相続手続きの期限はいつまで?期限を守るために効果的な管理方法も紹介

被相続人が亡くなったあと、相続人は相続のための手続きを行う必要があります。

葬儀や遺品整理など、ご家族や相続人がやらなくてはいけないことは無数にあるため、相続手続きを後回しにしている方もいるでしょう。しかし、相続手続きには期限が存在しているため、優先して対応することが大切です。

本記事では、相続手続きの期限について解説します。期限の管理方法や超過時の対応策に関しても紹介するので、実際に手続きをする際に役立ててみてください。

相続手続きの期限を把握する重要性

相続手続き期限を把握し、適切に手続きすることは相続人にとって非常に重要なことです。なぜなら、相続手続きの期限を過ぎたら、次のようなデメリットが生じるためです。

  • 税金の軽減制度が利用できなくなる
  • 相続税の延滞税がかかる
  • 新たな相続(相次相続)が発生する可能性がある

相続手続きの期限を守らない場合、金銭的損失が発生したり手続きが複雑化したりする可能性があります。

このような事態を防ぐためにも、期限を管理してスムーズな手続きを行うことが重要なのです。

把握しておきたい相続手続きの期限

一括りに「相続手続きの期限」といっても、実は手続きの種類によって具体的な期限は大きく異なります。

以下では、把握しておきたい相続手続きの期限を6つ紹介します。

相続放棄・限定承認の期限

相続放棄および限定承認の手続きは、相続開始を知った日の翌日から3か月以内に行う必要があります。この期限を過ぎてしまうと、自動的に単純承認を選択したと判断されるため注意しましょう。

相続放棄と限定承認、単純承認の違いは以下のとおりです。

  • 相続放棄:すべての財産を相続する権利を放棄すること
  • 限定承認:プラスの財産の範囲内で、マイナスの財産(債務)を相続すること
  • 単純承認:すべての財産を相続すること

たとえば、故人に借金などがあった場合は相続放棄や限定承認を行い、マイナスの財産を引き継がないように手続きすることがあります。

このような手続きを希望する場合は、期限内に家庭裁判所へ申し立てをしなければいけません。

準確定申告の期限

準確定申告の手続き期限は、相続開始を知った日の翌日から4か月以内です

準確定申告とは、相続人などが被相続人に代わって、亡くなった年の収入や所得税を申告する手続きを指します。亡くなった被相続人は自分で確定申告をすることができないので、相続人などが代わりに準確定申告を行うのです。

被相続人が次の条件に当てはまる場合は、準確定申告が必要になります。

  • 自営業を営んでいた
  • 年収が2,000万円を超えていた
  • 2か所以上から給与を得ていた
  • 400万円以上の年金を受給していた
  • 各種控除により還付金を受け取れる

反対に、被相続人の状況が上記の条件に当てはまらない場合は、準確定申告をする必要がありません

相続税申告の期限

相続税申告の期限は、相続開始を知った日の翌日から10か月以内です。相続税の申告のみならず、納付もこの期限までに行う必要があります

期限までに相続税の申告・納付ができない場合、「税金の軽減制度が利用できない」「延滞税が課せられる」などのデメリットが生じます。

相続税申告・納付の期限は、原則延長が認められていません。しかし、災害や出産などの特殊な事情がある場合のみ、税務署に申請すれば最大2か月の申告期限の延長が可能です。お困りであれば、一度税務署に相談してみるとよいでしょう。

遺産分割協議の期限

遺産分割協議とは、相続人全員の合意のもと、遺産の分け方を決めることです。遺産分割協議には、法律上の明確な期限が存在していません。

しかし、そもそも遺産分割協議がまとまらなければ、相続手続きを行って財産を活用することはできません。そのため、遺産分割協議はできるだけ早く、配偶者税額軽減とか小規模宅地等の評価減の特例等、主要な相続税の軽減制度が遺産分割協議が相続税の申告期限内に行われないと適用できないため、遅くとも相続税の申告期限となる10か月以内に行うことが望ましいとされています。

協議が難航する場合は、裁判所に遺産分割調停を申し立てましょう。調停委員が仲介役となり、全員が納得できる遺産分割の方法を模索してくれます。それでも合意が成立しない場合は、裁判所の審判によって遺産分割の割合が決定されます。
また、遺産分割協議が長期にわたり相続税の申告期限となる10か月以内に成立することが見込めない際には、申告期限内に税務署に対して「未分割申告」という手続きを取ることにより、申告期限に間に合わない際のデメリットを免れることができることがあります。

不動産登記変更の期限

不動産を相続するときは、登記変更の手続きを行う必要があります。登記変更の手続きを行わなければ、相続した不動産の所有権を第三者に主張できなくなってしまうためです。

現時点では、不動産登記変更に明確な期限は設けられていません。しかし2024年4月以降は、相続開始を知った日の翌日から3年以内に相続登記をしなければいけなくなります。

2024年4月になれば、それ以前に発生した相続に対しても相続登記の期限が適用されます。現在不動産を相続している方は、早めに手続きを済ませておきましょう。

※出典:宇都宮地方法務局「知っていますか?相続登記の申請義務化について

遺言書の検認手続きの期限

遺言書の検認とは、遺言書を家庭裁判所に提出し、相続人立会いのもと開封して内容を確認することです。遺言書の存在や内容を明確にして、偽造されることを防ぐために行われます。

なお、遺言書で「遺言執行者」として選任された人は、相続人や財産の調査、相続手続きなどを行うことが可能となります

遺言書の検認手続きには、法律上の期限は存在していません。しかし、被相続人が遺言を残している場合は、何よりも先に検認することが望ましいとされています。

遺言書が存在している場合は、先に内容を確認しなければ、遺産分割や相続手続きを行うことができません。そのため、先に遺言書の検認手続きをしておくことが推奨されるのです。

期限を守るための効果的な手続き管理方法

相続が発生する際は、多くの手続きを期限内に済ませる必要があります。なかには、「必要な手続きが多すぎる」「いつまでに何をすればいいのかわからない」と混乱してしまう方もいるでしょう。

各手続きの期限を守るためには、適切なスケジュール管理の方法を知っておくことが大切です。ここでは、手続きを管理する際のポイントを詳しく紹介します。

タイムラインの作成と管理

まずは、タイムラインを作成して管理しましょう。

タイムラインとは、全体の流れを一覧でみられるようにまとめたもののことです。「予定表」や「タイムスケジュール」と言い換えると、わかりやすいかもしれません。

「何月にどの手続きが期限を迎えるか」「何月に何をすればいいのか」などをタイムラインにまとめておけば、うっかり期限を超過してしまうことを防げます。また、全体の流れを可視化することで、手続きの手順も把握できるようになるでしょう。

相続に関する手続きは、たとえ1つの手続きでも多くのプロセスをふむ必要があります。たとえば不動産登記変更では、添付書類の取得や申請書の記入、登記識別情報の受け取りなど、さまざまな手続きをしなければいけません。

一日で手続きを完了させられないことも多々あるので、「この日はこれをやる」と具体的なスケジュールを立てておくと安心です。

必要書類の整理・準備

次に、必要書類の整理と準備を進めます。表に各手続きで必要になる書類をまとめたので、ぜひ参考にしてみてください。

手続きの名称必要書類
相続放棄・限定承認・申述書・被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本等・被相続人の住民票除票または戸籍附票・申述人全員の戸籍謄本 など
準確定申告・確定申告書・確定申告書付表・給与所得の源泉徴収票・年金の源泉徴収票・医療費の領収書・各種控除証明書・申告者の本人確認書類・委任状(還付金がある場合) など
相続税申告・本人確認書類・被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本等・相続人全員の戸籍謄本・遺言書又は遺産分割協議書の写し・相続人全員の印鑑証明書・その他、財産や税額軽減に関する書類 など
遺産分割協議・財産目録・遺産分割協議書 など
不動産登記変更・所有権移転登記申請書・評価証明書または納税通知書・遺言書・遺言書の検認調書または検認済証明書・遺言執行者の選任審判書謄本・相続人の戸籍謄本と住民票・被相続人の死亡が確認できる戸籍謄本・被相続人の住民票の除票 など
遺言書の検認手続き・遺言書の検認の申立書・申立人や遺言者、相続人などの戸籍謄本 など

なお、被相続人や相続人の状況によって必要な書類は異なるため、ご自身の状況に応じて準備することが大切です。

まずは各手続きに必要な書類をリストアップし、「どこで何の書類を取得すればいいのか」についてまとめておきましょう。そうすることで、手続きのたびに各所へ足を運ぶ手間を軽減できます。

相続手続きで必要になる書類は、非常に多く存在しています。手続きごとにファイルを作成し、そこに添付書類や申請書をまとめておくと整理しやすくなり、紛失も防げるでしょう。

相続人間のコミュニケーションの確立

相続手続きをスムーズに進めるためには、相続人同士で密にコミュニケーションを取ることが大切です。なぜなら、遺産相続トラブルはコミュニケーション不足によって生じることが多いためです。

たとえ相続の内容に不安を抱く相続人がいる場合でも、コミュニケーションを取るなかで相互理解や関係性が深まり、円滑な遺産分割が可能となる可能性があります。それでも相続人間で不公平が解消されない場合は、相続分を修正して調整をすることも可能です。

「いつ財産の全容がわかりそうか」「遺産分割の話し合いはいつになるのか」「相続税は誰がいつ申告するのか」など、相続に関する事柄はなるべく早く伝えましょう。そのうえで、お互いの今までの負担や苦労を理解し合うことができれば、スムーズに手続きを進められる可能性が高まります。

相続に関する連絡をするときは、すぐに情報を届けられるメールやチャットツールなどを活用しましょう。電話でも問題はありませんが、言った・言わないのトラブルを防ぐためにも、文字として証拠が残るツールを使っておくと安心です。

期限超過のリスクとその対処法

万が一、相続手続きが期限までに間に合わなかった場合、どのような問題が発生するのでしょうか。

相続手続きの期限を過ぎたら、「税務上のリスク」と「法務上のリスク」が生じます。以下では、それぞれのリスクを詳しく解説します。

税務上のリスクと対処法

相続税の申告・納付手続きの期限を超過すると、2つの税務上のリスクが生じます。

1つ目は、「小規模宅地等の特例」「配偶者の税額軽減」といった税金の軽減制度が利用できなくなるリスクです。相続税を全額納付しなければいけなくなるため、相続人にとっては大きな負担となるでしょう。

2つ目は、延滞税や無申告加算税が発生するリスクです。相続税を期限までに納付できなければ、期限の翌日から納税日までの日数に応じた「延滞税」が、税額に応じた「無申告加算税」が課されます。

相続税の申告は、遺言書の検認手続きや相続人・相続財産の調査、遺産分割協議などを行ってから実施することが一般的です。そのため、完了までに長い期間を要する傾向にあります。期限を超過することを防ぐためにも、早めに着手することを意識しましょう。

やむを得ない理由があって相続税の申告・納付が間に合わない場合は、必ず早期に税務署へ相談してください。場合によっては、期限の延長や納付方法に関する特例が認められることがあります。

法務上のリスクと対処法

相続手続きが期限内に終わらない場合は、法務上のリスクが生じることも押さえておきましょう。法務上のリスクとは、具体的には相続人の状況変化を指します。

たとえば、相続手続きが完了しないうちに相続人が亡くなったり認知症になったりした場合、必要な手続きや関係者が増え、相続人も変わります。手続きが複雑化し、より手間や時間がかかることになるでしょう。

このような事態を防ぐためにも、相続手続きは早めに完了させておくことが大切です。万が一、相続人の状況変化などによってトラブルが生じたときは、税理士や弁護士などの専門家に相談して問題解決を図りましょう。

救済措置の活用方法

相続手続きには、期限に間に合わない場合の救済措置があります。救済措置の詳細は、次のとおりです。

手続きの名称救済措置の詳細
相続放棄・限定承認の申告相続開始を知った日の翌日から3か月以内に延伸手続きをすることで、期限の延長が可能。(※1)
相続税申告【特殊な事情で申告が間に合わない場合】税務署に申請することで、最大2か月の申告期限の延長が可能。(※2)【遺産分割協議が間に合わない場合】いったん納税し、協議がまとまった時点で修正申告をして税額を調整することが可能。(※3)
相続税納付相続税を分割払いする「延納」や、財産を引き渡す「物納」で納付することが可能。(※4)
※出典:(※1)裁判所「相続の承認又は放棄の期間の伸長
    (※2)国税庁「第27条《相続税の申告書》関係
    (※3)国税庁「No.4208 相続財産が分割されていないときの申告
    (※3)国税庁「No.4205 相続税の申告と納税

救済措置の適用を希望する場合は、早めに税務署で相談・手続きを進めておきましょう。

専門家と連携してスムーズな相続手続きを実現

行うべき手続きが非常に多く、その内容も複雑な相続。一般の方がご自身で手続きを完結させようとすると多大な時間と手間を要するため、専門家と連携しながら進めることがおすすめです。

ここでは各専門家の役割と、専門家と連携しながら相続手続きを行うことのメリットを解説します。

弁護士・司法書士・税理士の役割

相続手続きを進める際は、弁護士や司法書士、税理士と連携することが一般的です。各専門家は、次のように異なった役割をもっています。

専門分野・役割主な業務
弁護士・法律の専門家・代理人として交渉や訴訟を行う・法律相談・訴訟・調停・交渉や示談
司法書士・登記の専門家・登記手続きの代理業務を行う・相続不動産の名義変更(相続登記)・戸籍収集・遺産分割協議書の作成
税理士・税務の専門家・税務に関する代理業務を行う・相続税の計算や申告

このように、それぞれでは専門とする分野や行える業務が大きく異なります。「遺産分割協議で揉めたら弁護士」「相続税の申告相談は税理士」と、目的に応じて専門家を使い分けることが大切です。

専門家との連携がもたらすメリット

相続手続きは、税理士などの専門家と連携しながら進めましょう。専門家の知識・経験を活用すれば手続きが効率化され、期限超過を防げます。

相続税の手続きをする際は、多くの法務や税務の知識が必要です。あらかじめ専門知識に精通した人と連携すれば、トラブルの発生を防ぐことができ、スムーズな手続き完了を目指せるでしょう。

また、経験が豊富な専門家は、相続人間の紛争解決や円滑なコミュニケーションのサポートも行ってくれます。

相続手続きの期限を把握し、円滑な手続きを進めよう

相続手続きにはさまざまな種類が存在しており、それぞれで期限が大きく異なるため注意が必要です。相続手続きの期限を超過するとさまざまなデメリットが生じるため、必ず期間内に手続きを済ませることを推奨します。

必要な書類が多かったり相続人同士での話し合いが必要だったりと、相続手続きには多くの時間と手間を要します。知識のない方が一から十までやろうとすると、思いのほか時間がかかり、期限を超過してしまうことは珍しくありません。

スムーズに相続手続きを進めたいなら、専門家の手を借りることも検討しましょう。相続と向き合い続けて30年以上の実績をもつ「相続税申告プラザひろしま」では、相続税に関する相談を受け付けています。

申告期限間近でも、間に合わせることが可能なケースがあります。相続税手続きでお困りの方は、ぜひお気軽にお問い合わせください。