同居で相続税が軽減できる小規模宅地等の特例とは?要件も解説

「親と同居していた家を相続することになったけど、相続税はどれくらいかかるのだろう…」と、相続時に不安を感じる方は少なくありません。被相続人と同居していた土地を相続する方は、「小規模宅地等の特例」を適用することで、評価額を最大80%減額することが可能です。

ただし、節税効果が高い制度であるのと同時に、適用要件や手続きが複雑であることも事実なので、しっかりと制度のしくみを理解しておくことが大切です。

この記事では、小規模宅地等の特例の概要や適用要件、同居の定義について詳しく解説します。

小規模宅地等の特例とは

小規模宅地等の特例とは、相続税を計算する際に、一定の条件を満たす宅地の評価額を大幅に減額できる制度です。主に、被相続人の自宅や事業用の土地を相続した場合に使われ、土地の評価額を最大80%減額することが可能です。

土地の評価額が下がれば相続税額そのものが大幅に軽減されるので、適用できるかどうかで納税額が大きく変わるケースも珍しくありません。だからこそ、誰でも無条件で適用できるわけではなく、細かい条件や制限が設けられている点に注意が必要です。

小規模宅地等の特例が適用される3パターン

小規模宅地等の特例は、すべての土地に適用できるわけではありません。適用できるのは、被相続人が亡くなる前に使っていた土地のうち、一定の用途に該当するものに限られます。

ここでは、小規模宅地等の特例が適用される3つのパターンを紹介します。

※出典:国税庁「No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)

特定居住用宅地等

被相続人が生前に自宅として住んでいた土地は、特定居住用宅地等として本制度が適用されます。一軒家が立っている土地はもちろんのこと、マンションや二世帯住宅の敷地なども対象となります。

適用要件は、次のとおりです。

土地の種類相続人要件
被相続人が住んでいた土地配偶者特になし
同居親族相続税の申告期限まで居住・保有している
上記以外の親族・国内に住所を有している
・被相続人に配偶者がいない
・被相続人と同居している法定相続人がいない
・相続開始前の3年間に自分や配偶者、親族が所有する家に住んでいない
・相続開始時にこの特例を受ける親族が住んでいた家を過去に所有していない
・相続税の申告期限まで居住・保有している
被相続人と生計を一にする親族が住んでいた土地配偶者特になし
被相続人と生計を一にする親族相続税の申告期限まで居住・保有している

この土地を相続する際に、一定の要件を満たしていれば、評価額を最大80%まで減額できます。適用できる面積の上限は、330㎡までです。

例えば、親と同居していた子が自宅を相続するケースや、配偶者がそのまま住み続けるケースで適用されます。

特定事業用宅地等

被相続人が生前に事業用に使用していた土地を相続する場合、特定事業用宅地等として本制度の適用を受けられます。対象となるのは、自営業や法人事業などに使われていた土地で、飲食店や小売店、工場、倉庫などの敷地が該当します。

適用要件は、次のとおりです。

区分特例の適用要件
被相続人が事業に使っていた土地事業承継要件被相続人の事業を相続税の申告期限までに引き継ぎ、申告期限までその事業を営んでいること
保有継続要件その土地を相続税の申告期限まで所有していること
被相続人と生計を一にしていた親族が事業に使っていた土地事業承継要件相続開始の直前から相続税の申告期限まで、その土地で事業を営んでいること
保有継続要件その土地を相続税の申告期限まで有していること

上記の要件を満たす場合は、評価額を最大80%まで減額できます。なお、対象面積の上限は400㎡です。

ただし注意が必要なのは、事業の実態があることが前提となる点です。例えば、「名義だけ貸している」「賃貸に回している」という場合は対象外となります。また、自宅兼事務所については事業部分のみが対象となるので、評価の切り分けが必要になります。

相続税の申告期限までに事業を廃業したり土地を売却したりした場合は、特例の適用が取り消される可能性がある点にも気をつけましょう。

貸付事業用宅地等

被相続人が生前にアパートや駐車場など、不動産の貸付事業に使っていた土地も、貸付事業用宅地等として本制度の対象となります。一定の要件を満たせば、土地評価額を最大50%減額することが可能で、適用面積の上限は200㎡までです。

適用要件は、次のとおりです。

区分特例の適用要件
被相続人が貸付事業に使っていた土地事業承継要件その土地にかかる貸付事業を相続税の申告期限までに引き継ぎ、申告期限までその事業を営んでいること
保有継続要件その土地を相続税の申告期限まで所有していること
被相続人と生計を一にしていた親族が貸付事業に使っていた土地事業承継要件相続開始の直前から相続税の申告期限まで、その土地にかかる貸付事業を営んでいること
保有継続要件その土地を相続税の申告期限まで有していること

このケースでは、他の2つの特例に比べると要件が厳しくなっている点に注意しましょう。例えば、相続開始の直前3年以内に貸付を始めた場合は、原則としてこの特例は使えません。これは、節税目的の形式的な賃貸を防ぐためです。

また、対象となるのはあくまで「事業として継続的に行われていた貸付」です。そのため、たまたま空いていた土地を月極駐車場として貸していた程度では、適用が認められないケースもあります。

事業実態の有無や貸付期間、相続後の継続性など、実態にもとづいた厳しい要件判断が行われるので、税理士による事前の確認が不可欠です。

小規模宅地等の特例における同居の定義

「一緒に暮らしていれば必ず小規模宅地等の特例が使える」と考える方は多いかもしれませんが、税法上の「同居」の定義は非常に厳密です。ただ単に同じ建物に住んでいたというだけではなく、「被相続人と生活を共にしていた実態があるかどうか」が重視されます。

具体的には、以下のような条件を満たしているかどうかが重要な判断材料になります。

  • 住民票の所在地が同じか
  • 生活の拠点が被相続人と共通していたか(食事や家計の一部が一緒だったなど)

つまり、「住民票を移していただけ」や「たまたま一時的に住んでいただけ」といったケースでは、同居とみなされない可能性があるため注意が必要です。

適用要件

小規模宅地等の特例の適用要件に同居が含まれるかどうかは、相続人によって大きく異なります。

相続人要件
配偶者同居していなくても適用可能
同居親族もしくは同一生計親族生前から同居しており、相続税申告期限まで居住・所有している
被同居親族家なき子特例の要件を満たしている

また、同居の事実に加えて、「相続開始後もその宅地に引き続き住み続ける意思と実績があるか」も重要な要件のひとつです。相続後すぐに売却したり賃貸に出したりする場合は、たとえ同居していたとしても特例が適用されない可能性があります。

同居と認められるケースと認められないケース

それでは、同居と認められるケースと認められないケースには、それぞれどのようなものがあるのでしょうか。

ここでは、税務上「同居と認められるケース」「認められないケース」「条件付きで認められるケース」に分けて、具体例を示しながらわかりやすく解説します。

認められるケース

税務上、明確に「同居」と認められるのは、次のようなケースです。

  • 親と子が同居しており、家計も一部共有していた
  • 同じ家に長期間一緒に住み、生活実態があった
  • 相続人が単身赴任していた
  • 相続人が入院していた
  • 区分登記していない二世帯住宅に住んでいた

例えば、被相続人と相続人が同じ建物で、同じ住所(住民票)に登録され、一緒に生活を送っていた場合は、原則として同居とみなされます。このように、実態としての同居・生活の一体性が認められる場合は、特例の適用が受けられる可能性が高くなります。

認められないケース

「同居していたつもりだったけれど、制度が適用されなかった」というケースは決して少なくありません。これは、形式的には同居にみえても、実態が伴っていなければ「同居」と認められないことがあるためです

例えば、以下のようなケースは注意が必要です。

  • 実際には別居していたが、住民票だけ被相続人の住所に移した
  • 区分登記された二世帯住宅に住んでいた
  • 同じ土地に別々の建物を建てて住んでいた
  • 介護のため一時的に同居していたが、すぐに転居した
  • 週末のみ同居していた
  • 同居していたが、相続開始後にすぐ家を売却・賃貸に出した

これらのケースでは、税務調査で実態を調査されたときに「形式だけの同居」と判断されて、特例が否認されるリスクがあります。

条件付きで認められるケース

条件付きで同居だと認められるケースも、一部存在しています。その代表的な例として、被相続人が老人ホームに入居しているケースが挙げられます。

被相続人が老人ホームで生活し、そこで亡くなった場合であっても、以下の要件を満たしていれば同居として認めてもらうことが可能です。

  • 要支援、または要介護認定されていた
  • 老人福祉法等で認定された老人ホームに入居していた
  • 相続人が引き続き同居していた自宅に住んでいる
  • 空き家となった持ち家を賃貸に出していない

上記の要件を満たしていれば、たとえ被相続人が施設に入っていて実際には不在だったとしても、「居住の継続性があった」と判断されます。

反対に、被相続人が老人ホームに入居したあとに空き家に住み始めた場合、健康な状態で老人ホームに入居していた場合などは適用の対象外となります。

小規模宅地等の特例を受ける際の注意点

小規模宅地等の特例は、相続税を大幅に軽減できる非常にメリットの大きい制度です。しかし、適用には細かい要件やルールがあり、誤った理解や手続きの遅延によって適用が無効になるケースは少なくありません

特に注意すべきポイントとして、以下の3点が挙げられます。

  • 相続税申告が必須
  • 申告期限前に売却すると無効
  • 相続時精算課税に係る贈与で取得した宅地は対象外

それぞれどのようなことなのか、詳しくみていきましょう。

相続税申告が必須

小規模宅地等の特例を適用するには、相続税の申告を行う必要があります。たとえ、特例を適用することで納税額がゼロになるケースであっても、申告をしなければ特例は使えません。

相続税の申告期限は、相続開始(被相続人が死亡したことを知った日)から10か月以内です。期限に間に合わなければ、条件を満たしていても特例は適用されず、そのままの土地の評価額で相続税が計算されることになります。

そのため、相続が発生したら早めに遺産に土地が含まれるかを確認して、特例の適用可否を含めた申告準備を進めることが大切です。

申告期限前に売却すると無効

特例の適用を受けようとしている土地を相続税の申告期限までに売却すると、特例の対象外となる点に注意しましょう。なぜなら、小規模宅地等の特例は「一定期間その土地を引き続き利用していること」が前提条件となっているからです。

「とりあえず売ってしまっても特例だけは使えるだろう」と思い込んでしまうと、あとから大きな納税負担が発生するリスクがあります。どうしても売却しなければいけないときは、時期や方法を慎重に検討することが大切です。

相続時精算課税に係る贈与で取得した宅地は対象外

被相続人から生前贈与された宅地であっても、相続時精算課税制度を使って取得した場合は、小規模宅地等の特例が適用できない点にも注意が必要です。

小規模宅地等の特例は、「相続によって取得した宅地」のみが対象となるためです。相続時精算課税制度は相続財産とみなされるものの、税法上は「贈与」として扱われるので、対象外となります。

「相続税対策のつもりで生前贈与していたが、結果的に特例を受けられなかった」ということになれば、大幅に損をしてしまいます。贈与と相続のバランスを考えたうえで、節税対策の方法を考えていきましょう。

小規模宅地等の特例を受けるのに必要な書類

小規模宅地等の特例を適用するには、相続税の申告書とともに、必要な添付書類を正しく揃えることが不可欠です。提出書類に不備があると、特例が認められず、結果的に本来払う必要のなかった相続税を課されるリスクがあります。

ここでは、すべての方に必要な書類と、条件に応じて求められる追加書類についてみていきましょう。

※出典:国税庁「(参考) 相続税の申告の際に提出していただく主な書類

必須の書類

小規模宅地等の特例を受けるすべての方に必要となる書類は、以下のとおりです。

  1. 相続税の申告書
  2. 次のいずれかの書類
    • 被相続人の全ての相続人を明らかにする戸籍の謄本
    • 図形式の法定相続情報一覧図の写し
  3. 遺言書の写しまたは遺産分割協議書の写し 
  4. 相続人全員の印鑑証明書(遺産分割協議書に押印したもの)
  5. 申告期限後3年以内の分割見込書(申告期限内に分割ができない場合)

これらの書類は、被相続人が生前どこに住んでいたのか、誰が何を相続し、実際にどのように利用しているのかを証明するために使われます。

条件によって必要な書類

前項の書類以外にも、条件によって必要になる書類がいくつかあります。

土地の種類必要書類
特定居住用宅地等入所を証明する契約書の写しや介護認定証の写し
相続人が過去3年以内に、自分や配偶者が所有する家に住んだことがなく、一定の条件を満たす人が特例の適用を受ける場合・相続開始前3年以内における住所または居所を明らかにする書類
・平成30年4月1日以降の相続では、三親等内の親族や特定法人の所有する家屋にも該当しないことを証明する書類が追加で必要
被相続人が施設入所中だった場合・被相続人の戸籍の附票の写し
・入所を証明する契約書の写し
・介護認定証の写し
特定事業用宅地等該当する宅地が一定の郵便局舎の敷地である場合、総務大臣が交付した証明書
貸付事業用宅地等平成30年4月1日以降の相続で、相続開始前3年以内に新たに貸付事業に供された宅地等の場合、被相続人が相続開始日まで3年以上継続して貸付事業を行っていたことを証明する書類

このように、土地の種類によって必要となる書類は大きく異なります。

なお、上記の情報は2025年3月末時点のものです。詳細や最新情報については、国税庁の公式サイトや税務署で事前にご確認ください。​

小規模宅地等の特例を受けるなら税理士にご相談を

小規模宅地等の特例は、相続税の負担軽減効果が高い制度です。しかし、適用には細かい要件が設けられているので、判断を誤ると適用が認められなくなる可能性がある点に気をつけなければいけません

特に、被相続人が暮らしていた土地を相続するときは、「同居していたかどうか」が非常に重要視されます。同居と認められるための条件やその他の要件も非常に複雑で、ケースごとの判断が必要になるため、専門的な知見を持つ税理士に相談しながら手続きを進めることが大切です。

相続税申告相談プラザひろしま」では、相続と向き合い30年以上の専門家が相続手続きのサポートを実施しています。小規模宅地等の特例でわからないことやお困りのことがあれば、お気軽にご相談ください。