自分で相続税申告をする方法|準備から申告の流れ、不要なケースを解説

一見すると難しそうに思われる相続税の申告ですが、実はやり方を理解していれば、自分で行うことも可能です。専門家に依頼するコストを抑えたかったりプライバシー面が気になったりする場合は、自分で申告することを検討してみても良いかもしれません。

この記事では、相続税申告の対象者や手続きの流れ、注意点について解説します。自分で申告するときの準備から具体的な方法までわかりやすくお伝えしていきますので、ぜひ参考にしてください。

相続税申告には複雑な手続きが多く、間違いがあると追徴課税などのペナルティを受けるリスクもあります。少しでも「難しそう」「自分にできるか不安」と感じる方は、専門家に相談することをおすすめします。

相続税申告が必要な人

相続税申告には、申告が必要な人とそうでない人がいます。自分が申告対象者に該当するかどうかを確認することが、相続税申告の第一歩です。

ここでは、相続税申告が必要なケースと不要なケースについて詳しく解説します。

※出典:国税庁「相続税の申告のしかた

必要なケース

相続税申告の対象者は、原則として「法定相続人」と「受遺者」です。法定相続人とは、民法で定められた相続権を持つ人を指します。一方で受遺者は、遺言によって財産を受け取る人です。

ただし、これらの人々全員が必ず申告しなければならないわけではありません。相続税申告が必要となるのは、相続財産が基礎控除額を上回った場合です。基礎控除額については後ほど詳しく説明しますが、簡単に言えば「相続税がかからない金額の上限」を意味します。

また、次のような場合は、基礎控除額を下回っていても申告が必要です。

  • 相続時精算課税制度を利用していた場合
  • 未分割遺産がある場合
  • 相続税の軽減措置を受けたい場合

これらのケースに該当するか判断に迷う方は、税務署や税理士に相談して申告の必要性を確認しておきましょう。

不要なケース

原則として、相続財産の総額が基礎控除額以下になる場合は、相続税申告が不要です。

基礎控除額は以下の計算式で算出されます。

基礎控除額=3,000万円+(600万円×法定相続人の数)

例えば、法定相続人が配偶者と2人の子どもの場合、基礎控除額は「3,000万円+(600万円×3人)=4,800万円」ということになります。この場合、相続財産の総額が4,800万円以下であれば、相続税申告は不要です。

ただし先述の通り、一部のケースでは基礎控除額を下回っていても申告を行わなければいけません。また、相続財産の評価には専門的な知識が必要なので、不安な場合は税理士などの専門家に相談することをおすすめします。

相続税申告の流れ

相続税申告を自分で行うときの流れは、以下のとおりです。

  1. 申告に必要な書類を手に入れる
  2. 法定相続人を確定させる
  3. 相続財産をすべて確定させる
  4. 必要な公的書類を作成する
  5. 申告書を税務署に提出する

各プロセスの詳細をみていきましょう。

申告に必要な書類を手に入れる

まずは、相続税の申告書を手に入れましょう。相続税申告書は第1表から第15表まであり、各相続人の状況によって必要になるものは異なります。

申告書は、最寄りの税務署で入手するか、国税庁のホームページからダウンロードして入手しましょう。税務署では必要な書類や記入方法について質問できるので、初めて申告する方には、税務署に赴いて直接入手する方法をおすすめします。

※参考:国税庁「相続税の申告書等の様式一覧(令和5年分用)

法定相続人を確定させる

次に、法定相続人を確定させましょう。法定相続人の数が確定しなければ、基礎控除額や「財産を何人で分ければ良いのか」を把握できません。

法定相続人とは、民法で定められた相続権を持つ人のことです。一般的に配偶者は常に相続人となり、次いで子ども、親、兄弟姉妹の順で相続権が発生します。

法定相続人を確定させる際は、以下の点に注意しましょう。

  • 実際に遺産を取得しない・相続放棄した法定相続人も人数に含める
  • 法定相続人に含める養子は最大2人まで
  • 受遺者は法定相続人に含まれない
  • 離婚した配偶者が養育している実子や非嫡出子も法定相続人に含める

なお、養子縁組をしている場合のポイントについてはこちらの記事で紹介しています。あわせてご覧ください。

【関連記事】養子縁組で相続が変わる?相続の範囲やメリット・デメリットを解説

相続財産をすべて確定させる

相続財産目録を作成し、正味の遺産総額を算出します。相続財産には、プラスの財産(現金、預貯金、不動産など)だけでなく、マイナスの財産(債務、葬儀費用など)も含まれます。

相続財産の確定は、相続税申告のなかでも特に重要な作業です。財産の見落としや評価額の誤りがあると申告漏れとなり、あとから問題になる可能性があります。

次のような財産は見落としやすいので、よく確認しておきましょう。

  • 生命保険金
  • 退職金
  • 借地権
  • 著作権や特許権などの知的財産権
  • 海外にある財産

計算間違いや財産に見落としがある場合は、税務調査によって指摘を受けるリスクがあります。場合によっては追徴課税が行われることもあるので注意しましょう。

相続財産のなかでも、不動産の評価は難しいため、慎重に価値を計算することが大切です。

必要な公的書類を作成する

相続税申告には、いくつかの公的書類が必要です。ここでは、すべての方に必要となる5種類の書類の書き方を解説します。

なお、書類の詳しい記載方法は「相続税の申告のしかた」で説明されています。わからないことがあれば、こちらもご参照ください。

第1表:相続税の申告書

第1表は、相続税申告の「結論」を示す重要な書類です。誰がいくら納税するのかを明記する必要があるので、相続税の計算を終えてから記載することをおすすめします。

主な記入項目は、次のとおりです。

  • 被相続人の情報
  • 相続人の情報
  • 相続税額の計算結果
  • 申告者の署名捺印

第1表上部にある被相続人の情報や相続人の情報は、計算が終わっていない段階でも記入が可能です。漏れがないよう、あらかじめ記入しておいても良いでしょう。

第2表:相続税の総額の計算書

第2表では、相続税の総額を計算します。主な記入項目は次のとおりです。

  1. 課税価格の合計額
  2. 遺産に係る基礎控除額
  3. 課税遺産総額
  4. 法定相続人・法定相続分に応ずる取得金額
  5. 法定相続按分に応ずる取得金額
  6. 相続税の総額

基本的には、表の内容に従って計算を進めていけば相続税の総額を計算することが可能です。計算自体はそこまで複雑ではありませんが、課税価格や法定相続人を正確に把握しなければいけない点に注意が必要です。

第11表:相続税がかかる財産の明細書

第11表には、相続税の課税対象となる財産について詳しく記入します。

主な記入項目は、次のとおりです。

  1. 財産の種類(現金、預貯金、有価証券、不動産など)
  2. 財産の所在地や数量
  3. 財産の価額
  4. 財産を取得した人の氏名

第11表に記載した内容は、このあとに紹介する第15表に集計します。集計しやすいように、「土地→家屋→有価証券→現金・預貯金」の順番で記載することがおすすめです。

第13表:債務及び葬儀費用の明細書

第13表には、被相続人の債務や葬儀費用の明細を記入します。ここに記載した費用は、相続財産の金額から差し引くことが可能です。

主な記入項目は以下の通りです。

  1. 債務の種類(借入金、未払金など)
  2. 債務の金額
  3. 葬儀費用の内訳と金額

なお、財産から差し引けるのは「被相続人が生前に支払っていなかった債務」のみです。例えば、未払いの住民税や借入金などが該当します。生前に支払った金額を控除することはできないので、注意しましょう。

第15表:相続財産の種類別価額表

第15表では、第11表や第13表に記載した財産を種類別に集計します。

ここで記入する項目は、次のとおりです。

  1. 財産の種類ごとの価額
  2. 相続人が取得した財産の価額
  3. 債務など差し引く費用の金額

第15表を作成して相続財産を正しく把握することで、正確な相続税の計算が可能になります。

場合によって必要な書類一覧

上記以外にも、控除や特例を適用する場合に必要となる書類がいくつかあります。

以下の表では、場合によって必要になる主な書類を紹介します。

書類名対象となるケース
第4表:相続税額の加算金額の計算書・暦年課税分の贈与税額控除額の計算書・相続人のなかに配偶者、子ども、親以外の続柄がいる
・暦年贈与を受けた
第5表:配偶者の税額軽減額の計算書配偶者控除を受ける
第6表:未成年者控除額・障害者控除額の計算書相続人が未成年もしくは障害者である
第7表:相次相続控除額の計算書被相続人が過去10年以内に別の相続をしたことがある
第8表:外国税額控除額・農地等納税猶予税額の計算書相続する財産が海外にある
第9表:生命保険金などの明細書死亡保険金を受け取った
第10表:退職手当金などの明細書死亡退職金を受け取った
第11・11の2表の付表1小規模宅地等の特例を適用する

このように、相続税申告の際はさまざまな書類を提出する必要があります。ご自身にどのような書類が必要かわからないときは、税務署に問い合わせるか専門家に相談しましょう。

申告書を税務署に提出する

すべての書類が完成したら、被相続人の住所を管轄する税務署に提出しましょう。

書類を提出するときは、次の点に注意してください。

  1. 被相続人の死亡を知った日の翌日から10か月以内に申告・納税する
  2. 戸籍謄本、遺産分割協議書のコピーなどの添付書類を忘れずに用意する
  3. 提出前に記入漏れや計算ミスがないか再確認する

管轄税務署が遠いなどの理由で直接持ち込めないときは、郵送で提出することも可能です。やむを得ず提出期限に間に合わない場合は、事前に税務署へ相談して期限延長の手続きをしましょう。

自分で申告する場合に相談できる場所

相続税申告を自分で行うときに、わからないことが出てくるのは当然です。

そのようなときに活用できる相談先として、以下の2つが挙げられます。

税務署の電話相談

税務署には、無料の電話相談窓口が設けられています。電話相談のメリットは、いつでもどこでも気軽に利用できる点です。

ただし、込み入った相談や具体的な個別の事案については、十分な回答が得られない可能性があります。そのため、基本的な質問や簡単な手続きの確認をしたい場合に適しています。

税務署の相談窓口

税務署の相談窓口では、対面でより詳細な相談ができます

電話相談よりも時間をかけてじっくりと内容を聞いてくれるので、複雑な質問にも対応してもらえる点がメリットです。ただし、予約が必要な場合が多いため、期限直前に慌てて相談することはおすすめできません。

税務署の相談窓口は無料で利用できますが、あくまでも一般的な相談に応じるサービスです。税務署の立場としては、「正しく納税してもらうため」にアドバイスをするので、節税効果の高い提案などを受けられない可能性があります。

個別の節税対策や相続手続きについては、税理士などの専門家に相談するほうがスムーズでしょう。

自分で相続税申告をするときに注意が必要なケース

相続税申告を自分で行う際、以下の4つのケースに該当する方は注意が必要です。

  1. 相続財産に見落としがあった場合
  2. 相続時精算課税制度を利用していた場合
  3. 暦年贈与をしていた場合
  4. 特例が適用されて相続税額が0円になる場合

それぞれどのような点に気をつけるべきなのか、詳細を説明します。

相続財産に見落としがあった場合

相続財産に見落としがあり申告が漏れてしまうと、税務調査の対象になる可能性が高まります。調査の結果、申告漏れが発覚すれば追徴課税や加算税が課されることがあるため注意しましょう。

特に、以下の財産は見落としやすい傾向にあります。

  • タンス預金
  • 子どもや孫名義の預金口座
  • ネット銀行やネット証券の財産
  • 高価な骨とう品や貴金属
  • 被相続人が貸していたお金 

相続税を申告するときは、被相続人の財産を正しく把握することが大切です。ご自身で調査することが難しい場合は、弁護士や司法書士などの専門家に財産調査を依頼することも検討してみてください。

相続時精算課税制度を利用していた場合

相続時精算課税制度とは、生前贈与を受けた財産と相続財産を合計した金額から相続税を計算して、一括で納付する制度です。

この制度を利用する場合は、2,500万円まで贈与税を納めずに贈与を受けられます。ただし、相続発生時に相続財産に持ち戻して相続税を計算する必要があります。

相続時精算課税制度を利用する場合、たとえ「正味の遺産総額が相続税の基礎控除額の範囲内」であっても、相続税の申告が必要になる可能性がある点に注意しましょう。贈与財産を相続財産に足し戻すと基礎控除額を超える場合は、相続税の対象になります。

※出典:国税庁「No.4103 相続時精算課税の選択

暦年贈与をしていた場合

暦年贈与とは、毎年一定額(現在は110万円)までの贈与を非課税で行える制度です。被相続人の死亡前3年以内に行われた暦年贈与は、相続財産に加算して相続税を計算する必要があります。

ただし、相続財産に加算されるのは法定相続人や受遺者への贈与分のみで、その他の第三者への贈与は対象外です。また、贈与税を納付している場合は、二重課税を防ぐために贈与税額控除を行わなければいけません。

なお、令和9年以降の相続より、相続財産に加算する贈与の対象が段階的に「相続開始前7年以内」まで延長されます

※出典:国税庁「令和5年度 相続税及び贈与税の税制改正のあらまし

特例が適用されて相続税額が0円になる場合

相続税額が0円になるときでも、特例や控除を適用する場合は申告が必要です。

例えば、以下のような特例を適用するときは相続税申告を行わなければいけません。

  1. 小規模宅地等の特例
  2. 配偶者の税額軽減
  3. 農地等の納税猶予

これらの特例や控除は、「相続税の申告」を行うことが適用条件となっています。つまり、申告しなければ特例や控除を受けられないのです。

例えば、小規模宅地等の特例を適用すると、居住用宅地の評価額を最大80%減額できます。この特例で相続税額を0円にできる方であったとしても、申告を行わなければ特例自体が適用されず、結果として相続税が課されてしまうのです。

相続税申告は専門家に相談するのがベスト

基本的な流れや注意点を理解すれば、自分で相続税の申告を行うことは可能です。

しかし、相続税申告には多くの専門知識が必要になるうえ、申告ミスによる追徴課税のリスクもあります。「相続財産の把握や相続税の計算に不安がある」「しっかりと節税したうえで適正に納税したい」という場合は、税理士に相談することがおすすめです。

相続税申告相談プラザひろしま」では、相続と向き合い30年以上の専門家が相続手続きのサポートを実施しています。相続税申告でわからないことやお困りのことがあれば、お気軽にご相談ください。