相続税法・税制の改正で税率はどう変わった?改正された内容も解説

相続が発生すると、「相続税の税率はどれくらいなのだろう」という疑問を抱く方は多いかもしれません。

実は、相続税はほぼ毎年のように関連法令の改正が行われており、さまざまなルールが変更されています。そのため、税率はもちろんのこと、法改正の内容もしっかりと押さえたうえで相続税申告をすることが大切です。

この記事では、最新の相続税法・税制改正の内容と、過去の改正ポイントについて解説します。正しく相続税申告を行うために、最新の知識を身につけていきましょう。

令和5年度施行の税制改正

令和5年度は、相続時精算課税を中心に見直しが行われ、贈与と相続の一体的な課税強化が図られました。特に、贈与税と相続税の関係を整理することで、課税逃れを防ぐことに加えて、早期の資産移転を促す意図があると考えられています。

ここでは、令和5年度の相続税法・税制改正(令和6年1月1日施行)で特に注目されたポイントを2点みていきましょう。

※出典:財務省「令和5年度税制改正の大綱(2/10)

相続時精算課税に係る基礎控除の創設

令和6年1月1日以降、相続時精算課税を選択した受贈者が特定贈与者から財産を取得する場合、贈与税の課税価格から基礎控除額110万円が控除されるようになりました

わかりやすく言い換えると、相続時精算課税制度に「基礎控除」が新設され、毎年110万円までは非課税になったということです。ただし、暦年課税と併用できるようになったわけではなく、相続時精算課税を適用する贈与者ごとに110万円の基礎控除が設けられた形になります

例えば、父から子どもに3,000万円を贈与する場合、今までは2,500万円を超える500万円に一律20%の贈与税が発生していました。しかし、改正後は110万円までは毎年非課税で贈与でき、超えた部分のみが相続時精算課税に計上される仕組みに変わっています。

この変更により、「一度にまとめて贈与するより、小分けにしたほうが有利」なケースが増え、相続税対策の選択肢が広がりました。

暦年課税による生前贈与の加算対象期間等の見直し

これまでの生前贈与では、亡くなる前3年以内のものが相続税の課税対象として加算されていました。しかし、令和5年度の税制改正により、この加算対象期間が3年から7年に延長されています。これにより、生前贈与を活用した相続税対策のハードルが上がりました。

例えば、改正前は2024年に亡くなった方が2020年に行った贈与は、相続財産に加算されることはありませんでした。しかし、改正後は2017年まで遡って相続税の課税対象となるため、「3年以上前に贈与すれば安心」という考え方が通用しなくなります。

この改正の影響で、短期間での生前贈与による相続税対策は難しくなったので、より長期的な財産移転の計画が必要になりました。7年以上前から少しずつ贈与を進めるか、別の相続対策を併用することも検討しましょう。

令和4年度の税制改正

【令和4年度の税制改正のポイント】

項目内容
住宅取得等資金に係る贈与税の非課税措置当の延長・見直し・適用期限を令和5年12月31日まで延長
・非課税限度額を1,000万円(省エネ等住宅)/500万円(一般住宅)に見直し
住宅取得等資金の贈与税非課税措置受贈者の年齢要件を「20歳以上」→「18歳以上」に引き下げ
登録免許税におけるキャッシュレス納付制度の創設

令和4年度の改正では、住宅取得等資金の贈与税非課税措置の適用期限が延長され、非課税枠が見直されています。また、受贈者の年齢要件が18歳以上に引き下げられ、より早い段階で住宅資金の贈与を受けられるようになりました(令和4年4月1日施行)。

さらに、相続登記の際に必要となる登録免許税のキャッシュレス納付制度が創設。従来は、現金納付が原則だったので、支払い方法の選択肢が大きく広がりました。

※出典:財務省「令和4年度税制改正

令和3年度の税制改正

【令和3年度の税制改正のポイント】

項目内容
住宅取得等資金に係る贈与税の非課税措置の延長・見直し・適用期限を令和3年12月31日まで延長
・非課税限度額を1,500万円(省エネ等住宅)/1,000万円(一般住宅)に引き上げ
住宅取得等資金の贈与税非課税措置受贈者の合計所得金額が1,000万円以下の場合、住宅の床面積要件を「50㎡以上」→「40㎡以上」に緩和
教育資金・結婚・子育て資金の一括贈与非課税措置の延長・見直し・適用期限を令和5年3月31日まで延長
・未使用残額の相続税課税対象範囲を拡大
相続税の2割加算の適用範囲の拡大教育資金、結婚・子育て資金の一括贈与に関して、贈与者の子ども以外(孫など)が受贈者の場合、未使用残額に対して相続税が2割加算の対象に

令和3年度の改正では、住宅取得等資金の贈与税非課税措置の適用期限が延長され、非課税枠が引き上げられました。また、合計所得金額1,000万円以下の受贈者に対して、住宅の床面積要件を緩和することで、より広い層が住宅資金の贈与を受けやすくなっています(令和3年4月1日施行)。

教育資金や結婚・子育て資金の一括贈与に係る非課税措置は適用期限が延長され、未使用残額が相続税の課税対象となる範囲が拡大されました。特に、贈与者の子ども以外(孫など)が受贈者の場合、未使用の金額に対して相続税が2割加算の対象となっている点に注意が必要です。

加えて、相続税・贈与税の一体化に向けた議論も始まりました。しかし、令和3年度の税制改正では具体的な法改正や施行はなく、今後の制度改革の方向性が示されるにとどまっています。

※出典:財務省「令和3年度税制改正

平成30年の相続税法改正

【平成30年の相続税法改正のポイント】

項目内容
配偶者居住権の新設被相続人の死亡後も、配偶者は一定期間または終身、自宅に住み続けられる権利を創設
婚姻期間が20年以上の夫婦間における居住用不動産の贈与等に関する優遇措置夫婦間で婚姻期間が20年以上の場合、居住用不動産を相続財産に加算しない
預貯金の払戻し制度の創設遺産分割前でも、一定額まで相続人が金融機関から預貯金を払戻し可能に
自筆証書遺言の方式緩和財産目録のパソコン作成や通帳コピーの添付が可能に
法務局における自筆証書遺言の保管制度の創設遺言書を法務局で保管できる制度を創設し、紛失や改ざんのリスクを軽減
遺留分制度の見直し遺留分を侵害された者は、遺贈や贈与を受けた者に対し、遺留分侵害額に相当する金銭の請求をすることが可能に
特別の寄与の制度の創設相続人ではない親族(長男の妻など)が被相続人の介護などに貢献した場合、金銭請求が可能に

平成30年度の改正では、配偶者の生活保障や相続手続きの簡素化を目的とした制度が導入されました。特に、配偶者居住権の新設や預貯金の払戻し制度は、配偶者や相続人の負担を軽減するための重要な改正だったといえます。

また、自筆証書遺言の方式緩和や法務局での遺言保管制度により、遺言作成がしやすくなりました。加えて、特別の寄与の制度が導入され、相続人でなくても介護などの貢献に応じた金銭請求が可能となっています。

※出典:財務省「相続に関するルールが 大きく変わります

平成25年度の税制改正

【平成25年度の税制改正のポイント】

項目内容
相続税の基礎控除額の引き下げ基礎控除額を「5,000万円+(1,000万円×法定相続人の数)」→「3,000万円+(600万円×法定相続人の数)」へ引き下げ
相続税の税率構造の見直し・税率区分の細分化
・最高税率を50%→55%に引き上げ
税額控除の引き上げ未成年者控除・障害者控除の控除額を引き上げ
小規模宅地等の特例の拡充・居住用宅地の適用面積を240㎡→330㎡に拡大
・特定事業用宅地等と特定居住用宅地等の併用適用を緩和
・二世帯住宅や老人ホーム入居者の自宅も特例の対象に
贈与税の税率構造の見直し・課税対象を細分化し、最高税率を50%→55%に引き上げ
・20歳以上の者が直系尊属から贈与を受けた場合の特例税率を新設
教育資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置の創設30歳未満の者が直系尊属から教育資金の一括贈与を受けた場合、1,500万円まで非課税(うち学校以外の支払いは500万円まで)

平成25年度の改正では、相続税の基礎控除額の引き下げと税率の引き上げにより、相続税の課税対象者が大幅に増加しました(平成27年1月1日施行)。これにより、従来は相続税がかからなかったご家庭でも課税対象になるケースが増え、事前の対策を行う重要性が増しました。

また、小規模宅地等の特例の適用範囲が拡大され、二世帯住宅や老人ホーム入居者の自宅も特例対象となるなど、不動産の相続税負担を軽減する仕組みが強化。

贈与税においては、税率構造が見直されて最高税率が引き上げられています。その一方で、20歳以上の直系尊属からの贈与については優遇措置が設けられました(平成27年1月1日施行)。

さらに、教育資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置が創設され、1,500万円まで非課税で教育資金を贈与できる制度が導入されました(平成25年4月1日施行)。この改正により、生前贈与による資産移転の選択肢が大きく広がっています。

※出典:国税庁「相続税及び贈与税の税制改正のあらまし(平成27年1月1日施行)」「祖父母などから教育資金の一括贈与を受けた場合の贈与税の非課税制度のあらまし

なぜ毎年相続税が改正されるのか

そもそも、相続や贈与に関連する法律は、なぜこれほどまでに頻繁に改正されるのでしょうか。

その要因として、以下のようにさまざまなものが挙げられます。

  1. 高齢化によって相続が増加しているから
  2. 税制を通して経済を活性化させたいから
  3. 税収を確保したいから
  4. 公平性を向上して格差を是正したいから

相続税が毎年のように改正されるのは、社会の変化に合わせて税の仕組みを調整する必要があるためです

少子高齢化が進んで相続の件数が増えると、税収を安定させるために課税範囲が広がります。また、一部の層に資産が集中しすぎることを防ぐために、相続税や贈与税のルールが厳しくなることもあります。

さらに、経済を活性化させる目的で、住宅購入のための贈与を非課税にするなどの優遇策が導入・延長されることも少なくありません。こうした改正は、税制をその時々の時代に合ったものにするために不可欠な調整なのです。

相続税の計算でお困りの方はご相談ください

本記事でみてきたように、相続税に関連する法令は毎年のように改正が行われ、その内容も多岐にわたります。

相続税を計算するときは、税率や各種控除額の適用、贈与税など考慮しなければいけない要素が多く存在しています。そのため、「相続税の計算方法がわからない」「どれが最新の情報なのかわからない」と混乱してしまう方は決して珍しくありません。

相続税の計算や申告に少しでも不安を感じているのであれば、早めに税理士へ相談することがおすすめです。専門家に依頼することで、最新の税制を踏まえた正確な計算や節税のアドバイスを受けられます。

相続税申告相談プラザひろしま」では、相続と向き合い30年以上の専門家が、相続申告のサポートを行っています。手続きのサポートや節税方法の提案をいたしますので、お気軽にご相談ください。