親や親族が保有する財産を相続したときは、遺産価値に応じた相続税を納める必要があります。なかでも土地や不動産は価値が高いため、どれくらい相続税を負担する必要があるのか不安に思っている方は多いかもしれません。
この記事では、土地・不動産を相続したときに相続税を計算する方法を説明します。
土地・不動産に課される相続税は、物件や相続人の状況によって大きく異なります。相続税を大幅に軽減できる場合もあるため、本記事でしっかりと知識を身につけていきましょう。
土地・不動産の相続税計算は非常に複雑
結論からいうと、土地・不動産の相続税を個人で正しく計算するのは非常に難しいことです。
土地の評価額は相続発生時の時価によって決定され、その評価方法はエリアごとに違います。さらに、土地の特徴の形状や分類によっては、補正値をかけ合わせたり特例を適用したりする必要があります。
そのため、土地・不動産の相続税を算出するときは計算が複雑になりやすく、専門的な知識が欠かせないのです。
相続税の計算を間違えてしまうと、特例を利用できなかったり修正申告をする必要が出てきたりと、多くのデメリットが生じます。少しでも不安がある場合は、最初から相続税に詳しい税理士へ相談しておいたほうが安心でしょう。
土地・不動産の評価額を算出する計算式
相続税は、相続財産の評価額に税率をかけ合わせて算出します。そのため計算時は、その物件の評価額(相続税評価額)を把握する必要があります。
土地・不動産の評価額は、次の3つの方法で調べることが可能です。
特徴 | 計算式 | |
路線価方式 | 国税庁が発表する路線価を用いた計算方法 | 路線価×持分×面積(㎡) |
倍率方式 | 固定資産税評価額に国が定めた倍率を乗じて計算する方法 | 固定資産税評価額×持分×倍率 |
簡便法 | 固定資産税評価額を用いて相続税評価額の概算を行う方法 | 固定資産税評価額×持分÷0.7×0.8 |
以下では、それぞれの調べ方について詳しくみていきましょう。
路線価方式
路線価方式は、毎年7月に国税庁が公表する「路線価」をもとに土地の評価額を算出する方法です。路線価は道路ごとに定められており、その道路に面している土地は路線価をもとに評価額を計算できます。
路線価方式を用いた土地の相続税評価額の計算方法は、次のとおりです。
土地の相続税評価額=路線価×持分×面積(㎡) |
土地の路線価を調べるときは、国税庁の「路線価図・評価倍率表」を閲覧します。
例えば、路線価が「100D」と書かれている道路に面している土地の場合、1㎡あたり100千円(10万円)の土地ということになります。この金額に相続した土地の面積をかけ合わせることで、相続税評価額が算出できるのです。
なお、土地によっては「補正率」の計算が必要になる場合もあるため注意しましょう。補正率は、使いにくい形の土地や間口が狭い土地に対し、評価額を調整するための数値です。補正率は国税庁の「土地及び土地の上に存する権利の評価についての調整率表」で調べられますが、土地の評価額を概算したいだけの場合はそこまで意識する必要はありません。
倍率方式
倍率方式は、路線価が定められていないエリアの土地を評価するときに用いる計算方法です。市区町村が固定資産税を計算するときに算出する「固定資産税評価額」と定められた倍率を使い、土地の評価額を導き出します。
倍率方式を用いた土地の相続税評価額の計算方法は、次のとおりです。
土地の相続税評価額=固定資産税評価額×持分×倍率 |
固定資産税評価額は、市区町村から送付される固定資産税の納税通知書に記載されています。お手元にない場合は、役所で調べることも可能です。
倍率は、「路線価図・評価倍率表」で土地の所在地を調べたとき左側のメニューに表示される、「この市区町村の評価倍率表を見る」から確認できます。例えば、倍率が「1.1」と書かれている場合は、「固定資産税評価額×1.1」で相続税評価額を計算できます。
簡便法
簡便法は、土地の相続税評価額の概算を手早く知りたいときにおすすめの計算方法です。あくまで概算ではありますが、相続税の目安をざっくりと知りたいときに活用できます。
簡便法を用いた土地の相続税評価額の計算方法は、次のとおりです。
土地の相続税評価額=固定資産税評価額×持分÷0.7×0.8 |
ここで算出される評価額は、実際の評価額と大きく異なる場合もあります。正確な評価額を知りたいときは、路線価方式もしくは倍率方式を用いるようにしましょう。
種類別の土地・不動産の相続税評価額の計算方法
土地・不動産の相続税評価額を計算するときは、物件の用途を考慮したうえで計算方法や適用する特例を判断する必要があります。
ここでは、次の4つの種類に分けて土地・不動産の相続税評価額の計算方法をみていきましょう。
- 更地の場合
- 自宅が建っている場合
- アパート・マンションが建っている場合
- 駐車場・借家などがある場合
以下で詳細を解説します。
更地の場合
相続した土地が更地の場合は、特に特別な計算や特例の適用は必要ありません。都市部や住宅地にある土地の場合は「路線価方式」、田園地帯や山林などにある土地の場合は「倍率方式」を用いて、解説したとおりに相続税評価額を算出しましょう。
土地種類別の評価額を算出するときは、この「更地としての評価額」を基準に計算を進めていくことになります。
自宅が建っている場合
相続した土地に被相続人の自宅が建っている場合は、「小規模宅地等の特例」が適用されます。この特例を適用すれば、330㎡を限度に相続税評価額が最大80%減額されるため、高い節税効果が得られます。
例えば、更地の相続税評価額が1,000万円の土地に住宅が建っている場合、評価額を最大200万円まで減額できるというわけです。
小規模宅地等の特例を適用するための要件は、次のとおりです。
- 被相続人が居住していた宅地であること
- 相続人が配偶者・同居親族・家なき子※のいずれかであること
※家なき子は、第三者所有の建物に賃貸暮らししており、相続開始前3年間に持ち家に住んでいない人を指す。
※※出典:国税庁「No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)」
相続人が配偶者の場合は、そのまま小規模宅地等の特例が適用されます。相続人が同居親族の場合は相続税の申告期限まで居住・所有継続、家なき子の場合は所有継続を条件に特例が適用されます。
なお、家なき子についてはこちらの記事でも紹介していますので、あわせてご覧ください。
家なき子特例とは?小規模宅地等の特例を使うための条件や考え方を解説
アパート・マンションが建っている場合
相続した土地にアパートやマンションなどの賃貸住宅が建っている場合は、「貸家建付地」に分類され相続税評価額を減額できます。貸家建付地とは、所有地に賃貸用の建物を建てて、第三者に貸し出している土地です。
貸家建付地の評価額は、次のように計算されます。
貸家建付地の評価額=自用地としての価額-(自用地としての価額×借地権割合×借家権割合×賃貸割合) |
貸家建付地に分類される土地は、さまざまな割合に応じた控除を受けられるため、相続税評価額が低くなるというわけです。
また、賃貸住宅が建っている土地の場合も、200㎡を限度に「小規模宅地等の特例」を受けられます。減額割合は50%と自宅ほど高くありませんが、貸家建付地としての減額とあわせると、大きな節税効果を得られるでしょう。
貸家建付地については、こちらの記事で詳しく説明しています。あわせてチェックしておきましょう。
貸家建付地とは?要件や相続税評価額の計算方法をわかりやすく解説
※出典:国税庁「No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)」
駐車場・借家などがある場合
相続した土地に駐車場や借家があり法人に貸し出している場合は、「貸付事業用宅地等」に分類され、200㎡を限度に相続税評価額が50%減額されます。
ただし、個人に貸し出している自営駐車場の場合、貸付事業用宅地等に該当すると判断されないケースがあります。自営の青空駐車場を貸付事業用宅地等として認めてもらうには、敷地内にパーキングメーター・舗装などの構造物が必要です。
※出典:国税庁「No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)」
相続税全体の計算の流れ
土地・不動産の相続税評価額が算出できたら、相続税の計算に入っていきましょう。
相続税は土地や不動産だけではなく、すべての相続財産を対象に計算します。ここでは、相続財産全体にかかる相続税の計算方法を3つのステップで紹介します。
遺産総額を計算する
まずは、相続した遺産の総額を算出します。この際、考慮しなければいけないのは次の4つです。
- プラスの遺産(預貯金や有価証券、土地、債権 など)
- マイナスの遺産(借入金、預り金、未払い金 など)
- 相続財産から控除できる費用(葬式費用、未払いの入院費用 など)
- 非課税枠がある財産(生命保険、退職手当金 など)
遺産総額は、上記の4つを使って次のように計算します。
遺産総額=プラスの財産-(マイナスの財産+控除できる費用+非課税の財産) |
まずはプラスの財産の総額を計算して、そこから債務や葬儀費用、生命保険金などを差し引いて遺産総額を計算します。
法定相続人の人数をもとに基礎控除額を計算する
次に、法定相続人の人数をもとに基礎控除額を計算しましょう。基礎控除額が相続した遺産の総額以上の金額になる場合、相続税は発生しません。
基礎控除額の計算方法は、次のとおりです。
基礎控除額=3,000万円+600万円×法定相続人の数 |
例えば、遺産総額が3,000万円で法定相続人が2人だった場合、基礎控除額は「3,000万円+600万円×2=4,200万円」となります。この場合、遺産総額よりも基礎控除額のほうが高くなるので、相続税は非課税になるのです。
相続税の総額を出す
最後に、各相続人が納めるべき相続税を算出します。
相続税は、次の3ステップで計算されます。
課税遺産総額=遺産総額-基礎控除額各相続人の法定相続分に応じた取得金額 =課税遺産総額×法定相続分相続税 =各相続人の法定相続分に応じた取得金額×税率-控除額 |
ポイントは、最初に算出した遺産総額から基礎控除を差し引いた「課税遺産総額」を、法定相続分で割ってから税率をかける点です。課税遺産総額にそのまま税率をかけるわけではない点に注意しましょう。
なお、相続税の税率は表のとおりです。
法定相続分に応じた取得金額 | 税率 | 控除額 |
1,000万円以下 | 10% | – |
1,000万円超から3,000万円以下 | 15% | 50万円 |
3,000万円超から5,000万円以下 | 20% | 200万円 |
5,000万円超から1億円以下 | 30% | 700万円 |
1億円超から2億円以下 | 40% | 1,700万円 |
2億円超から3億円以下 | 45% | 2,700万円 |
3億円超から6億円以下 | 50% | 4,200万円 |
6億円超 | 55% | 7,200万円 |
相続税の総額は、各相続人の法定相続分に応じた相続税を合計した金額になります。
なお、遺産を相続するのが配偶者や未成年などだった場合、算出した相続税からさらに税額を減免したり一定額を控除したりすることが可能です。
土地・不動産の相続で使える控除や特例
最後に、土地・不動産の相続税対策で活用できる控除や特例について紹介します。
少しでも相続税の負担を抑えるために、使える控除や特例はしっかりと活用していきましょう。
小規模宅地等の特例
小規模宅地等の特例は、被相続人が居住していた自宅や、事業用に使用していた土地を相続したときに利用できる特例です。
小規模宅地等の特例を適用すれば、用途に応じて土地の相続税評価額が50~80%減免されます。評価額が大幅に下がるため、課税遺産総額を基礎控除以下に収まるケースが多くなります。
特例を利用するには、要件を満たしたうえで「小規模宅地等に係る計算の明細書」や遺産分割協議書の写しを提出しなければいけません。希望する方は、国税庁のホームページで細かい要件や必要書類を確認しておきましょう。
※参考:国税庁「No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)」
配偶者の税額減免
配偶者の税額減免は、被相続人の配偶者に適用される制度です。
被相続人の配偶者は、次のうちどちらか多い金額まで相続税が課税されません。
- 1億6千万円
- 配偶者の法定相続分相当額
なおこの制度は、遺産分割などで配偶者が実際に取得した財産をもとに適用されます。相続税の申告期限までに遺産分割が行われていない場合は、対象にならない点に注意が必要です。
適用を受けるときは、税額軽減の明細を記載した相続税の申告書または更正や戸籍謄本、遺言書や遺産分割協議書の写しなどを提出する必要があります。
また、「申告期限後3年以内の分割見込書」を提出したときや税務署長の承認を受けたときに限り、申告期限を過ぎたあとも税額軽減を受けることが可能です。
※参考:国税庁「No.4158 配偶者の税額の軽減」
未成年者控除・障害者控除
相続人が未成年もしくは障害者の場合も、相続税から税額を控除する制度を利用できます。控除できる金額は、次のとおりです。
- 未成年の場合:成年に達するまでの年数×10万円
- 一般障害者の場合:85歳に達するまでの年数×10万円
- 特別障害者の場合:20万円
上記の控除額が相続税額よりも大きくなるときは、未成年者・障害者の扶養義務者が負担する相続税からも控除することが可能です。控除適用後に相続税が非課税となる場合は、相続税の申告書を提出する必要はありません。
※参考:国税庁「No.4164 未成年者の税額控除」「No.4167 障害者の税額控除」
土地・不動産の相続税の計算なら税理士に相談を
土地や不動産を相続したときは、その物件に応じた計算方法で相続税評価額を算出しなければいけません。土地・不動産にかかる相続税の算出には複雑なプロセスが必要になるため、専門的な知識を持っていない人が正しく計算することは難しいでしょう。
利用できる控除や特例を適切に活用しなければ、相続税の納付で損をしてしまう可能性があります。土地・相続税を相続したときの申告や手続きは、専門知識を持ったプロに相談することがおすすめです。
「相続税申告相談プラザひろしま」では、相続と向き合い30年以上の専門家が相続手続きのサポートを実施しています。土地・不動産の相続でわからないことやお困りのことがあれば、お気軽にご相談ください。