相続人に認知症の人がいる場合の相続の手続き|取れる対応方法と対策

「相続人に認知症の人がいるけど、どうやって相続手続きすればいいのだろう?」

「もし自分が認知症になってしまったら、相続はどうなるの?」

相続を考えるにあたり、このような不安はありませんか?

この記事では、相続人に認知症の人がいる場合、どのように相続を行えばよいのかを解説します。また、自分や家族が認知症になる前に取れる対策についても紹介しますので、ぜひ参考にしてみてください。

遺産分割協議には相続人全員の同意が必要

故人の財産を誰が何をどれくらい相続するかを決める遺産分割協議では、相続人全員の同意が必要です。

遺産分割協議に参加できるのは、判断能力のある人のみ。認知症の人に正しく判断できる能力はないとされているため、相続人のなかに認知症の人がいる場合は、遺産分割協議ができません。また、認知症の人は故人の財産を相続するか、破棄するかも判断できないと考えられます。

つまり、認知症の相続人に遺産破棄させ、判断能力のある相続人だけで遺産分割協議を行うことはできません。

相続人に認知症の人がいる場合の相続手続き

前述のとおり、認知症を患っている相続人がいる場合、遺産分割協議はできません。では、認知症の相続人がいるケースでは、どのように遺産を分割すればよいのでしょうか。

相続人に認知症の人がいる場合は、以下の2つから相続手続きを選択できます。

  • 法定分での相続手続き
  • 成年後見人をつけての遺産分割協議

それぞれのパターンについて、詳しくみていきましょう。

法定分での相続手続き

相続人のなかに認知症の人がいる場合、遺産分割協議はできませんが、法定相続で手続きを進めることは可能です。

法定相続とは、民法887条から890条に定められている相続手続きのことです。故人が遺言なく亡くなった場合に、その財産を民法にて定められた配分で相続人に分割します。遺産分割協議のように話し合いは不要なため、認知症の相続人がいても平等に遺産を分割できるのがメリットです。

法定相続の範囲は故人との続柄によって異なり、配偶者はつねに相続人となります。そのほかの順位は、第1順位子供、第2順位直系卑属、第3順位兄弟姉妹です。

相続人の立場による法定相続分のパターンは、以下のとおりです。

相続人法定相続分
配偶者・子供配偶者:2分の1子供:2分の1
配偶者・直系卑属配偶者:3分の2直系卑属:3分の1
配偶者・兄弟姉妹配偶者:4分の3兄弟姉妹:4分の1
参考:国税庁「No.4132 相続人の範囲と法定相続分」

なお、子供や直系卑属、兄弟姉妹が複数いる場合は、法定相続分を人数で均等に分けます。

成年後見人をつけての遺産分割協議

どうしても法定相続での手続きはしたくないという場合、認知症の相続人に成年後見人をつければ遺産分割協議もできます

成年後見人とは、認知症や知的障害、精神疾患により本人一人で意思決定できないとき、契約や手続きを支援する制度です。本人の判断能力に合わせ、後見人が後見・保佐・補助の支援を行います。

成年後見人の選任は家庭裁判所が行い、専門的知識をもつ法定代理人を立てることで、相続人に認知症の人がいても、遺産分割協議を実行できるようになります。

法定相続で相続手続きする場合の問題点

相続人に認知症の人がいるケースで、法定相続にて相続手続きを行う場合は、主に以下のような問題点を理解しておく必要があるでしょう。

  • 税負担を減らすための特例が使えない
  • 不動産は分割できないので共有名義となる

それぞれの問題点を正しく理解することで、相続人のなかに認知症の人がいた場合、どのように対応すればよいかが分かります。

税負担を減らすための特例が使えない

法定相続で手続きする場合、遺産分割協議を行えば利用できる相続税の軽減措置が活用できません。

たとえば、土地の評価額を最大80%軽減し、納める相続税を軽減できる小規模宅地の特例が挙げられます。分割できない土地は相続人同士の共同名義となるため、小規模宅地の特例条件を満たせず適用されません。

不動産は分割できないので共有名義になる

繰り返しになりますが、土地や住宅などの不動産は法定相続分として分割できません。そのため、法定相続の手続きをすると不動産は相続人の共有名義となってしまいます。

遺産分割協議を行えば、たとえば配偶者が不動産を受け取り、ほかの相続人は法定相続分の他の財産をもらうなど、別の形でも財産を分割できるようになります。

成年後見人をつけるときの注意点

法定相続で手続きするのにデメリットがあるなら、認知症の相続人に成年後見人をつけて手続きすればいいのでは、と思うかもしれません。しかし、成年後見人をつけるときは以下のように注意すべきポイントがあります。

  • 認知症の相続人に法定分の相続財産を用意する必要がある
  • 成年後見人に報酬を支払う必要がある
  • 遺産分割協議後も成年後見は続く

ここでは、上記の注意点について詳しく解説します。

認知症の相続人に法定分の相続財産を用意する必要がある

成年後見人は成年後見人制度を受ける人、つまり被後見人を保護する目的があるため、遺産分割協議でも法定相続分より少ない財産を割り当てることはできません。

被後見人の権利を主張する職務があるため、通常の遺産分割協議のように柔軟な相続にはならないのが実情です。

成年後見人に報酬を支払う必要がある

成年後見人の選任は、家庭裁判所が行います。とくに専門的な知識が必要となる相続の場面では、外部の専門家が選任される可能性が高いため、成年後見人に対する報酬にも注意する必要があるでしょう。

この後説明しますが、成年後見人は一生涯続くものですので、一度利用すると一生涯費用を支払わなければなりません。親族が成年後見人となればよいのですが、認知症の相続人が一定以上の財産を持っている場合、専門家が成年後見人となる可能性が高いため、毎月の費用負担が増えることを承知しておきましょう。

遺産分割協議後も成年後見は続く

先に説明したとおり、成年後見人制度は一度開始されると一生涯続くものです。

遺産分割協議のために成年後見人を立てた場合、協議終了後も成年後見の支援は続きます。成年後見人に専門家が選任されれば費用負担が、親族が選任されると責任負担が大きくなることを忘れないようにしましょう。

認知症の人が相続人にいるときに取れる対策

相続人のなかに認知症の人がいる場合、以下のような対策が取れます。

  • 遺言書を作っておく
  • 家族信託をする

上記の対策を取ることで、万が一相続が発生したときに手続きがスムーズになるメリットがあります。

遺言書を作っておく

あらかじめ遺言書を作っておくことで遺産分割協議は不要となるため、認知症の相続人に成年後見人を立てる必要もなくなります。

そもそも遺言書とは、故人の財産に対する意思表示です。「誰に何を(いくら)相続する」と書面に残すことで、亡くなったあとに相続でトラブルになることを防止できます。故人が誰に何をどれくらい相続するかを決めているため、認知症の相続人の判断能力にかかわらず、相続手続きを進めることが可能です。

家族信託をする

遺言書を作っておくほかに、家族信託をすることでも対策を取れます。

家族信託とは、認知症により自分の財産を管理できなくなった場合に備え、財産管理の権限を家族に委託しておく制度です。家族信託しておけば、その後認知症になり相続が発生した場合でも、委託された家族の判断で相続手続きができるようになります。

認知症になる前に家族信託をしておけば、相続が発生したときに遺産分割協議ができないリスクを回避できます。

相続人に認知症の人がいると相続手続きは難航しがち!事前対策が重要

認知症の人が相続人になっている場合、法定相続分での手続き、または成年後見人をつけたうえでの遺産分割協議により相続手続きを行う必要があります。遺産分割協議は相続人全員の同意が必要になるため、判断能力がないあるいは落ちている相続人がいる場合、実行できないためです。

相続人に認知症の人がいる場合は遺言書を作っておくか、高齢の家族が心配な場合は事前に家族信託により財産管理を委託してもらうことで、認知症による相続手続きのトラブルを回避できます。

ただし、相続手続きは専門的な知識が必要になるため、認知症の相続人に対する不安は相続に詳しい税理士に相談しておくことをおすすめします。相続に関しては、「相続税申告プラザひろしま」へお気軽にご相談ください。