準確定申告とは、亡くなった人の所得に対する確定申告です。相続の手続きをするなかで準確定申告という言葉を聞き、「普通の確定申告と何が違うの?」「自分もやらなくてはいけないの?」と疑問を抱く方は珍しくありません。
本記事では、準確定申告の概要から行わなければいけないケース、手続きの流れまでわかりやすく解説します。申告期限内に手続きを行えるよう、しっかりと知識を身につけておきましょう。
準確定申告とは
準確定申告とは、亡くなった人の生前の所得に対して行う確定申告を指します。故人の代わりに、相続人全員が共同で行う点が特徴です。
一般的な確定申告は、1月から12月までの1年間で得た所得に対して申告を行います。一方で準確定申告は、「1月から死亡日までの収入」を「相続の開始があったことを知った翌日から4か月以内」に、「相続人全員が共同」で申告しなければいけません。年の途中で死亡した場合、申告期日が一般的な確定申告の時期とは異なることになるため、手続きを忘れないように気をつける必要があります。
準確定申告と確定申告の違い
準確定申告と一般的な確定申告には、次のように大きな違いあります。
確定申告 | 準確定申告 | |
申告期限 | 原則翌年2月16日から3月15日 | 相続の開始を知った日の翌日から4か月以内 |
進行義務者 | 本人(もしくは代理人) | 相続人全員 |
申告先 | 申告者の住所地を管轄する税務署 | 所得者本人の生前の住所地を管轄する税務署 |
控除対象 | 12月末日時点の状況に対し、年間合計支払額を控除 | 亡くなった日の状態に対し、支払いが済んでいる金額を控除 |
以下では、各項目を詳しくみてみましょう。
申告期限
準確定申告と確定申告は、申告期限が異なります。
確定申告は、1月1日から12月31日までの所得を翌年の2月16日から3月15日までに申告します。各日付が土曜日・日曜日・祝日などにあたる場合は申告期限が変わることもありますが、原則大きく変更されることはありません。なお、所得税の納付期間も3月15日までとなります。
一方で準確定申告は、1月1日から死亡日までに発生した収入に対して確定申告を行います。申告期限は、相続の開始を知った日の翌日から4か月以内です。人によって申告期限が大きく異なる点を押さえておきましょう。
申告義務者
準確定申告と確定申告では、申告義務者も異なります。確定申告は、本人もしくはその代理人が行わなければいけません。
一方で準確定申告は、「相続人全員が確定申告を行うこと」と定められています。この際、相続人全員が書類に連署して押印しなければならない点が特徴的です。
申告先
申告先が異なるのも、準確定申告と確定申告の大きな違いです。
確定申告は、申告を行う本人の住所地を管轄する税務署に行います。一方で準確定申告は、「亡くなった人(所得者本人)の生前の住所地を管轄する税務署」に申告しなければいけません。申告を行う人の住所地を管轄する税務署ではない点に気を付けましょう。
控除対象
最後に、準確定申告と確定申告では控除対象が異なります。
確定申告の場合、扶養控除や配偶者控除といった各種控除は、12月末日時点の状況で決定されます。また、社会保険料や生命保険料に関しては、年間の支払合計額を控除可能です。
一方で準確定申告の場合は、亡くなった日の状態で控除の有無が決定します。生命保険料や社会保険料などは、亡くなった日までに支払いが済んでいる金額のみが控除可能です。
準確定申告が必要になるケース
相続が発生するときに必要となる準確定申告ですが、すべての方が行わなければいけないわけではありません。事業主やフリーランスなど、もともと確定申告が必要だった人が亡くなった場合に、準確定申告が必要になります。
準確定申告が必要になるケースは、具体的に以下の5パターンです。
- 事業所得・不動産所得がある
- 給与が2,000万円を超える
- 複数企業から給与がある
- 公的年金による収入が400万円を超える
- 給与・退職金以外で20万円を超える収入がある
どのようなことなのか、以下で詳しく解説します。
事業所得・不動産所得がある場合
故人が事業所得や不動産所得を得ていた場合は、準確定申告が必要になります。
事業所得とは、自営業やフリーランスの人が事業を営むことで得る所得のことです。不動産所得とは、住宅や土地、アパートなどの賃貸収入を指します。
事業所得や不動産所得は、売り上げから経費を差し引いた金額です。経費控除後の所得額が48万円以上の場合は、準確定申告を行わなければいけません。
給与が2,000万円を超える場合
故人が会社から受け取っていた給与所得が2,000万円を超えるときは、準確定申告が必要です。
一般的に、給与所得を得ている会社員は、所属する会社が年末調整をしてくれるため確定申告は不要です。しかし、所得が2,000万円を超える場合は年末調整の対象外となり、確定申告の義務が生じます。これは、高額所得者には適用できない控除があるためです。
たとえ源泉徴収が行われていたとしても、その金額が正確でない可能性があります。したがって、故人の給与が2,000万円を超えていたときは、準確定申告が必要なのです。
複数企業から給与がある場合
故人が会社員としての給与以外に、アルバイトやパートなどで他の会社から給与をもらっている場合も、準確定申告が必要になります。複数の企業で受け取っている給与を合算した総額で所得税を計算し、正しい納税額を算出しなければいけないためです。
たとえ会社で年末調整を行っていても、本業の他に20万円を超える副業収入があった場合は、準確定申告が必要です。なお、副業収入が20万円を超えないときは、準確定申告は必要ありません。
公的年金による収入が400万円を超える場合
故人に支払われる公的年金の収入が400万円を超えていた場合も、準確定申告が必要です。
公的年金は源泉徴収されてから振り込まれますが、それでも400万円を超える場合には準確定申告が必要となります。また、外国の公的年金を受け取っている場合も同様です。
さらに、「公的年金等に係る雑所得以外の所得」が20万円以上ある場合も、準確定申告を行うことが義務付けられています。「公的年金等に係る雑所得以外の所得」とは、給付金や資産所得、著作権収入など、公的年金以外のさまざまな収入を指します。
給与・退職金以外で20万円を超える収入がある場合
会社員をしていて、個人事業やフリーランスなどの年末調整を受けられない副業で20万円を超える所得を得ていた場合も、準確定申告が必要です。副業収入から経費を差し引いた所得額が20万円を超える場合は、必ず手続きを行っておきましょう。
反対に、所得額が20万円に満たないときは準確定申告の必要はありません。これは、本業の会社で年末調整を受けられるためです。
準確定申告が不要なケース
故人の状況が以下に当てはまるときは、準確定申告が不要です。
- 会社で年末調整がされる
- 年金受給額が年間400万円以下であり、その他の収入が20万円以下である
それぞれを詳しく解説します。
会社で年末調整がされる
故人が給与所得を得ていた会社が1社のみで、ここまでに紹介したケースに当てはまらない場合は準確定申告が不要です。この場合、基本的に会社が年末調整を行ってくれるためです。
ただし、準確定申告で医療費控除やふるさと納税の控除などを適用することで、税金が還付される可能性があります。手続きで戻ってくるお金はないか、一度確認してみるとよいでしょう。
年金受給額が年間400万円以下であり、その他の収入が20万円以下である
公的年金の年間受給額が400万円以下で、かつその他の収入が20万円に満たない場合は、準確定申告をする必要はありません。
一般的に、公的年金は各種控除額を除いた「年金としての所得額」に対して、所得税と住民税が課されます。65歳未満の場合は108万円を超える金額、65歳以上の場合は158万円を超えるときに源泉徴収が行われます。口座に振り込まれている年金は源泉徴収後の金額なので、改めて確定申告をする必要はないのです。
しかし、源泉徴収に反映されていない控除を適用したい場合は、準確定申告を行う必要があります。申告していない社会保険料控除や医療費控除、生命保険料控除がある場合は、手続きを行いましょう。
準確定申告が必要かどうかを確認する方法
説明してきたとおり、準確定申告は必要な方と不要な方がいます。そのため、「自分たちがどちらのケースに当てはまるのか判断が難しい」とお困りの方もいるかもしれません。
準確定申告が必要かどうかは、国税庁ホームページ内にある「確定申告が必要な方」で確認できます。故人に該当する項目がないか、よく確認しておきましょう。
また、準確定申告が必要なケースに当てはまらない場合でも、申告することで還付金が発生することがあります。医療費控除や生命保険料控除など、適用されていない控除額があれば、準確定申告を行うことがおすすめです。
準確定申告に必要になる書類
準確定申告を行うときは、以下のような書類を用意する必要があります。
- 確定申告書
- 被相続人の源泉徴収票
- 被相続人の控除証明書
- 所得税及び復興特別所得税の確定申告書付表
- 被相続人の医療費の領収書
- 委任状
以下では、各書類の詳細を説明します。
確定申告書
まず必要になるのが、確定申告書です。準確定申告で使う確定申告書は、一般的な確定申告の際に使うものと同じです。
なお、確定申告書には「申告書A」と「申告書B」の2種類があります。それぞれの違いは次の通りです。
- 申告書A:給与所得者もしくは年金受給者が使用する申告書
- 申告書B:事業所得や不動産所得を得ている人が使用する申告書
申告書Bは申告書Aよりも項目が多く、さまざまな控除や所得を網羅している点が特徴です。申告書Bを提出する際は、収支内訳表や青色申告決算書などを提出する必要があります。
各申告書は各地の税務署で入手できるほか、国税庁のホームページのダウンロード・作成が可能です。
被相続人の源泉徴収票
故人が給与もしくは公的年金を受け取っていた場合は、源泉徴収票も提出しなければいけません。源泉徴収票は、被相続人に所得があったことを証明するために必要となります。
なお、源泉徴収票には次の2つの種類が存在しています。
- 給与所得の源泉徴収票:会社から発行される源泉徴収票
- 公的年金の源泉徴収票:日本年金機構から送付される源泉徴収票
故人が給与所得者であった場合は「給与所得の源泉徴収票」、年金受給者であった場合は「公的年金の源泉徴収票」を提出することになります。公的年金の源泉徴収票は、死亡届を提出した方の住所に届きます。
「公的年金の源泉徴収票」が到着するのは、年金受給停止の手続きをしてから2〜3か月後です。そのため、受給停止の手続きは相続開始とともに行うことを推奨します。
受給停止の手続きは、年金事務所もしくは年金相談センターで行うことが可能です。国民年金は死亡日から14日以内、厚生年金は10日以内に年金受給者死亡届を提出する必要があるため注意しましょう。
被相続人の控除証明書
被相続人が所得控除の対象となる保険料を支払っていた場合は、控除証明書を提出することで還付を受けられます。控除の対象となるのは、次のような保険料です。
- 生命保険料
- 社会保険料
- 地震保険料
- 小規模企業共済等掛金
控除証明書は保険会社が発行することになりますが、各社で発行するタイミングが異なります。早めに時期を確認し、申告期限に間に合うよう手配しましょう。
所得税及び復興特別所得税の確定申告書付表
この付表は、相続人が複数名いる場合に提出が求められるものです。法定相続人の代表者指定届出書を兼ねています。
提出の際は、以下の準備が必要です。
- 相続人全員の署名と押印
- マイナンバーの記入
- 代表者の指定
- 相続分の割合の記入
- 本人確認書類の添付
法定相続人全員の署名と押印が必要になるため、準備に時間がかかることがあります。「署名が得られず申告期限に間に合わなかった」ということにならないよう、早めに準備することを推奨します。
被相続人の医療費の領収書
準確定申告で医療費控除の申告をするときは、医療費の領収書も準備しておきましょう。
医療費控除とは、1月1日から12月31日までの間に支払った医療費が一定額を超えるとき、所得控除を受けられる制度です。生計を一にする配偶者や親族のために支払った医療費は、合算することが可能です。
医療費が10万円、または年間所得の5%の少ないほうを超えるときに、上限200万円までが課税所得額から控除されます。該当する場合は、準確定申告の際に領収書も一緒に提出しましょう。
委任状
故人が所得税を多く支払っていた場合、準確定申告を行うことで還付金を受け取ることが可能です。相続人の代表者が還付金を一括受領するときは委任状が必要になるので、該当する場合は準備しておきましょう。
準確定申告用に使う委任状の様式は、国税庁のホームページからダウンロード可能です。
準確定申告のやり方
準確定申告の流れは、以下のとおりです。
- 相続人の代表者を決める
- 必要書類を準備する
- 書類を作成する
- 税務署に提出する
各プロセスのポイントを解説します。
相続人の代表者を決める
相続人が複数いるときは、相続人ひとり一人が個別に準確定申告する方法と、相続人全員の連署でまとめて準確定申告をする方法のうちどちらかを選択できます。
ひとり一人が手続きをする場合は、他の相続人と申告書の内容を一致させる必要があるため、お互いに確認しながら書類を作成しなければいけません。一方で、連署で準確定申告を行う場合は、最初に代表者を決めれば必要書類の作成を委任できます。
代表者を決めたほうが手続きを効率的に進められるため、まずは相続人の代表者を決めておくことがおすすめです。
必要書類を準備する
次に、必要書類を準備しましょう。準確定申告といっても、実際に提出する書類は確定申告と同じです。
給与所得者や年金受給者の場合は「申告書A」、自営業の方や不動産所得を得ている方は「申告書B」と「収支内訳書」を使用します。また、青色申告者は青色申告決算書が必要です。
税務署には、無料の確定申告相談窓口があります。わからないことがある方は、お気軽に問い合わせてみるとよいでしょう。
書類を作成する
次に、書類を作成します。準確定申告では確定申告と同じ書類を使用しますが、書き方が次のように少し異なるため注意しましょう。
◎相続人が一人の場合
- 表題の「申告書」に「準確定」を書き足す
- 住所と氏名は二段に分け、上に被相続人、下に相続人のものを記載する
- 余白部分に相続人のマイナンバーと被相続人の死亡年月日を記載する
- 相続人の印鑑で押印する
◎相続人が二人以上の場合
- 表題の「申告書」に「準確定」を書き足す
- 被相続人の氏名と住所を記載する
- 被相続人の印鑑で押印する
- 被相続人の死亡年月日を記載する
なお、書類を税務署に持ち込む際は、職員に準確定申告について質問や確認することが可能です。その場で訂正しても問題ありませんので、不安な場合は印鑑やマイナンバーなどを準備して提出に行くことをおすすめします。
税務署に提出する
書類が作成できたら、被相続人の住所地を管轄する税務署に提出します。提出方法は直接持参するほか、送付や電子申告を選択することも可能です。
電子申告の場合は、各相続人が個別で手続きをすることができません。したがって、代表者を選出して手続きをすることになります。この際、準確定申告の確認書に相続人全員からの押印をもらい、PDFファイルを申告時に添付する必要があります。
また、電子申告では委任状の提出ができません。別途郵送などで提出する必要がある点に注意しましょう。
相続に伴う手続きは煩雑になりがち!気軽に専門家に相談を
亡くなった人の所得に対する確定申告である「準確定申告」。まずは準確定申告が必要かどうかをしっかりと確認し、期限内に手続きを済ませられるように早めの準備を心がけましょう。
申告期限や書類の記載方法など、準確定申告には一般的な確定申告とは異なる点が多く存在しています。また、相続には手間がかかる手続きが多く、「自分たちで準確定申告ができるか不安」とお困りの方もいるかもしれません。
準確定申告でお困りの方は、専門家に相談するとスムーズに手続きを進められます。純確定申告は、ぜひ相続のエキスパートである「相続税申告プラザひろしま」までお気軽にご相談ください。