影響しません。

同様の理由で、相続開始後に相続した家に居住した場合も制度の適用を受けられます。

賃貸住宅に住んでいるが別荘などの別の不動産を所有している

別荘などの不動産を所有しているがそこに居住せず、賃貸物件などに住んでいるケースです。相続人が別の物件を所有していたとしても、「相続開始前の3年間に持ち家に住んでいない」状況であれば、家なき子特例の適用を受けられます。

ただし一連の行動に合理性がなく、明らかに相続税対策であると判断された場合は、特例の適用を否認される可能性があるため注意が必要です。

例えば、持ち家を第三者に貸して別の賃貸物件に住むことで、3年後に適用要件を満たす状況を意図的に作り出した場合、租税回避行為であると判断されるおそれがあります。

相続後に宅地を賃貸物件にしたい

家なき子特例の適用を受けて宅地を相続し、その後その宅地を賃貸物件にするケースです。この場合は、特例の適用上の問題は存在しないため、特に指摘を受けたり特例の適用が否認されたりすることはありません。

特例の適用要件として、「相続した宅地を相続税申告期限まで所有し続けている」というものがあります。この要件は「所有」について規定していますが、居住や賃貸に出すことを強要・制限したりするものではありません。そのため、相続してすぐに第三者へ貸しても問題ないのです。

家なき子特例を使用するために必要な書類

家なき子特例を適用する際は、同居していた人が宅地を相続するときよりも必要な書類が多くなります。準備しなければいけない書類としては、次のようなものが挙げられます。

  • 土地を取得する人の戸籍の附票
  • 賃貸借契約書

それぞれを詳しく解説します。

土地を取得する人の戸籍の附票

相続人が一定期間持ち家に住んでいないこと、被相続人と同居していないことを示すために、戸籍の附票を提出する必要があります。戸籍の附票には住所の変遷が書かれているので、相続開始前3年以内に住んでいた場所を証明するために準備しておきましょう。

戸籍の附票は、市区町村役場の窓口で取得できます。また、郵送で取得したりマイナンバーカードを利用してコンビニエンスストアで取得したりすることも可能です。

賃貸借契約書

賃貸借契約書は、相続人が持ち家ではなく賃貸物件に住んでいることを証明する書類となります

契約書を紛失していて手元にない場合は、契約した不動産会社に問い合わせると、契約書の写しを用意してもらえます。

適用条件に注意して相続税対策を!わからない点は専門家に相談を

家なき子特例は、被相続人と同居していない親族が宅地を相続する際に「小規模宅地等の特例」の適用を受けられるようにする制度です。相続する宅地の土地評価額を最大80%減額できるため、積極的に活用しましょう。

ただし、特例の適用には細かい要件が設けられています。「自分が該当するかわからない」「どのように手続きすればいいかわからない」という場合は、専門家に相談するとスムーズでしょう。

相続税申告相談プラザひろしま」では、相続と向き合い30年以上の専門家が相続手続きのサポートを実施しています。家なき子特例でわからないことやお困りのことがあれば、お気軽にご相談ください。