相続税の基礎控除とは?計算方法や間違えやすいポイントを解説

相続財産は相続税の対象となりますが、すべてのケースで相続税の申告・納付が必要になるわけではありません。なぜなら、相続税の計算には非課税枠である「基礎控除」が適用されるためです。

相続した遺産の総額が基礎控除額を下回っている場合、相続税の申告・納付は不要となります。そのため、相続税を計算するときは基礎控除に関する正しい知識を身につけておくことが大切です。

この記事では、基礎控除の詳しい計算方法や注意点について解説します。

相続税の基礎控除とは

相続税の基礎控除とは、相続税の課税対象となる財産のうち、一定額までの部分が非課税となる制度です。簡単にいうと、遺産総額から差し引ける「非課税枠」のことを指します。

相続税は、基礎控除額を超える財産に対して課せられる仕組みです。つまり、遺産総額が基礎控除額を下回っていれば、原則として相続税の申告は不要ということです。

なお、基礎控除の金額は法定相続人の数によって変動します。相続人の状況ごとに詳細な金額は異なるので、「ご自身のケースで基礎控除がいくらになるのか」を把握することが大切です。

相続税の基礎控除の計算方法

相続税の基礎控除は、次の式で計算されます。

基礎控除額=3,000万円 + (600万円×法定相続人の数)

法定相続人が3人の場合は、「3,000万円+ (600万円×3人)=4,800万円」の基礎控除が受けられるというわけです。

なお基礎控除の金額は、2015年の税制改正により変更されました。法改正前の基礎控除額は「5,000万円 + (1000万円 × 法定相続人の数)」で計算されていたので、現在は金額が大幅に縮小されている点に注意が必要です。

ここからは、相続税の基礎控除を計算するときのポイントについてより詳しくみていきましょう。

※出典:国税庁「相続税 改正

法定相続人の数え方

法定相続人とは、民法に定められた「相続権を有する者」のことです。家族構成によって異なりますが、基本的には配偶者と直系卑属(子どもや孫)、直系尊属(親)が法定相続人となります。

また、法定相続人には次のような順位があり、上位の人から法定相続人になります。

  • 常に相続人:配偶者
  • 第1順位:子ども(直系卑属)
  • 第2順位:父母(直系尊属)
  • 第3順位:兄弟姉妹

被相続人の配偶者は、常に相続人になります。つまり、被相続人に子どもが2人いる場合は、「配偶者+子ども2人」の合計3人が法定相続人に該当するということです。

下位の人が法定相続人になれるのは、上位の人がいない場合です。また、順位が同じ法定相続人が何人かいるときは、その全員が相続人になります。

※出典:国税庁「No.4132 相続人の範囲と法定相続分

基礎控除額早見表

ここには、相続税の基礎控除額の早見表を掲載します。

ぜひ、ご自身に適用される基礎控除の金額を計算する際にお役立てください。

法定相続人の数基礎控除額(円)
1人3,000万円+(600万円×1人)=3,600万円
2人3,000万円+(600万円×2人)=4,200万円
3人3,000万円+(600万円×3人)=4,800万円
4人3,000万円+(600万円×4人)=5,400万円
5人3,000万円+(600万円×5人)=6,000万円
6人3,000万円+(600万円×6人)=6,600万円
7人3,000万円+(600万円×7人)=7,200万円
8人3,000万円+(600万円×8人)=7,800万円
9人3,000万円+(600万円×9人)=8,400万円
10人3,000万円+(600万円×10人)=9,000万円

このように、法定相続人の人数が増えるほど基礎控除の金額も増えていきます。相続税の負担を軽減するためにも、基礎控除の制度をしっかりと活用していきましょう。

特殊なパターンの相続税の基礎控除額の計算方法

基礎控除額の金額を算出するのはそこまで難しいことではありませんが、一部計算が複雑になる特殊なケースも存在しているため注意しましょう。

基礎控除を計算するときに気をつけたい特殊なパターンは、次のとおりです。

  • 法定相続人に養子が含まれる場合
  • 代襲相続が発生した場合
  • 相続放棄や相続失格・廃除の人がいる場合

以下で、それぞれのケースについて詳しく解説します。

法定相続人に養子が含まれる場合

法定相続人に養子が含まれる場合、養子は実子と同じように法定相続人として数えることが可能です。

ただし、法定相続人として数えられる養子の人数には、次のような上限があります。

  • 実子がいる場合:1人まで
  • 実子がいない場合:2人まで

民法には養子の数に関する制限はありませんが、基礎控除を計算するときは制限を受ける点に注意しましょう。

※出典:国税庁「No.4170 相続人の中に養子がいるとき

代襲相続が発生した場合

代襲相続とは、本来相続人となるべきだった人が亡くなり、代わりにその人の子どもが相続することを指します。具体的には、被相続人の子どもが亡くなり、孫が相続人となるケースが該当します。

この場合、代襲相続人も法定相続人の数に含めて計算しなければいけません。例えば、配偶者と子ども2人がいて、子どものうち1人が死亡している場合、配偶者と存命の子ども、死亡している子どもの子ども(被相続人の孫)が法定相続人となるわけです。

代襲相続が発生すると、法定相続人の数え方が複雑になります。それに伴い基礎控除額の計算も難しくなるため、正しい知識を身につけることが大切です。

相続放棄や相続失格・廃除の人がいる場合

相続人の中に相続放棄した人がいる場合でも、基礎控除を計算するときは法定相続人に含めます。例えば、配偶者と子ども2人が法定相続人で、子ども1人が相続放棄したとしても、基礎控除を計算するときは法定相続人が3人いるとカウントするということです。

一方で、相続失格・廃除となった相続人がいるとき、その人は基礎控除の法定相続人から除外されます

相続放棄と相続失格・廃除では取り扱いが大きく異なるので、しっかりと区別しておきましょう。

相続税基礎控除額を計算する際の注意点

基礎控除額を計算するときは、以下のポイントに注意が必要です。

  • みなし財産などの漏れがないか
  • 相続時暦年課税制度を使ったか
  • 亡くなる3年以内に贈与がなかったか

正しく納税するためにも、上記の項目を詳しく確認していきましょう。

みなし財産などの漏れがないか

みなし財産とは、被相続人の死亡をきっかけに受け取る財産です。例えば、死亡保険金や死亡退職金が該当します。

みなし財産は民法上の財産ではありませんが、相続税制上は相続税の課税対象に含まれます。申告漏れがあると追徴課税の対象となるので気をつけましょう。

また、見落としがちな次のような財産も相続税の課税対象となります。

  • へそくりなどの現金
  • 被相続人が配偶者や子どもなどの名義で開設した口座
  • 宝石や美術品
  • 債権 など

なかには、家族が「財産」であると気づきにくいものもあります。相続税の課税対象に含まれるのか判断に迷うときは、税理士などのプロに相談することがおすすめです。

相続時精算課税制度を使ったか

相続時精算課税制度とは、「贈与財産の価額(相続時精算課税適用財産)」と「相続財産の価額」の合計金額から相続税を計算する制度です。生前贈与に課される贈与税を、相続税の計算時まで先送りできる制度だと考えるとわかりやすいでしょう。

この制度を利用すると、2,500万円までの贈与が非課税となり、2,500万円を超える部分に一律20%の税率が適用されます。相続時精算課税制度を適用するときは、最初に贈与を受けた年の翌年3月15日までに、税務署長へ「相続時精算課税選択届出書」を提出しましょう。

なお、相続税を計算する際に、贈与財産と相続財産を合算した金額が基礎控除額以下であれば、相続税の申告は不要です。

ただし、贈与財産に関してすでに納めた贈与税がある場合は、相続税の申告をすると還付を受けられる可能性があります。該当する方は、忘れずに相続税の申告を行っておきましょう。

※出典:国税庁「No.4103 相続時精算課税の選択」、国税庁「相続時精算課税の選択と相続税の申告義務

相続時精算課税制度についてはこちら

亡くなる3年以内に贈与がなかったか

被相続人が亡くなる前の贈与は、「生前贈与」として相続税の課税対象になりません。しかし、暦年課税制度を利用して被相続人が亡くなる前3年以内に行われた贈与は、相続税の対象になるため注意しなければいけません。

例えば、親が子どもに過去7年にわたって毎年100万円を贈与してから亡くなったとします。この場合は「100万円×4年=400万円」は相続税の対象とならず、「300万円×3年=300万円」は相続税の対象になるということです。

たとえ相続財産が基礎控除内だったとしても、3年以内の贈与分を含めると基礎控除を超えるケースは少なくありません。相続税の申告漏れがないよう、十分に気をつけましょう。

なお、2024年の税制改正により、相続税が課される生前贈与の期間が7年へ順次変更されます。令和6年1月1日以降に贈与によって取得する財産に適用されるので、生前贈与を検討している方はしっかりと押さえておきましょう。

※出典:国税庁「令和5年 相続税及び贈与税の税制改正のあらまし

相続税基礎控除以外の控除枠

相続税には、基礎控除以外にもさまざまな控除が適用可能です。

主な控除枠として、次の5つが挙げられます。

  • 配偶者の税額軽減
  • 小規模宅地等の特例
  • 未成年者控除
  • 障害者控除
  • 暦年課税分の贈与税額控除

上記の控除を適用すれば、相続税の負担を大幅に軽減できます。ここでは、各控除について詳しくみていきましょう。

配偶者の税額軽減

配偶者の税額軽減は、被相続人の配偶者が財産を相続する際に相続税の負担を軽減できる制度です。

この制度を利用すると、配偶者が相続する財産に関して、次のうちどちらか多い金額までは相続税がかかりません。

  • 1億6,000万円
  • 配偶者の法定相続分相当額

例えば、被相続人の財産が2億円で、配偶者の法定相続分が2分の1の場合、1億円までは相続税が非課税となります。

なお、配偶者の税額軽減には次のような適用要件があります。

  • 戸籍上の配偶者である
  • 税務署に相続税の申告を行っている
  • 相続税の申告期限までに遺産分割が済んでいる

控除の対象となるのは、遺産分割を行って配偶者が実際に取得した財産のみです。相続税の申告期限までに分割されていない財産は、対象外となるので注意しましょう。

※出典:国税庁「No.4158 配偶者の税額の軽減

配偶者の税額軽減についてはこちら

小規模宅地等の特例

小規模宅地等の特例は、被相続人が住んでいた自宅や、事業に使用していた宅地等を相続するときに適用できる制度です。この特例を使えば、対象となる宅地の評価額を最大80%減額できます。

特例を受けるための要件は、次のとおりです。

土地の種類要件
被相続人が住んでいた土地【配偶者】特になし
【同居親族】相続税の申告期限まで居住・保有している
【上記以外の親族】・日本国籍である・被相続人に配偶者がいない・被相続人と同居している法定相続人がいない・相続開始前の3年間に自分や配偶者、親族が所有する家に住んでいない・相続開始時にこの特例を受ける親族が住んでいた家を過去に所有していない
被相続人と生計を一にする親族が住んでいた土地【配偶者】特になし
【被相続人と生計を一にする親族】相続税の申告期限まで居住・保有している
※出典:国税庁「No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)

不動産は特に評価額が高くなりやすいため、特例を適用できれば大幅な節税効果が得られるでしょう。ただし、軽減できる税額が大きい制度だからこそ、厳しい要件が定められている点に注意が必要です。

小規模宅地等の特例についてはこちら

未成年者控除

未成年者控除は、未成年者が相続人となる場合に相続税額が減免される制度です。

控除される相続税額は、次の式で算出されます。

未成年者控除額=(18歳-相続時の年齢)×10万円

未成年控除は、未成年者が18歳になるまでの年数に応じて、相続税額から直接控除される点が特徴的です。例えば、15歳の未成年者が相続人になる場合、「(18歳-15歳)×10万円=30万円」が相続税から控除されます。

未成年控除の適用を受けるには、次の要件を満たす必要があります。

  • 日本国内に住所がある
  • 相続や遺贈で財産を取得したときに18歳未満である
  • 法定相続人である

なお、未成年控除の金額が相続税額よりも大きいときは、控除しきれなかった金額を未成年の扶養義務者の相続税から差し引くことが可能です。

※出典:国税庁「No.4164 未成年者の税額控除

障害者控除

障害者控除は、相続人が障害者の場合に相続税が減免される制度です。障害者手帳を取得している方や、市区町村長などから認定を受けている方が対象となります。

控除される相続税額は、次の式で算出されます。

一般障害者:(85歳-相続開始時の年齢)×10万円
特別障害者:(85歳-相続開始時の年齢)×20万円

障害者控除では、その方が85歳になるまでの年数に応じて、相続税額から直接控除が受けられます。例えば、相続人が50歳の一般障害者の場合、「(85歳-50歳)×10万円=350万円」が相続税から控除されます。

なお、障害者控除の適用要件は次のとおりです。

  • 日本国内に住所がある
  • 相続や遺贈で財産を取得したときに障害者である
  • 法定相続人である

相続税額よりも障害者控除の額が大きくなったときは、相続人の扶養義務者の相続税から控除しきれない金額を差し引くことが可能です。

※出典:国税庁「No.4167 障害者の税額控除

障害者控除についてはこちら

暦年課税分の贈与税額控除

暦年課税分の贈与税額控除は、暦年課税で贈与を受けて「生前贈与加算」の対象となった方が使える制度です。この制度を利用すれば、贈与時に支払った贈与税を相続税計算時に差し引くことができます。

暦年課税とは、1年間に行われた贈与のうち、基礎控除である110万円を差し引いた金額に対して贈与税を計算する課税方法です。例えば、年間200万円の贈与を受けた場合は、「200万円-110万円=90万円」が課税対象となります。

相続開始前3年以内に暦年課税の贈与を受けると、贈与財産の価額が相続財産の価額に加算され、相続税の課税対象となってしまいます。これが、相続税の「生前贈与加算」です。

贈与税の基礎控除を超えた贈与財産に関しては、贈与時すでに税金が課されています。生前贈与加算の際に再度相続税を納めると二重課税になってしまうので、控除を行って税額を調整することが可能です。

※出典:国税庁「No.4161 贈与財産の加算と税額控除(暦年課税)

相続税の控除額計算なら税理士にご相談ください

相続税を申告するときは、適切に控除額を計算して正しい納税額を算出する必要があります。基礎控除や各種控除には複雑な計算や要件に関する知識が不可欠なので、わからないことがあるときは税理士に相談しておくと安心です。

税理士であれば、相続対策や控除適用の判断など、相続税の負担を軽減できるアドバイスを行うことが可能です。相続税の負担軽減には生前贈与も有効なので、相続が発生する前の方もぜひ税理士をご活用ください。

相続税申告相談プラザひろしま」では、相続と向き合い30年以上の専門家が相続手続きのサポートを実施しています。基礎控除額でわからないことやお困りごとがあれば、お気軽にご相談ください。