自分が選んだ自治体に納税する「ふるさと納税」が、相続税の節税方法のひとつとして注目を集めています。しかし、ふるさと納税が節税に有効だと聞いたことがあっても、「節税になるのか」「活用方法がわからない」と疑問を抱く方は少なくありません。
この記事では、ふるさと納税で相続税対策ができるのかについて説明します。具体的な計算方法や注意点も解説するので、ぜひ相続税の負担軽減にお役立てください。
ふるさと納税とは
ふるさと納税とは、自分の選んだ自治体に寄付制度です。実質的には税金を前払いする仕組みですが、自己負担2,000円で寄付を行った自治体から返礼品を受け取れるため、お得に納税できる点が大きなメリットです。
ふるさと納税の仕組みをわかりやすく説明すると、次のようになります。
- 寄付者が任意の自治体に寄付を行う
- 寄付額のうち2,000円を超える部分について、所得控除(所得税)と税額控除(住民税)を受ける
- 自治体から寄付のお礼として返礼品が贈られる
なお、ふるさと納税は2008年に導入された制度で、利用者数は年々増加しています。総務省によると、2022年度の受入額は約9,654億円、受入件数は約5,184万件にものぼることがわかっています。また、控除適用者数は約891万人でした。
ふるさと納税を活用すれば、希望する返礼品を受け取りつつ、自分の選んだ自治体を支援することができます。
※出典:総務省「ふるさと納税に関する現況調査結果(令和5年度実施)」
寄付金控除との関係
寄付金控除とは、特定の団体や目的のために行った寄付金について、一定の金額を所得金額や税額から控除できる制度です。
寄付金控除の対象となる主な団体は、次のとおりです。
- 国や地方公共団体
- 公益社団法人・公益財団法人
- 学校法人・社会福祉法人
- 認定NPO法人
※出典:国税庁「No.1150 一定の寄附金を支払ったとき(寄附金控除)」
ふるさと納税は、税法上「寄付金控除」の一種として扱われますが、より減税効果が大きい点が特徴です。その理由は、表のとおりです。
ふるさと納税 | 寄付金控除 | |
控除最大額 | 寄付額から2,000円を引いた全額※ | 寄付額から2,000円を引いた額の40%が上限 |
控除方式 | ・所得税:所得控除 ・住民税:税額控除 | 所得控除 |
返礼品 | あり | なし |
※※出典:国税庁「No.1155 ふるさと納税(寄附金控除)」
国税庁「No.1150 一定の寄附金を支払ったとき(寄附金控除)」
総務省「ふるさと納税のしくみ」
上記のように、ふるさと納税の控除最大額には上限が設けられておらず、さらに所得控除(所得税)と税額控除(住民税)の両方を受けられるもので、減税額が大きくなります。また、返礼品がもらえるのも、ふるさと納税の特筆すべき特徴です。
なお、寄付金控除と似た名称の制度として、「寄付金特別控除」というものもあります。寄付金特別控除は政党や認定NPO、公益社団法人に寄付した場合に適用される制度で、寄付金に応じた所得控除もしくは税額控除を受けられます。
ふるさと納税は相続税節税に有効
結論からいうと、ふるさと納税は相続税の節税効果を発揮してくれます。
相続財産でふるさと納税をした場合でも、法律上は「寄付金控除」に該当します。寄付した金額分を相続財産から控除できるので、相続財産の評価額が減ることで、相続税の減額につながるのです。
さらに、ふるさと納税をした相続人は、所得税を計算するときの所得控除や住民税の税額控除を受けることもできます。つまり、相続財産でふるさと納税をすれば、返礼品を受け取りつつお得に納税できるということです。
※出典:国税庁「国等に対して相続財産を贈与し、相続税の非課税規定の適用を受けた場合」
ふるさと納税で相続続税を節税するための要件
ふるさと納税で相続税を節税するためには、以下の要件を満たす必要があります。
期限内に相続税の申告・納付をしている相続税の申告期限までに寄付を行い、寄付証明書を提出している寄付を行う前に遺産分割協議が完了している寄付が遺言によるものではない取得した財産をそのまま寄付している返礼品の総額が50万円を超えていない |
上記の要件を満たせば、ふるさと納税による相続税の節税が可能になります。
ただし、各要件には細かな注意点があります。詳細は後述するので、あわせてご覧ください。
ふるさと納税を活用する場合の減税額と計算方法
ふるさと納税で減額できる税金は、以下の3つです。
- 所得税
- 住民税
- 相続税
ここでは、具体的な減税額と計算方法についてみていきましょう。
所得税
ふるさと納税を行うと、ふるさと納税額から2,000円を差し引いた金額を所得金額から控除できます。控除額の具体的な計算式は、次のとおりです。
所得控除税額=(ふるさと納税額-2,000円)×所得税の税率×1.021 |
令和19年中の寄付までは、所得税の税率は復興特別所得税の税率(102.1%)を加えた率となります。所得税率は、国税庁のホームページから確認が可能です。
例えば、年収700万円(所得税率20%)の方が10万円のふるさと納税を行った場合、「(10万円-2,000円)×20%×1.021=2万円(100円未満切り捨て)」が控除額になります。
住民税
住民税の減税額は、「基本分」と「特例分」の合計から求められます。
基本分=(ふるさと納税額-2,000円)×10%特例分 =(ふるさと納税額-2,000円)×(100%-10%(基本分)-所得税の税率×1.021)※特例分 =(住民税所得割額)×20% |
※※出典:総務省「ふるさと納税のしくみ」
例えば、年収700万円(所得税率20%)の方が10万円のふるさと納税を行った場合、次のように計算されます。
- 基本分=(10万円-2,000円)×10%=9,800円
- 特例分=(10万円-2,000円)×(100%-10%-20%×1.021)=6万8,100円(100円未満切り捨て)
つまり、住民税の減税額は「9,800円+6万8,100円=7万7,900円」になるということです。
相続税
相続税を計算するときは、ふるさと納税額をそのまま課税遺産総額から差し引けます。そのため、相続税の減税額は次の式で表すことが可能です。
相続税の減税額=ふるさと納税額×相続税率 |
例えば、相続税率が10%の方が50万円寄付した場合、「50万円×10%=5万円」が相続税から減税されるということです。
ふるさと納税で相続税を節税する場合の注意点
ふるさと納税を活用して相続税を節税する際は、以下のポイントに注意する必要があります。
- 期限内に相続税申告と納税を完了させる
- 遺言に記載されていてはいけない
- 控除上限額に気をつける
- 換価した相続財産は控除の対象外になる
- 返礼品・一時所得の合計が50万円未満であること
- 申告を行うこと
どのようなことなのか、詳細を説明します。
期限内に相続税申告と納税を完了させる
ふるさと納税による相続税の節税を受けるためには、申告期限内に相続税を申告して、税金を完納する必要があります。つまり、相続開始から10か月以内に遺産分割協議を行い、相続税申告と納税を済ませなければいけません。
申告の際は、法人への遺贈や公益団体へ寄付した相続財産がある場合に記載する「申告書第14表」と、「寄付金受領証明書」も必ず提出してください。申告書第14表には、ふるさと納税を行った年月日や寄付先の所在場所などを明記します。
申告期限を過ぎてしまうと、ふるさと納税による控除が受けられなくなる可能性があります。また、申告期限を経過したあとに行ったふるさと納税は、寄付金控除の対象外となるため注意が必要です。
遺言に記載されていてはいけない
ふるさと納税による節税は、あくまで「相続人や受遺者の意思で行われること」が前提です。遺言書にふるさと納税に関する記載がある場合、寄付自体は可能ですが、控除の対象外となり節税効果が得られない点に注意しましょう。
なお、被相続人が生前中に行ったふるさと納税については、相続税の課税対象から除外されます。節税を考える際は、被相続人の生前から計画的に寄付することも検討してみると良いかもしれません。
控除上限額に気をつける
ふるさと納税で控除できる所得金額や税額には上限額が設定されており、それを超えて寄付すると自己負担額が増えてしまいます。そのため、寄付するほどお得になるわけではない点に注意が必要です。
ふるさと納税の上限額は、年収や家族構成、住宅ローンの有無などさまざまな条件によって異なります。例えば、ふるさと納税を行う方が年収500万円で妻と高校生の子どもが1人いる場合は、4万円までの寄付であれば自己負担額を除いた全額を、所得金額(所得税)と税額(住民税)から控除可能です。
とはいえ、控除額上限を超えて納税すること自体は可能です。上限額を超えても制度の対象外になることはないので安心してください。
なお、相続税を計算するときは寄付した財産をそのまま課税対象となる財産から差し引けるので、上限額はありません。
控除上限額の目安は、総務省のサイトよりご覧いただけます。あわせてご覧ください。
※参考::総務省「ふるさと納税のしくみ」
換価した相続財産は控除の対象外になる
相続税の寄付控除の対象となるのは、相続等で直接取得した財産に限られます。つまり、相続財産を換金して得た現金をふるさと納税に充てても、控除の対象にはなりません。
例えば、相続した不動産を売却して得た現金でふるさと納税を行った場合は、相続税の控除対象外となります。ふるさと納税で相続税対策したい方は、必ず相続した財産を現物のまま寄付しましょう。
返礼品・一時所得の合計が50万円未満であること
ふるさと納税を行って返礼品を受けとるときは、その年の返礼品と一時所得の合計額が50万円を超えないように注意しましょう。
なぜなら、ふるさと納税の返礼品は「一時所得」に該当するためです。一時所得の特別控除額は最高50万円なので、合計額が50万円を超えると所得税が発生してしまいます。
節税したいのであれば、返礼品の価値や一時所得の金額をしっかりと把握して、50万円未満に抑えることが大切です。特に高額な寄付を行う場合は、税負担が増えてしまうことがないように気をつけてください。
※出典:国税庁「ふるさと納税」を支出した者が地方公共団体から謝礼を受けた場合の課税関係」
申告を行うこと
通常、相続税額が発生しない場合は、相続税の申告を行う必要はありません。しかし、ふるさと納税を行ったことによって相続税が0円になった場合は、必ず申告を行ってください。
この申告は、ふるさと納税による寄付の事実を税務署に届け出るために必要です。相続税に寄付金控除を適用させるには相続税申告や書類の提出が必須なので、申告を怠ると控除が認められなくなる可能性があります。
ふるさと納税を用いた節税は税理士に相談を
ふるさと納税を活用すると、相続税の減税効果を得ることが可能です。しかし、制度をお得に活用するには、複雑な計算をしたり多くの要件を満たしたりする必要があるため、一般の方だけで節税効果の最大化を目指すことは困難です。
相続税対策としてふるさと納税をご検討の方は、ぜひ相続に詳しい税理士にご相談ください。専門知識を持った税理士であれば、一人ひとりの状況に応じた節税方法を助言できます。
「相続税申告相談プラザひろしま」では、相続と向き合い30年以上の専門家が相続手続きのサポートを実施しています。ふるさと納税や節税でわからないこと、お困りのことがあれば、お気軽にご相談ください。