遺産を相続するときに課される相続税は、決してすべての人にとって申告・納付が必要なものではありません。相続税は「かかる場合」と「かからない場合」があるため、ご自身の状況に応じて判断することが大切です。
この記事では、相続税がどのような場合にかかるのかについて詳しく説明します。相続税を減免できる特例制度も解説するので、正しい税額の計算や節税にお役立てください。
相続税がかかるかどうかは人によって異なる
相続税がかかるかどうかは、人によって異なります。なぜなら相続税を計算するときは、相続人の数や状況に応じて控除が行われ、控除が相続財産を上回る場合があるためです。
わかりやすく言い換えると、相続税の申告・納付が必要になるのは「相続した財産>各種控除額」となる場合です。つまり、相続税がかかるかどうかを知るためには、相続財産と控除可能な金額を正確に把握する必要があります。
なお、相続した財産にはマイナスの財産や生前贈与の一部なども含まれるので、正しく把握するのは簡単なことではありません。また、各種控除には複雑な要件があるため、適用の際は専門的な知識が必要になります。
上記の理由により、相続税がかかる場合・かからない場合を一般の方が判断するのは難しいケースがほとんどです。正しく相続税を申告・納付するには、税理士などの専門知識を持ったプロのサポートが不可欠です。
相続税の基本的な計算方法
相続税の基本的な計算方法は、次のとおりです。
① 「プラスの遺産-マイナスの遺産」で正味の遺産総額を計算する ② 「3,000万円+(600万円×法定相続人の数)」で相続税の基礎控除を計算する ③ 「遺産総額-基礎控除」で課税遺産総額を計算する法定相続分に従って課税遺産総額を分割する ④ 分割した課税価格に税率をかけて各人の仮の相続税を算出する ⑤ 各人の仮の相続税を合計して相続税の総額を算出する ⑥ 相続税の総額を実際の相続割合に応じて按分する ⑦ 控除や加算を反映して納付税額を算出する |
相続税を計算するときは、正味の遺産総額から基礎控除(3,000万円+(600万円×法定相続人の数))を差し引いた「課税遺産総額」を算出する必要があります。遺産総額よりも基礎控除の金額が大きくなり、課税遺産総額がマイナスになった場合は、相続税の申告と納付は必要ありません。
つまり、相続人が1人以上いる場合、理論上は相続財産が3,600万円以内であれば相続税はかからないということです。
相続財産が3,600万円を超えても相続税がかからないケース
前項で「相続財産が3,600万円以内であれば相続税はかからない」と説明しましたが、実は遺産が3,600万円以上あっても相続税がかからないケースがあります。
どのような場合であれば相続税が発生しないのか、2つのケースに分けて説明します。
基礎控除額以内の相続財産を相続した場合
基礎控除額以内の財産を相続した場合は、相続税は課されません。
相続税の課税対象となる遺産総額は、正味の遺産総額から基礎控除を差し引いて算出されます。基礎控除は「3,000万円+(600万円×法定相続人の数)」で計算されるので、法定相続人の数が多いほど基礎控除の額も大きくなっていきます。
例えば、法定相続人が3人の場合、基礎控除額は「3,000万円+(600万円×3人)=4,800万円」です。この場合、相続財産が4,800万円以内であれば相続税はかかりません。
3,600万円という数字は、あくまで相続人が1人の非課税枠です。相続人が増えれば正味の遺産総額から差し引ける基礎控除の額は増加するため、遺産が3,600万円以上でも相続税がかからないケースがあるのです。
基礎控除額以上の相続財産を相続した場合
基礎控除額以上の財産を相続した場合でも、相続税が課されない場合があります。それが、各相続人の年齢や状況に応じた控除や特例が適用できるケースです。
遺産総額が基礎控除を超えた場合は、法定相続分に従って各人の仮の相続税を計算したあと、遺産総額を算出します。それから実際の相続割合に応じて相続税を按分しますが、相続人の状況によっては按分した相続税を減免することが可能です。
例えば、相続人が障害者や未成年の場合は、各々に課される相続税額から一定の金額を差し引くことができます。このときに「控除額>相続税額」となるときは、相続税を納める必要はありません。
他にも、相続人が配偶者だった場合や宅地を相続する場合は、一定の控除が受けられます。そのため、基礎控除額以上の財産を相続しても、相続税が発生しないケースは珍しくないのです。
基礎控除額を超えても相続税がかからないケース
相続財産が基礎控除額を超えても、他の控除や特例が適用されれば相続税が減免されます。具体的に、次のような控除・特例が利用できれば、相続税が課されなくなる可能性があります。
- 配偶者控除
- 小規模宅地等の特例
- 未成年者控除
- 障害者控除
- 相次相続控除
各制度の詳細をみていきましょう。
配偶者控除
相続税の配偶者控除とは、被相続人の配偶者が財産を相続するとき、一定の金額までは相続税が免除される制度です。相続人が配偶者であれば、次のうちどちらか多いほうの金額までは相続税が発生しません。
- 1億6,000万円
- 配偶者の法定相続分相当額
※出典:国税庁「No.4158 配偶者の税額の軽減」
配偶者控除が適用されれば、ほとんどの場合で相続税が免除になるので、大きな節税効果が得られます。ただし、相続税の申告期限までに分割されていない財産に関しては、税額軽減の対象外になるため注意しましょう。
配偶者控除については、こちらの記事で詳しくご覧ください。
【関連記事】相続税における配偶者の税額軽減の計算方法を詳しく解説します
小規模宅地等の特例
小規模宅地等の特例は、被相続人が自宅や事業のために使用していた宅地等を相続するときに、評価額を最大80%下げられる特例です。相続税は財産の評価額に応じて計算されるので、大幅な節税効果が得られます。
特例を受けるための要件は、次のとおりです。
土地の種類 | 要件 |
被相続人が住んでいた土地 | 【配偶者】特になし 【同居親族】相続税の申告期限まで居住・保有している 【上記以外の親族】・日本国籍である・被相続人に配偶者がいない・被相続人と同居している法定相続人がいない・相続開始前の3年間に自分や配偶者、親族が所有する家に住んでいない・相続開始時にこの特例を受ける親族が住んでいた家を過去に所有していない |
被相続人と生計を一にする親族が住んでいた土地 | 【配偶者】特になし 【被相続人と生計を一にする親族】相続税の申告期限まで居住・保有している |
軽減できる税額が大きい制度だからこそ、厳しい適用要件が定められている点に注意しましょう。
未成年者控除
未成年者控除とは、相続人が未成年の場合に相続税額が減免される制度です。
未成年控除で減免される相続税額は、次の式で算出されます。
(18歳-相続時の年齢)×10万円 |
未成年控除の適用を受けるには、次の要件を満たす必要があります。
- 日本国内に住所がある
- 相続や遺贈で財産を取得したときに18歳未満である
- 法定相続人である
なお、上記の式で算出した控除額が相続税額よりも大きくなったときは、控除しきれなかった金額を未成年の扶養義務者の相続税から差し引けます。
障害者控除
障害者控除とは、相続人が障害者の場合に相続税が減免される制度です。障害者手帳を取得している方や、市区町村長などから認定を受けている方が対象となります。
障害者控除で減免される相続税は、次の式で算出されます。
一般障害者:(85歳-相続開始時の年齢)×10万円特別障害者:(85歳-相続開始時の年齢)×20万円 |
障害者控除の適用を受けるには、次の要件を満たす必要があります。
- 日本国内に住所がある
- 相続や遺贈で財産を取得したときに障害者である
- 法定相続人である
相続税額よりも障害者控除の額が大きくなったときは、未成年控除と同様に、相続人の扶養義務者の相続税から控除しきれない金額を差し引くことが可能です。
障害者控除については、こちらの記事で詳しくご覧ください。
【関連記事】相続税における障害者控除の適用条件とは?計算方法や注意点を解説
相次相続控除
相次相続控除とは、10年以内に2回以上相続が発生したとき、相続税の負担を軽減できる制度です。短期間に何度も相続が発生し、通常よりも税負担が重くなってしまうのを防ぐことが制度の目的です。
相次相続控除の金額は、次の式で算出されます。
A×C÷(B-A)×D÷C×(10-E)÷10 A:今回の被相続人が前の相続の際に課せられた相続税額B:今回の被相続人が前の相続の際に取得した純資産価額(取得財産の価額+相続時精算課税の適用を受ける財産の価額-債務および葬式費用の金額)C:今回の相続、遺贈や相続時精算課税にかかる贈与によって財産を取得したすべての人の純資産価額の合計額D:今回のその相続人の純資産価額E:前の相続から今回の相続までの期間(1年未満の期間は切捨て) |
相次相続控除の適用を受けるには、次の要件を満たす必要があります。
- 相続人であること
- 今回の相続の開始前10年以内に前回の相続が発生していること
- 今回の相続人が前回の相続でも相続税を課されていること
相次相続控除は節税に有効な制度ですが、要件の判定や控除額の計算が非常に複雑です。正しく制度を利用するためにも、税理士に相談することをおすすめします。
相続税の計算をするために必要な情報
相続税は「相続財産」と「法定相続人の人数」に応じて計算されるため、この2つの情報を正しく把握することが重要です。
ここでは、相続税の計算に不可欠な情報を集めるときのポイントをみていきましょう。
正しい相続財産の金額・評価
相続税を計算するときの基準となるのが、相続財産の金額や評価額です。相続が発生したら、まずは相続財産を正確に把握するところから始めましょう。
相続財産には、プラスの財産だけではなくマイナスの財産も含まれます。対象となる財産の一例は、次のとおりです。
項目 | 具体例 |
プラスの財産 | 現金・預金・土地・建物・株式・債権・自動車・骨とう品・ゴルフ会員権・知的財産権 など |
みなし財産 | 生命保険金・損害保険金・死亡退職金・相続開始前7年以内に被相続人から贈与された財産、信託受益権 など |
マイナスの財産 | 借金・未払い金・保証債務・連帯債務・公租公課 |
なお、次の財産は相続財産に含まれません。
- 生命保険金等や死亡退職金のうち、500万円に法定相続人の数をかけた金額までの部分
- 墓地や墓石、仏壇、仏具、神を祭る道具など日常礼拝をしているもの
- 公益を目的とする事業を行う一定の個人が相続した財産で、公益を目的とする事業に使われることが確実なもの
- 心身障害者共済制度に基づいて支給される給付金を受ける権利
- 個人で経営している幼稚園の事業に使われていた財産で一定の要件を満たすもの
- 国または地方公共団体や公益を目的とする事業を行う特定の法人に寄附したもの
- 相続税の申告期限までに特定の公益信託の信託財産とするために支出したもの
※出典:国税庁「No.4108 相続税がかからない財産」
特に注意が必要なのは、土地や建物などの不動産です。価値がわかりやすい現金などとは異なり、相続税評価額から価値を算出する必要があるため、取り扱う際は専門的な知識が必要になります。
正確な相続人の人数
民法によって定められた「遺産を相続できる人」のことを法定相続人と呼びます。
法定相続人の数は、相続税の基礎控除や生命保険金・死亡退職金の非課税枠を計算するときに必要となる情報です。相続が発生したときは、正確な法定相続人を把握しておくことが大切です。
ただし、遺言書や遺産分割協議の内容によっては、法定相続人以外が相続人になることもあります。
相続人を正確に把握できないまま遺産分割をしてしまった場合、あとから再度協議や税負担が発生するなど、複雑な問題が発生します。戸籍謄本や遺言書をしっかりと確認し、相続人を明確にしておきましょう。
計算が難しければ専門家へ相談を
遺産を相続したときは、相続財産と法定相続人の数をしっかりと把握し、相続税がかかるのか・かからないのかを判断する必要があります。相続税がかかる場合でも、特例やその他の控除によって金額が減免されるケースがあるので、正しい知識を持って計算を行うことが大切です。
ただし、相続税の計算プロセスや各特例の適用要件は非常に複雑で、一般の方が正確に計算することは容易ではありません。不安な場合や節税したい場合は、専門的な知識を持った税理士に相談しておくと安心でしょう。
「相続税申告相談プラザひろしま」では、相続と向き合い30年以上の専門家が相続手続きのサポートを実施しています。相続税でわからないことやお困りごとがあれば、お気軽にご相談ください。