現金にかかる相続税はいくら?税率や計算方法、節税対策を徹底解説

相続税と聞くと、不動産や株など高額な資産をイメージする人は多いかもしれません。しかし、自宅で保管している現金や預貯金も、課税対象に含まれます。しかも、現金は評価減や特例の適用が難しく、ほかの財産よりも税負担が重くなることがあるため注意が必要です。

この記事では、現金の相続に関する相続税の基本から計算方法、節税のポイントについて紹介します。相続税のルールは「知らなかった」では済まされないので、あとから困らないために正しい知識を身につけておきましょう。

現金にかかる相続税はいくらから課税される?

「高額な資産なんてないし、自分の家族には相続税なんて関係ないだろう」と思われる方は多いかもしれません。しかし、ある程度の現金がある場合は、相続税の対象になる可能性が十分に考えられます。

まずは、どのような場合に相続税が課税されるのか確認しておきましょう。

相続税の課税対象となる財産

相続税は、被相続人(亡くなった方)から相続人が引き継いだすべての財産に対して課税されます。具体的には以下のようなものが対象です。

  • 現金・預貯金
  • 不動産(土地・建物)
  • 有価証券(株式・投資信託など)
  • 生命保険金
  • 死亡退職金
  • 貴金属・美術品・骨董品
  • 自動車・船舶・航空機
  • ゴルフ会員権
  • 貸付金・売掛金

※出典:国税庁「No.4105 相続税がかかる財産

これらの中でも、現金や預貯金は評価が明確で、そのまま相続税の課税対象となります。

なお、実際に相続税がかかるかどうかは、「基礎控除額」を超えるかどうかで決まります。基礎控除とは、「この金額までは相続税がかかりませんよ」という非課税のラインのことです。

具体的な基礎控除額は、以下の計算式で導き出せます。

基礎控除額=3,000万円+600万円×法定相続人の数
※出典:国税庁「No.4152 相続税の計算

例えば、相続人が配偶者と子ども2人(合計3人)の場合、「3,000万円+600万円×3人=4,800万円」までは非課税です。

相続税の申告漏れは、「うっかりミス」が原因で発生するケースが少なくありません。特に、現金は名義や所在がはっきりしにくいぶん見落としがちなので注意しましょう。

現金・預貯金の相続税評価額

現金や預貯金の評価額は、原則として額面(実際の金額)そのままです。例えば、1,000万円の預金があれば、その評価額も1,000万円となります。

これは、一定の評価方法によって市場価値より低く評価される(評価減がある)土地や建物、株式と大きく異なる点です。そのため、現金・預貯金は他の財産と比べて相対的に相続税の負担が重くなりやすいといえます。

相続税の税率と控除額

相続税は、「課税遺産総額」に応じて段階的に税率が上がる累進課税が採用されています。また、各税率には「控除額」が定められており、実際に支払う金額は「課税遺産総額×税率-控除額」となります。

相続税の具体的な税率と控除額は、以下の一覧表のとおりです。

法定相続分に応ずる取得金額税率控除額
1,000万円以下10%
3,000万円以下15%50万円
5,000万円以下20%200万円
1億円以下30%700万円
2億円以下40%1,700万円
3億円以下45%2,700万円
6億円以下50%4,200万円
6億円超55%7,200万円
※引用:国税庁「No.4155 相続税の税率

例えば、相続人が1人で5,000万円を相続した場合の相続税の総額は、「5,000万円×20%-200万円=800万円」となります。

現金の相続税を計算する方法

相続税は、以下の5つのステップで計算することが可能です。

  1. 正味の遺産額を計算する
  2. 課税遺産総額を計算する
  3. 相続税の総額を計算する
  4. 実際の取得分に応じて按分する
  5. 各種控除を適用して最終的な相続税額を出す

詳しい手順をみていきましょう。

1. 正味の遺産額を計算する

まずは、被相続人が残した財産の総額(プラスの財産)から、債務や葬式費用(マイナスの財産)を差し引いて「正味の遺産額」を計算します。

正味の遺産額=プラスの財産-マイナスの財産

プラスの財産は、先ほど挙げた相続税の課税対象となる財産(現金・預貯金、不動産、有価証券など)の総額です。マイナスの財産には、被相続人の借金、未払いの税金、葬式費用などが含まれます。

2. 課税遺産総額を計算する

次に、正味の遺産額から基礎控除額を差し引いて「課税遺産総額」を求めます。

課税遺産総額=正味の遺産額-基礎控除額

この金額がマイナスになる場合は、相続税はかかりません。反対にプラスになった場合は、基礎控除を超える金額のみに相続税が課税されます。

【関連記事】相続税の基礎控除とは?計算方法や間違えやすいポイントを解説

3. 相続税の総額を計算する

課税遺産総額を法定相続分で分けたと仮定して、それぞれの取得金額に税率を適用し、各相続人の仮の相続税額を計算しましょう。その合計が、「相続税の総額」となります。

法定相続分は、以下のように定められています。

  • 配偶者がいる場合:配偶者は1/2、残りを子どもで均等に分ける
  • 配偶者がいない場合:子どもで均等に分ける
  • 子どもがいない場合:配偶者が全額、または配偶者と親で分ける

各相続人の取得金額に対して、先ほどの税率表を適用して税額を計算し、全員分を合計しましょう。

4. 実際の取得分に応じて按分する

相続税の総額を、各相続人が実際に取得した財産の割合で按分します。ここで算出された金額が、各相続人が納める相続税の基本額になります。

各相続人の相続税額=相続税の総額×各人の実際の取得金額÷正味の遺産額

実際の遺産分割は法定相続分どおりに行われるとは限らないので、この計算が必要になります。

5. 各種控除を適用して最終的な相続税額を出す

最後に、各相続人の相続税額から適用できる税額控除を差し引いて、最終的な納税額を計算します。

主な税額控除としては、以下のようなものがあります。

  • 配偶者の税額軽減
  • 未成年者控除
  • 障害者控除
  • 相次相続控除
  • 贈与税額控除

特に配偶者の税額軽減は、非課税となる金額が非常に大きく設定されています。法定相続分または1億6,000万円までの財産取得に対しては相続税がかからないため、配偶者がいる場合は必ず適用しておきましょう。

【関連記事】相続税の配偶者控除は1.6億円!適用要件や注意点を解説

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現金を相続すると相続税が高くなる理由

他の財産と比べて、なぜ現金や預貯金は相続税の負担が重くなるケースが多いのでしょうか。

その理由として、以下の2点が挙げられます。

  • 評価減がない
  • 特例や控除が少ない

どのようなことなのか、詳しく解説します。

評価減がない

不動産や株式など他の財産には「評価減」と呼ばれる、相続税評価額を市場価値より低くできる仕組みがあります。

例えば、不動産を相続すると、以下のように評価額を低くするルールが適用されます。

  • 土地:「路線価」という公示価格の約8割程度の価格で評価する
  • 建物:固定資産税評価額という市場価値の約5〜7割程度の価格で評価する

また、取引相場のない株式(非上場株式)も、純資産価額方式や類似業種比準方式などの評価方法により、実際の企業価値より低く評価されることが一般的です。

一方、現金や預貯金は額面通りの評価となるため、他の財産に比べて相対的に高く評価されやすくなります。結果として、相続税の負担が重くなってしまうのです。

【関連記事】【早見表】土地にかかる相続税の税率とは?計算方法や注意点をわかりやすく紹介

特例や控除が少ない

不動産には、「小規模宅地等の特例」という強力な節税制度があります。この特例を適用すると、被相続人が住んでいた土地や事業用の土地について、条件を満たせば最大80%の評価減を受けることが可能です。

また、事業承継のための非上場株式等に係る納税猶予制度など、事業や農地の継続を支援するための特例も存在します。

しかし、現金や預貯金にはこうした特別な控除や特例が適用されないため、結果として相続税の負担が大きくなりやすいのです。

【関連記事】同居で相続税が軽減できる小規模宅地等の特例とは?要件も解説

相続税申告の際に見落としがちな現金

相続税申告の際、以下のような現金は見落とされがちです。

  • タンス預金
  • 名義預金
  • 死亡直前に引き出された預貯金

しかし、これらの現金も相続税の対象に含まれるので、適切に申告する必要があります。

タンス預金

被相続人が自宅に保管していた現金(いわゆる「タンス預金」)も相続財産です。

誰にも知られていないと思われがちなタンス預金ですが、「申告しなくてもバレない」と考えるのは危険です。生前の預金の引き出し履歴や生活費の状況から、税務署がタンス預金の存在を推測する可能性はゼロではありません。

相続税の申告漏れが発覚した場合、本来の税額に加えて、無申告加算税や延滞税などが課される可能性があります。特に悪質なケースであると判断されれば、重加算税(本来の税額の35〜40%)が課されることになってしまいます。

名義預金

子どもや孫の名義になっている預金でも、実際は被相続人が管理・運用していた場合は「名義預金」として相続財産に含める必要があります

名義預金かどうかの判断基準としては、以下のような点が挙げられます。

  • 預金の元本が誰から提供されたか
  • 通帳・印鑑を誰が管理していたか
  • 預金の入出金を誰が判断していたか
  • 預金の利息を誰が使っていたか

これらのポイントから「実質的な所有者は被相続人である」と判断される場合は、名義に関わらず相続財産として申告しなければなりません。

死亡直前に引き出された預貯金

被相続人の死亡直前に預金口座から大きな金額を引き出すと、税務署に目をつけられる可能性が高まります。その引き出しが医療費や葬儀費用など正当な理由のためであれば問題ありませんが、相続税対策として意図的に現金化された場合は、脱税行為とみなされる可能性が高まります

脱税だとみなされないためにも、引き出された現金の用途について、領収書などで証明できるようにしておくことが大切です。

相続税の申告漏れがあった場合のペナルティ

相続税の申告漏れや脱税行為が発覚すると、以下のように厳しいペナルティが課されます。

税金の種類概要税率
無申告加算税期限内に申告しなかった場合に課される・自主申告:5%
・税務署の指摘で申告した場合:15%
※50万円超の部分は20%
過少申告加算税申告額が実際より少なかった場合に課される・自主申告:なし
・税務署の指摘で申告した場合:10%
※「期限内申告税額」または「50万円」超の部分は15%
重加算税特に悪質な場合に課される・無申告の場合:40%
・過少申告の場合:35%
延滞税※納付が遅れた場合に課される・相続税の納付期限から2か月以内:7.3%・
相続税の納付期限から2か月超:14.6%
※原則7.3%もしくは14.6%の税率だが、原則の税率と「延滞税特例基準割合+1%」のいずれか低い割合が適用
※※出典:財務省「加算税の概要」、国税庁「No.9205 延滞税について

さらに、悪質な脱税と判断された場合は、刑事罰の対象となることもあります。

「相続財産に含まれるかわからない財産がある」「申告漏れのリスクを回避したい」という場合は、税理士に相談することをおすすめします。

【関連記事】相続税の時効は何年?さかのぼる年数や理由、ペナルティを解説

現金にかかる相続税を節税する方法

現金や預貯金にかかる相続税を合法的に節税するには、以下のような「生前贈与制度」の活用が有効です。

  • 暦年贈与を活用する
  • 住宅取得等資金の贈与の特例を利用する
  • 教育資金の一括贈与の特例を利用する
  • 結婚・子育て資金の一括贈与の特例を利用する
  • 夫婦間贈与の特例を利用する
  • 相続時精算課税制度を活用する

ここでは、生前贈与の主な種類について紹介します。

暦年贈与を活用する

暦年贈与とは、贈与税がかからない「基礎控除(毎年110万円まで)」の範囲内で、計画的に資産を移転する方法です。

例えば、両親から子ども夫婦2組に毎年110万円ずつ贈与すると、年間440万円の資産を非課税で移転できます。これを10年続ければ、4,400万円もの資産を相続税なしで次世代に引き継げる計算になります。

ただし、贈与は各年において完全に成立している必要があるので、贈与契約書の作成や通帳記録などの証拠を残しておくことが重要です。

※参考:国税庁「No.4408 贈与税の計算と税率(暦年課税)

住宅取得等資金の贈与の特例を利用する

住宅取得等資金の贈与の特例とは、子や孫が住宅を取得する際の資金として贈与する場合、一定の条件を満たせば最大1,000万円まで非課税となる特例です。ただし、受贈者や住宅に関して細かい要件が設けられているので、適用できるかどうかをあらかじめ確認しておくことが重要です。

この特例は暦年贈与の基礎控除(110万円)とは別枠で利用できるため、大きな節税効果が期待できます。また、相続時精算課税制度との併用も可能です。

※参考:国税庁「No.4508 直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の非課税

教育資金の一括贈与の特例を利用する

教育資金の一括贈与の特例とは、1人につき1,500万円まで非課税となる特例があります。こちらも、暦年贈与と併用が可能です。

対象となる教育資金は、学校等の授業料、入学金、施設費、教材費、学用品費、通学定期券代などです。特例を利用するときは、金融機関の専用口座を通じて管理・払い出しを行います。

※参考:国税庁「No.4510 直系尊属から教育資金の一括贈与を受けた場合の非課税

結婚・子育て資金の一括贈与の特例を利用する

結婚・子育て資金の一括贈与の特例とは、1人につき1,000万円まで非課税となる特例を利用できます。この制度も、暦年贈与と併用が可能です。

結婚のときに必要となる婚礼費用や新生活のための住居費用、妊娠・出産・育児に必要な費用などが対象です。こちらも、金融機関の専用口座で管理します。

※参考:国税庁「No.4511 直系尊属から結婚・子育て資金の一括贈与を受けた場合の非課税

夫婦間贈与の特例を利用する

夫婦間贈与の特例とは、配偶者から居住用不動産や、居住用不動産を取得するための金銭の贈与を受けた場合に最大2,000万円までの贈与税が非課税となる制度です。

この特例を活用して、あらかじめ相続税率の高い配偶者から低い配偶者へと資産を移しておくことで、将来の相続税を軽減できます。

※参考:国税庁「No.4452 夫婦の間で居住用の不動産を贈与したときの配偶者控除

相続時精算課税制度を活用する

相続時精算課税制度とは、60歳以上の親から、18歳以上の子ども(または孫)へ贈与する際に選択できる制度です。贈与者が亡くなったときに、贈与財産と相続財産の価額を合計した金額から相続税額を計算し、相続税をまとめて納税します。

この制度を適用すると、2,500万円までの特別控除と年間110万円の基礎控除の両方を受けることが可能です。なお、控除額を超えた部分には一律20%の税率が適用されます。

相続税評価額が贈与時の価値で固定されるため、値上がりが見込まれる資産を贈与する場合に有効です。ただし、一度この制度を選択すると、暦年贈与への変更ができなくなる点に注意しましょう。

※出典:国税庁「No.4402 贈与税がかかる場合

【関連記事】相続時精算課税制度とは?必要書類とメリット・デメリットを解説

現金を生前贈与する際の注意点

生前贈与を活用するときは、以下の点に注意が必要です。

  • 贈与が成立する要件を満たす
  • 贈与の証拠を残す
  • 定期贈与とみなされないようにする
  • 生前贈与加算に注意する

どのようなことなのか、詳しくみていきましょう。

贈与が成立する要件を満たす

贈与が法的に成立するためには、贈与する側の「贈与する意思」と受け取る側の「受け取る意思」が必要です。さらに、贈与の対象となる財産が実際に移転されなければなりません。

例えば、親が子どもの口座に入金しても、親が通帳や印鑑を管理している場合は「贈与が完了していない」とみなされるリスクがあります。確実に贈与を成立させるためには、受贈者本人が管理・使用できる状態にする必要があります。

贈与の証拠を残す

贈与税の申告や将来の税務調査に備えて、贈与の事実を証明できる証拠を残しておきましょう。

  • 贈与契約書の作成
  • 銀行振込の際の振込依頼書のコピー
  • 受領書(現金の場合)
  • 贈与税の申告書のコピー

証拠がなければ税務署から贈与と認められず、相続税の対象とされる可能性があります。贈与契約は口頭の合意でも成立しますが、万が一に備えて証拠を残しておくと安心です。

定期贈与とみなされないようにする

毎年同じタイミングで同じ金額を贈与していると、「定期贈与」とみなされるリスクがあります。定期贈与だと判断されると、複数年の贈与が一括贈与とみなされ、多額の贈与税が課される可能性があるため注意しましょう。

このリスクを回避するには、「金額や時期に変化をつける」「明確な贈与の理由(結婚祝い、出産祝いなど)を設ける」などの工夫が必要です。

生前贈与加算に注意する

相続開始前の一定期間に行われた贈与は、相続財産に加算されて相続税の課税対象となります。加算対象期間は、以下のように相続開始日によって異なります。

被相続人の相続開始日加算対象期間
~令和8年12月31日相続開始前3年以内(死亡の日からさかのぼって3年前の日から死亡の日までの間)
令和9年1月1日~令和12年12月31日令和6年1月1日から死亡の日までの間
令和13年1月1日~相続開始前7年以内(死亡の日からさかのぼって7年前の日から死亡の日までの間)
※出典:国税庁「No.4161 贈与財産の加算と税額控除(暦年課税)

また、相続時精算課税制度を選択したときの贈与も相続財産に加算されます。

そのため、贈与を行うときは長期的な視点を持つことが重要です。特に高齢の方は、3年以内に相続が発生する可能性を考慮したうえで贈与計画を立てる必要があります。

現金の相続税対策は早めの準備が重要

現金や預貯金は、額面がそのまま相続税の評価額になります。そのうえ、適用できる控除や特例も少ないため、相続税の負担が重くなりやすい点に注意が必要です。

ただし、生前贈与や各種特例を活用することで、合法的に税負担を軽減できる可能性は十分にあります。

相続税対策は、相続が発生してからでは遅いケースが多いため、早めの準備がカギとなります。ご自身の資産状況や家族構成に合った節税方法を考えるためにも、相続税に詳しい税理士への相談を検討してみましょう。
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