生命保険(死亡保険)に加入している方が亡くなると、家族の方はまとまった額のお金を手にすることになります。
遺された家族のために支払われる生命保険金ですが、他の財産と同様に相続税の課税対象になるのでしょうか。また、相続税の課税対象になる場合、生命保険にも基礎控除は適用されるのでしょうか。
この記事では、生命保険を受け取るときに知っておきたい相続税や基礎控除の知識を紹介します。非課税枠や節税のコツを知って、相続税の負担を軽減しましょう。
生命保険は相続税の対象になる
被相続人が亡くなったあとに受け取れる生命保険金(死亡保険金)は「みなし相続財産」として相続税の課税対象となります。生命保険金を受け取ったときは、忘れずに相続税の申告・納税を行いましょう。
ただし、どのようなケースでも生命保険金が相続税の対象となるわけではありません。相続税の課税対象になるかどうかは、生命保険の契約者(保険料を支払う人)と被保険人(保障の対象になる人)、保険金受取人によって異なります。
契約者 | 被保険人 | 保険金受取人 | 税金の種類 |
夫 | 夫 | 妻 | 相続税 |
妻 | 夫 | 妻 | 所得税・住民税 |
妻 | 夫 | 子 | 贈与税 |
上記のように、契約者と被保険者が同じ場合は「相続税」、契約者と保険金受取人が同じ場合は「所得税・住民税」、すべて異なる場合は「贈与税」が課されます。亡くなった方が同じでも、保険の契約者と保険金受取人によって発生する税金が異なることを押さえておきましょう。
みなし相続財産とは
生命保険金はもともと故人が所有していたお金ではないため、相続税が課されることに疑問を抱く方がいるかもしれません。たしかに生命保険金は故人の財産ではありませんが、「みなし相続財産」に含まれます。
みなし相続財産とは、本来は相続財産ではないものの、相続税法上、相続財産とみなされる財産のことです。次のように、被相続人の死亡をきっかけに取得する財産や、相続税から逃れるために利用される可能性がある財産が、みなし相続財産として指定されています。
- 生命保険金
- 死亡退職金
- 定期預金に関する権利
- 被相続人の死亡前3年以内に贈与された財産 など
なお、みなし相続財産は税法上では相続財産とみなされていますが、民法上の相続財産ではありません。遺産分割の対象にはならないので、指定された保険受取人が受け取れます。
死亡保険金の非課税枠
相続税は、受け取った死亡保険金の全額に課されるわけではありません。死亡保険金の受取人が相続人だった場合は、非課税限度額を超えた部分のみ相続税が発生します。
死亡保険の非課税限度額は、次の式で計算できます。
非課税限度額=500万円×法定相続人の数※ |
※養子を含める場合、実子がいる場合は1人、実子がいない場合は2人までカウントする
例えば、死亡保険金が3,000万円で相続人が2人だった場合、非課税限度額は「500万円×2人=1,000万円」となります。この場合は、3,000万円から1,000万円を差し引いた、2,000万円の部分が相続税の対象になるのです。
なお、相続人以外が死亡保険金を受け取った場合は、非課税枠の適用はありません。
※出典:国税庁「No.4114 相続税の課税対象になる死亡保険金」
死亡保険金が非課税になる2つのケース
死亡保険金が非課税になるのは、次の2つのケースです。
- 死亡保険金の非課税枠内に収まる
- 課税遺産総額が基礎控除額内に収まる
どのようなことなのか、詳しくみていきましょう。
ケース1 死亡保険金の非課税枠内に収まる
1つ目は、死亡保険金の非課税枠内に収まるケースです。
死亡保険金を相続人が受け取る場合は、「500万円×法定相続人の数」で算出された金額が非課税枠として適用されます。つまり、この計算で算出された非課税限度額よりも受け取った保険金が少ない場合は、相続税が発生しないということです。
例えば、死亡保険金が1,000万円で法定相続人が2人の場合は、「非課税限度額=500万円×2人=1,000万円」となります。この場合、非課税枠内に死亡保険金が収まるため、相続税は発生しません。
ケース2 課税遺産総額が基礎控除額内に収まる
2つ目は、課税遺産総額が基礎控除額内に収まるケースです。死亡保険金が非課税枠を超えた場合でも、課税遺産総額が基礎控除内に収まっていれば、相続税は発生しません。
課税遺産総額は、次の計算式で算出されます。
課税遺産総額=相続税の対象となる財産(課税財産)-基礎控除 |
相続税は、課税遺産総額を法定相続分で按分し、取得金額に応じた税率をかけ合わせて計算します。したがって、課税遺産総額が基礎控除より少なければ、相続税の対象にはならないのです。
※出典:国税庁「No.4152 相続税の計算」
相続税の基礎控除
相続税の基礎控除とは、相続税の計算で用いられる非課税枠のことです。課税対象となる相続財産総額から一定額を差し引き、相続税の負担を軽減することを目的としています。
相続税の基礎控除を計算する方法は、次のとおりです。
3,000万円+600万円×法定相続人数※ |
課税遺産総額が上記の基礎控除の範囲内であれば、相続税はかかりません。
生命保険を相続対策にするメリット
相続対策として生命保険を活用すると、以下のようなメリットが得られます。
- 節税対策になる
- 相続放棄をしても受け取れる
各項目の詳細をみていきましょう。
節税対策になる
生命保険は、相続時の節税対策として活用できます。
生命保険の掛け金を支払えば、相続する遺産を減らせます。さらに、契約者が亡くなったあとは死亡保険金の非課税枠が適用されるため、同じ額の現金をそのまま相続するよりも相続税の負担を減らせるのです。
また、契約者が生命保険の掛け金を支払う際は、年末調整や確定申告時に「生命保険料控除」が適用されます。生命保険は、相続時だけではなく生前の節税対策法としても有効です。
相続放棄をしても受け取れる
契約者と被保険者が同一人の場合、死亡保険金は「みなし相続財産」となりますが、厳密には亡くなった方の財産ではありません。保険受取人の固有の財産であるとみなされるため、相続放棄をした場合でも死亡保険金については受け取ることが可能です。
相続放棄をした場合は相続人ではなくなるため、死亡保険金の非課税枠は使えなくなります。ただし、相続税の基礎控除は適用されます。少しわかりにくいので注意が必要です。
解約返戻金には非課税枠を適用できない
契約者が被相続人で被保険者が配偶者や子どもであり、被相続人の死亡によって保険を解約して解約返戻金を受け取った場合、死亡保険金の非課税枠は適用されません。この場合、受け取るのは亡くなった方に対する死亡保険金ではなく、保険を解約したことに対して支払われる「解約返戻金」であるためです。
解約返戻金は、契約者として保険金を支払っていた被相続人が保有する債権であり、「相続財産」とみなされます。そのため、死亡保険金の非課税枠の適用対象にはならないのです。
生命保険の基礎控除や非課税枠を活用するなら専門家に相談を!
契約者の死亡により生命保険金を受け取るときは、「死亡保険金の非課税枠」や「相続税の基礎控除」が適用されます。相続税の納付で損することがないよう、しっかりと制度の内容や適用要件を理解しておきましょう。
とはいえ、なじみのない相続税の計算や手続きを知識のない方が行うのは大変なことです。生命保険を相続税対策に利用するなら、専門知識を持つプロに相談したほうが安心です。
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