株式の名義変更|手続き方法や税金について生前・相続別に解説!

家族が所有する株式を配偶者や子どもなどが受け継ぐ場合は、名義変更の手続きが必要になります。株式の名義変更の方法は、生前に行う場合と死後に行う場合で大きく異なるため注意が必要です。

この記事では、株式の名義変更手続きについて紹介します。手続きのタイミングによる違いやメリット・デメリットを知って、相続対策につなげましょう。

相続対策としての株式の名義変更の考え方

株式の名義変更は、行うタイミングによって取り扱われ方が大きく異なります。生前の名義変更は「贈与」、死後の名義変更は「相続」になるため、それぞれに適した手続きを行わなければいけません。

相続対策として株式の名義変更を行う場合は、贈与と相続の違いをしっかりと理解しておくことが大切です。それぞれのメリット・デメリットをまとめると、表のようになります。

メリットデメリット
生前の株式の名義変更本人の意思を尊重できる比較的手続きが簡単相続トラブルを防げる死後の名義変更よりも税負担が重くなる場合があるタイミングによっては相続税がかかる被相続人が認知症の場合は手続きができない
死後の株式の名義変更贈与税よりも税率が低い基礎控除の金額が大きい比較的手続きが複雑

まずは、贈与と相続における株式の名義変更の違いについてみていきましょう。

生前の株式の名義変更は贈与税

生前に株式の名義変更をした場合は「生前贈与」であると判断され、受取人(受贈者)に贈与税の支払い義務が生じます。贈与税は、個人が無償で財産の贈与を受けるときに課される税金のことで、1月1日から12月31日までに発生した贈与に応じて計算されます。

なお、贈与税には「暦年課税」と「相続時精算課税」という2種類の課税方法があり、受贈者はどちらを適用するかを選択することが可能です。各課税方法の違いは、次のとおりです。

暦年課税項目相続時精算課税
1年間の贈与額から基礎控除額(110万円)を差し引き、税率を乗ずる制度概要2,500万円までの贈与税を免除して、相続時に相続財産と合算して相続税を計算する制度
(贈与額-基礎控除)×超過累進課税-控除額計算方法(贈与額-基礎控除-特別控除)×20%
10〜55%税率一律20%
誰でも贈与者贈与対象年の1月1日時点で60歳以上の直系尊属
誰でも受贈者贈与対象年の1月1日時点で20歳以上の推定相続人
年間110万円(基礎控除)非課税枠年間110万円(基礎控除)2,500万円(特別控除)
贈与税申告書※110万円未満は申告不要申告に必要な書類贈与税申告書相続時精算課税選択届出書※110万円未満は申告不要
相続税の対象にならない ※死亡前7年の持ち戻し期間あり贈与者が死亡した場合相続財産に加算したうえで相続税を計算する
なし回数制限なし
※出典:国税庁「No.4408 贈与税の計算と税率(暦年課税)」「No.4103 相続時精算課税の選択」「令和5年度 相続税及び贈与税の税制改正のあらまし

従来、相続時精算課税の非課税枠は特別控除の2,500万円のみでしたが、令和5年度に税制改正が行われ、年間110万円の基礎控除枠が設けられました。これにより、暦年課税・相続時精算課税どちらの制度を利用する場合でも、年間110万円までの贈与であれば贈与税・相続税は課されなくなっています。

死後の株式の名義変更は相続税

死後に株式の名義変更をする場合は、相続した人に相続税の支払い義務が生じます。相続税は、亡くなった方から一定額以上の財産を受け継ぐときに課される税金です。

相続税は、次の手順で算出されます。

プラスの財産から債務などを差し引いた正味の遺産額を算出する「正味の財産-基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人の人数)」で課税遺産総額を算出する課税遺産総額を法定相続分で分割した場合の合計相続税を計算する実際の相続割合に応じて各人の相続税額を計算する
※出典:国税庁「No.4152 相続税の計算

相続税の特徴は、計算時に適用される基礎控除額が大きい点です。名義変更を行う株式の価額を含む遺産総額が基礎控除額以下であれば、相続税は発生しません。

遺産総額が基礎控除額を超える場合は、基礎控除額を差し引いた課税遺産総額に10~55%の税率を乗じて相続税を計算します。

株式の名義変更は上場株式と非上場株式で手続きが異なる

株式の名義変更は、上場株式と非上場株式で必要になる手続きの内容が異なります。

スムーズに名義変更を行えるよう、それぞれどのような手続きが必要になるのか把握しておきましょう。

上場株式の手続き方法

上場株式の名義変更は、取引を行っている証券会社を通じて行います。この際、1,000~2,000円程度の移管手数料がかかる場合があります。

詳細な手続き方法は証券会社によって異なりますが、一般的な流れは次のとおりです。

  1. 受贈者(相続人)名義の証券口座を用意する
  2. 証券会社に連絡して名義変更に必要な書類を郵送してもらう
  3. 名義変更の申請書と添付書類を準備する
  4. 書類を証券会社に提出する

株式の名義変更を行う際、贈与者(被相続人)の証券口座をそのまま引き継ぐことはできません。そのため、株式を受け取る方の証券口座をあらかじめ準備しておく必要があります。

非上場株式の手続き方法

非上場株式とは、東京証券取引所などに上場していない未公開株を指します。中小企業はもちろん、大企業のなかにも非上場株式は多く存在しており、企業の役員やオーナーなどが株式を保有しているケースが一般的です。

非上場株式の名義変更手続きを行う手順は、次のとおりです。

  1. 定款で譲渡制限や名義変更の方法を確認する
  2. 必要な書類を準備する
  3. 定款に規定された流れに沿って手続きを進める

非上場株式は、証券会社を通さず会社で直接株主の管理が行われるため、各株式を発行している会社に対して名義変更の申請を行います。詳細な手続き方法や必要な費用は会社によって大きく異なるので、事前に定款や問い合わせにより確認しておきましょう。

贈与の場合の株式の名義変更

株式の名義変更を行うときの基本的な流れは紹介した通りですが、贈与の場合と相続の場合とでは、必要になる書類や注意したいポイントが異なります。

ここでは、株式を贈与する場合の名義変更手続きについて詳しくみていきましょう。

上場株式の名義変更

上場株式を贈与するときは、証券会社を通じて名義変更の手続きを行います。上場株式を贈与するときの一般的な名義変更手続きの方法は、次のとおりです。

  1. 受贈(相続人)名義の証券口座を用意する
  2. 証券会社に株式を生前贈与すると連絡する
  3. 証券会社に必要書類を提出する

必要書類としては、次のようなものが挙げられます。

  • 贈与手続き依頼書
  • 贈与契約書のコピー
  • 贈与者の印鑑登録証明書

なお、贈与で株式の名義変更を行う際は、受け取った株式の評価額に応じた贈与税を支払う必要があります。贈与された上場株式の場合、次のうちもっとも安い評価額が適用されます。

  • 課税日の最終価格
  • 課税月の最終価格の月平均額
  • 課税月の前月の最終価格の月平均額
  • 課税月の前々月の最終価格の月平均額

評価額が110万円以下であれば、贈与税の申告や支払いは不要です。評価額が110万円を超えている場合や相続時精算課税を希望する場合は、忘れずに申告を行いましょう。

非上場株式の名義変更

非上場株式を贈与するときは、各株式の発行会社が定めた手順で手続きを行います。手続きの内容や費用は会社ごとに異なるため、あらかじめ問い合わせておきましょう。

非上場株式を贈与するときの一般的な名義変更手続きの方法は、次のとおりです。

  1. 株式発行会社に名義変更を申し出る
  2. 税理士や会計士に依頼して株式評価を行う
  3. 取締役会や株主名簿の書き換えなどを行う
  4. 贈与人が名義変更手続きを行う

必要書類としては、次のようなものが挙げられます。

  • 贈与契約書
  • 取締役会議事録
  • 株主総会議事録 など

非上場株式の場合、株式を譲渡するときに発行会社の承認が必要となる「譲渡制限株式」に該当する可能性があります。個人の判断で自由に株式の名義変更を行うことはできないので、決められた手順で手続きを進めていきましょう。

また、贈与で非上場株式の名義変更をするときも贈与税の計算を行いますが、表のとおり評価額の計算方法が複雑になる点に注意しましょう。

経営権会社規模評価方法
【配当還元方式】株式を所有することで受け取る1年間の配当金額を、一定の利率で還元して元本の株式を評価する
大企業【類似業種比準方式】類似業種の株価をもとに、配当金額や利益金額、純資産価額を比準して評価する
中小企業【併用方式】類似業種比準方式と純資産価額方式を併用して評価する
零細企業【純資産価額方式】会社の資産や負債を相続税の評価に洗い替えて、総資産の価額から負債や評価差額に対する法人税額等相当額を差し引いた金額で評価する
※出典:国税庁「No.4638 取引相場のない株式の評価

贈与者や受贈者が非上場株式の評価額を計算することは難しいので、税理士や会計士に依頼して評価額や贈与税を計算することが一般的です。

なお、平成30年1月1日から令和9年12月31日までに行われる、事業承継を目的とした非上場会社の株式の贈与・相続に関しては、「特例事業承継税制」の対象となります。要件を満たせば納税の猶予・減免を受けられる可能性があるため、ご自身が該当するかどうか確認してみるとよいでしょう。

※参考:国税庁「非上場株式等についての贈与税・相続税の納税猶予・免除(法人版事業承継税制)のあらまし

相続時の株式の名義変更

次に、株式を相続する場合の名義変更手続きについて解説します。

相続の場合、手続きの進め方や必要な書類が少し複雑になるので、早めに準備を進めておくことが大切です。

上場株式の名義変更

上場株式を相続して名義変更するときの基本的な手続きは、以下のように贈与のときと同様です。

  1. 相続人名義の証券口座を用意する
  2. 証券会社に株式を生前贈与すると連絡する
  3. 証券会社に必要書類を提出する

ただし、次のように必要書類が多くなるため、手続きにはそれなりの時間がかかることは押さえておきましょう。

  • 株式名義書換請求書
  • 株券
  • 取引口座引き継ぎの念書
  • 相続人全員の同意書
  • 相続関係を示す戸籍謄本等
  • 相続人全員の印鑑証明書
  • 遺産分割協議書等

証券会社によって提出を求められる書類は異なります。あらかじめ確認のうえ、準備を進めてください。

なお、相続により株式の名義変更を行うときは、相続税の計算をするために株式の評価額を算出する必要があります。相続した上場株式の場合、次のうちもっとも安い評価額が適用されます。

  • 被相続人の死亡日の最終価格
  • 被相続人の死亡月の最終価格の月平均額
  • 被相続人の死亡月の前月の最終価格の月平均額
  • 被相続人の死亡月の前々月の最終価格の月平均額

株式を含む相続財産の評価額が基礎控除額(3,000万円+法定相続人の数×600万円)を超える場合は、期限内に相続税の申告と納税を行いましょう。

非上場株式の名義変更

非上場株式を相続して名義変更を行うときも、基本的な手続きの流れは以下のように贈与と同様です。

  1. 株式発行会社に名義変更を申し出る
  2. 税理士や会計士に依頼して株式評価を行う
  3. 取締役会や株主名簿の書き換えなどを行う
  4. 相続人が名義変更手続きを行う

必要になる主な書類は、上場株式と同様であるケースがほとんどです。しかし、企業によっては追加の書類が必要になることもあるので、念のため問い合わせておくと安心でしょう。

相続税を計算に用いる非上場株式の評価額は、贈与の場合と同様に「配当還元方式」「類似業種比準方式」「併用方式」「純資産価額方式」のいずれかとなります。また、一定の基準を満たせば「特例事業承継税制」を適用できます。

贈与者が認知症になると株式の名義変更はできない

株式の生前贈与は、贈与者が認知症になると行えなくなる点に注意しましょう。贈与者が認知症になると銀行や証券会社の口座は凍結されてしまい、名義変更手続きを行えなくなります。

証券会社や認知症の進行具合によって対応方法に多少の違いはありますが、基本的に配偶者や子どもというだけでは本人の代わりに取引や手続きを行うことはできません。認知症の方が所有する株式の名義を変更するには、成年後見人になっておく必要があります。

相続対策として株式の生前贈与を検討するのであれば、認知症リスクへの対応策も考えておかなければいけません。手続きが複雑化することを防ぐためにも、株式を含む財産の話は早めにしておくことをおすすめします。

株式の名義変更をして相続対策をするなら専門家に相談を

株式の名義変更は、上場株式なのか非上場株式なのかによって手続きが大きく異なります。また、生前贈与と相続では必要な書類が変わってくるため、「自分の場合はどうなのか」を理解したうえで名義変更を進めることが大切です。

株式の名義変更を行ったあとは、評価額に応じた贈与税や相続税を納付する必要があります。正しく税額を計算したり節税したりするには専門的な知識が必要になるため、税理士などの専門家に相談しながら手続きを行うと安心でしょう。

相続税申告相談プラザひろしま」では、相続と向き合い30年以上の専門家が相続対策のサポートを実施しています。株式の名義変更でわからないことやお困りごとがあれば、お気軽にご相談ください。