農地の相続税の計算方法|相続税における農地の分類から評価方法まで解説

農地を相続するときは評価額を計算して申告し、相続税を支払わなければいけません。農地は分類ごとに評価方法が異なるため、相続手続きをするときは慎重に評価額を算出する必要があります。

本記事では、農地の相続税を計算する方法を解説します。

農地評価額の調べ方を知りたい方、相続手続きを控えている方は、ぜひこの記事で正しい知識を身につけてください。

相続税における農地の分類

農地法 第2条によると、農地とは「耕作の目的に供される土地全般」のことを指します。地目が田または畑である土地はもちろんのこと、今は耕作していなくても、耕作しようとすればいつでもできる土地も含まれます。

相続税を計算するときは、農地を以下の4種類に分類して取り扱うことが一般的です。

  • 純農地
  • 中間農地
  • 市街地周辺農地
  • 市街地農地

まずは、相続税における農地の分類を詳しくみていきましょう。

純農地

純農地とは、農作物の生産性が非常に高く、宅地への転用が難しい農地のことです。

具体的には、次の条件に当てはまる農地を指します。

  • 農用地区域内にある農地
  • 第1種農地
  • 甲種農地

第1種農地は、集団的に存在していて良好な営農条件を揃えている農地です。農用地区域内にある農地以外の農地で、次の要件のいずれかに該当するときは第1種農地に分類されます。

  • 集団的に存在している(おおむね10ヘクタール以上)
  • 土地改良事業等の施行に係る区域内にある
  • 農業生産力が高い

甲種農地は、第1種農地のうち特に良好な農営条件を備えている農地を指します。高性能農業機械による営農に適すると認められている、農業公共投資(土地改良事業等)から8年以内であるなどの特徴をもちます。

基本的に、農地転用することはできません。

中間農地

中間農地とは、第2種農地もしくは第2種農地と認められる農地のことを指します。

第2種農地とは、「市街化の区域内または市街地化の傾向が著しい区域内にある農地」に近接する区域や、市街地化が見込まれる区域内にある農地のことです。わかりやすくいうと、将来的に市街地として発展する可能性が高い環境にある農地を指します。

具体的に、次のような要件に当てはまる場合は、第2種農地として分類されます。

  • 街路が普遍的に配置されている地域内に存在している
  • 市街化の傾向が著しい区域に近接する区域にある農地で、規模が10ヘクタール未満
  • 駅、市町村役場等の公共施設から近距離に存在している

第2種農地は、周辺の土地が転用できない場合に限り、農地転用が許可されます。

市街地周辺農地

市街地周辺農地とは、農地以外への転用が許可される地域に存在しつつ、まだ転用の許可を受けていない農地を指します。市街地周辺農地は、第3種農地もしくは第3種農地と認められる農地を意味しています。

第3種農地とは、たとえば次のような要件を満たす農地のことです。

  • 市街地の区域内または市街地化の傾向が著しい区域内に位置している
  • 駅、市町村役場等の公共施設がら至近距離に位置している
  • 都市計画法上の用途地域が定められている区域内に位置している
  • 土地区画整理事業の施行区域に位置している など

つまり、「市街化が著しく進んでいる地域」周辺の農地は、第3種農地に分類されるということです。

第3種農地は、原則的に農地転用が許可されます。

市街地農地

市街地農地とは、市街化区域のなかに位置する農地を指します。次の要件のうち1つでも当てはまれば、市街地農地に分類されます。

  • 市街化区域のなかに位置する、農業のために使用される土地
  • 農地法第4条・第5条に規定される許可を受けた農地
  • 農地法等の規定により転用許可を要しないものとして、都道府県知事の指定を受けた農地

市街地農地は、すでに転用許可を受けていたり、農業委員会に届け出るだけで転用できたり、転用許可が必要なかったりと、市街地周辺農地よりも転用ハードルが低い点が特徴です。

市街地農地と市街地周辺農地は似ていますが、別物なのでしっかりと区別しておきましょう。

相続税評価における農地分類の確認手順

次に、相続税評価における農地分類の確認手順をみていきましょう。農地分類は、以下の流れで確認できます。

  1. 農地が市街化区域内にあるか
  2. 農地転用許可が出ているか
  3. 農用地区域内にある農地か
  4. 農地法における分類の特定

相続した農地がどの分類に当てはまるのか、ここで確認してみましょう。

農地が市街化区域内にあるか

まずは、評価対象の農地が市街化区域内にあるかどうかをチェックしましょう。

市街化区域内にある農地は、「市街地農地」です。この場合は、転用許可の申請などを行う必要はありません。

農地転用許可が出ているか

市街化調整区域や、線引きのされていない区域については、農地法における転用許可の有無を確認しましょう。

農地転用の許可を受けている土地であれば、「市街地農地」に当てはまります。この場合は、農地転用許可証が発行されているため、転用許可の申請は不要となります。

農用地区域内にある農地か

転用許可が下りていない農地の場合は、農用地区域内の農地かどうかについて調べましょう。

農用地区域内に存在する農地は、すべて「純農地」に分類されます。農地が農用地区域内にあるか否かは、市区町村の窓口で照会しましょう。

農地法における分類の特定

中間農地と市街地周辺農地の判別は、農地法の分類によって行うことになります。第2種農地の場合は「中間農地」、第3種農地の場合は「市街地周辺農地」ということです。

市街化が見込まれる地域にある農地や生産性の低い小集団の農地は「第3種農地」、市街地区域内や市街地化が著しい地域にある農地は「第2種農地」であると判断できます。

農地の評価方法

農地は、分類ごとに評価方法が異なります。

ここからは、農地の相続税評価方法を詳しくみていきましょう。

純農地

純農地は、倍率方式で評価します。倍率方式とは、固定資産税評価額に地域ごとに定めた倍率を乗じて計算する評価方式のことです。

つまり、純農地の評価額は次の計算式で算出されます。

固定資産税評価額×倍率

地域ごとの倍率は「路線価図・評価倍率表」で調べることが可能です。記載されている倍率の前に「純」と記載されている場合、その倍率が純農地に適用されることを意味しています。

なお、同じ地域でも田と畑では倍率が異なる場合があるため注意が必要です。

中間農地

中間農地も、純農地と同じく倍率方式で計算します。中間農地の評価額を計算する式は、次のとおりです。

固定資産税評価額×倍率

中間農地は、「路線価図・評価倍率表」の倍率の前に「中」と表示されている数値を適用します。純農地とは適用する倍率が異なるため注意が必要です。

市街地周辺農地

市街地周辺農地は、「市街地農地であるとして評価した額に80%を乗じた額」が相続税評価額になります。少しわかりにくいですが、計算式にすると次のとおりです。

農地が市街地農地であるとした場合の価額×80%

市街地周辺農地は住宅化の傾向が強い農地ですが、市街地農地ほどではないため、市街地農地の価額の80%相当の評価額に設定されているのです。

市街地農地

市街地農地は、純農地や中間農地と同じ「倍率方式」か、「宅地比準方式」で評価します。

宅地比準方式では、市街地農地を宅地であるとした場合の評価額から、その農地を宅地に転用するために必要な造成費用を控除して評価額を算出します。式にすると、次のとおりです。

(農地が宅地であるとした場合の1㎡あたりの価額−宅地転用に必要な1㎡当たりの造成費)×地積

農地が宅地であるとした場合の1㎡当たりの価額は、次の方法で調べられます。

  • 路線価地域→路線価で算出する
  • 倍率地域→評価しようとする農地にもっとも近接していて、用途・道路からの距離や形状がもっとも類似している宅地の評価額をもとに算出する

また、宅地転用の造成費は、工事の種類や地面の傾斜によって異なります。詳しい費用は、こちらの記事でご確認ください。

内部リンク: 市街地農地とは?市街地周辺農地との見分け方や評価方法を解説

生産緑地

生産緑地とは、市街化区域に位置し、生産緑地区に指定されている農地です。

生産緑地の価額は、生産緑地ではないものとして評価した価額から一定の割合を乗じて計算した金額を控除して算出します。計算式は次のとおりです。

生産緑地ではないものとして評価した価額-(1-控除割合)

生産緑地の控除割合は、図のとおりです。

課税時期から買取りの申出をすることができることとなる日までの期間割合
5年以下のもの10%
5年を超え10年以下のもの15%
10年を超え15年以下のもの20%
15年を超え20年以下のもの25%
20年を超え25年以下のもの30%
25年を超え30年以下のもの35%
※出典:国税庁「No.4626 生産緑地の評価

なお、相続時に買取りの申し出が行われていた生産緑地、または買取りの申出をすることができる生産緑地については、控除割合が5%となります。

農地の相続税評価は思うよりも複雑!正確に算出するためには専門家に相談を

一括りに農地といっても、農作物の生産性の高さや区域によって4つに分類することが可能です。相続税評価額を算出するときは、各農地に適した方法で計算する必要があります。

農地の相続税評価は、農地の分類や計算に専門的な知識が必要です。知識のない方が正しく評価することは難しいため、プロに相談することがおすすめです。

30年以上相続と向き合っている「相続税申告相談プラザひろしま」では、相続手続きのサポートを実施しています。農地の相続でお困りの方は、お気軽にお問い合わせください。