家族信託は認知症になってからでもできる?判断基準や成年後見制度との違いを解説

もし家族が認知症になってしまったら、「財産管理はどうなるのだろう?」と不安を感じていませんか?

家族信託なら、認知症になった場合の財産管理を子どもや孫に任せることができます。しかし、認知症を発症してから家族信託はできるのでしょうか。

この記事では、認知症発症後でも家族信託できるのか、できる場合の条件を紹介します。また、家族信託と後見制度の違いと手続きの方法についても説明しますので、ぜひ参考にしてみてください。

認知症になると原則家族信託はできない

まず、原則として認知症になると家族信託はできません

そもそも家族信託とは、家族へ財産の管理を委託する委託者と、委託された財産を管理する受託者で信託契約を結ぶことです。さらに、信託した財産から得られる利益を受け取る受益者も契約で設定できます。

この信託契約を結ぶ際、委託者になる人に判断能力があることが前提です。これは改正民法の第3条の2「意思能力」で以下のように記載されています。

民法第3条の2法律行為の当事者が意思表示をした時に意思能力を有しなかったときは、その法律行為は、無効とする。
引用:民法

つまり、意思能力を持たないと判断される認知症の人を委託者にして信託契約を結ぶことはできません

軽度認知症の場合は家族信託できる可能性もある

認知症になると家族信託はできませんが、軽度認知症の場合は信託契約が有効と判断される可能性もあります

繰り返しになりますが、家族信託する際は委託者の判断能力がポイントです。軽度認知症で症状が軽いと判断されれば、公証人が「委託者に判断能力がある」として信託契約が成立する可能性が高まります。

なお、厚生労働省の「e-ヘルスネット」によると、軽度認知症とは物忘れ程度の症状で、日常生活への影響はほとんどなく認知症と診断できない状態です。具体的には、以下の定義に当てはまる症状を指します。

  • 年齢や教育レベルの影響によらない記憶障害が存在する
  • 本人や家族から物忘れの訴えがある
  • 全般的な認知機能は正常である
  • 日常生活動作は自立している
  • 認知症とは診断できない

ただし、軽度認知症の症状が現れた人のうち、年間10〜15%は認知症に移行すると考えられています。そのため軽度認知症の場合、家族信託の手続き中に症状が悪化して認知症と診断され、信託契約を結べなくなる可能性もあります。
具体的に認知症か否かを判断する検査には、改訂長谷川子規簡易知能評価(HDS-R)が多く使われています。

認知症発症後には後見制度の利用を

もし認知症と診断された場合、本人の財産管理を家族に委託することはできないのでしょうか。

実は、認知症発症後は法定後見制度を利用することで、財産管理を委託できます

後見制度とは、認知症や知的障害により、判断能力が低下している人の財産を適切に管理するための制度です。後見制度には、任意後見制度と法定後見制度の2種類があります。それぞれの違いについて詳しくは、後述しますのでそちらを参考にしてみてください。

家族信託と後見制度の違い

家族信託も後見制度も、家族の財産を管理するために利用できる制度です。しかし、それぞれメリットもデメリットもあります。

成年後見制度は、家族信託より財産の管理や運用に制限がかかることがデメリットです。しかし、家族の介護や医療に関する法律行為に関われるようになります。

ここでは、家族信託と後見制度の違いを紹介します。

身上監護(しんじょうかんご)の有無

家族信託と後見制度の大きな違いは、身上監護が可能かどうかです。身上監護とは、被後見人の生活が保たれるように医療や介護などに関する法律行為を指します。

後見制度ではこの身上監護が可能ですが、家族信託はあくまで財産管理に限られるため行えません。成年後見制度で実施できる法律行為は、主に以下のものがあります。

  • 医療(リハビリを含む)
  • 介護(施設の入退所を含む)
  • 住宅

上記を見ると分かるとおり、後見制度では認知症になった本人の日常生活まで介入できます。

委託者の財産の運用範囲

もう一つ押さえておきたい違いは、委託者の財産運用の扱いです。

後見人制度はあくまで、本人に代わって財産を保管し、被後見人が必要なときに使えるように財産を預かるのが役割。投資行為や利益目的の運用、第三者への貸し付けなどは原則禁止されています。

一方、家族信託では財産の保管だけでなく運用まで携われることが違いです。つまり、家族信託では受託者が自由に委託者の財産を投資したり、利益目的で活用したりすることが可能となります。

法定後見制度と任意後見制度の違い

前述のとおり、後見制度には法定後見制度と任意後見制度の2種類があります。民法第858条によると、後見人の財産管理について以下のように記載されています。

民法第858条成年後見人は、成年被後見人の生活、療養看護及び財産の管理に関する事務を行うに当たっては、成年被後見人の意思を尊重し、かつ、その心身の状態及び生活の状況に配慮しなければならない。
引用:民法

ちなみに、以下の欠格事由に該当する人は後見にはなれません。

  • 未成年者
  • 法定代理人、保佐人、補助人
  • 自己破産して免責された人
  • 被後見人を訴訟している人またはその配偶者や直系血族者

また、後見人制度では後見人と被後見人の間に第三者の監督人が入ります。後見人は、後見人が適切に財産を管理していることを、定期的に監督人に報告しなくてはなりません。

法定後見制度

法定後見制度とは、家庭裁判所の選任により後見人を立てる制度です。

親が認知症になった場合でも、その子どもや親族が自由に後見人を選ぶことはできない点に注意が必要です。そのため、弁護士等の第三者の専門家が選任されるケースも珍しくありません。特にいわゆる資産家の場合、第三者の専門家が選任される可能性は高いです。

ただし、被後見人や家族の意思で候補者を立てることは可能です。その場合、家庭裁判所に申し立てて審判が確定したタイミングで、後見制度の効力が発揮されます。

法定後見人制度では、被後見人の判断能力の度合いにより、以下3種類の権限範囲に分けられます。

法定後見人の種類被後見人の状態権限の範囲
補助日常生活は問題ないが、1人では判断が難しいこともある家庭裁判所に申し立てて、認められた範囲に限る
保佐重要な法律行為を1人では行えない一定の行為に対する代理権、民法13条の1に当てはまる取消権と同意権
後見判断能力がまったくない保佐より広い範囲に適用される代理権、契約の取り消しができる取消権

同意権とは、他人の行為に賛成の意志を示すことで、被後見人の代わりに契約を締結することのできる権限を指します。

任意後見制度

任意後見制度とは、被後見人の判断能力があるうちに後見契約を結ぶ制度です。認知症になる前や軽度認知症のうちに契約しておくことで、万一に認知症を発症した際に効力を発揮します。

後見人の選任では、被後見人となる親や子どもの意思を反映することが可能です。ただし、契約するには公正証書の作成や任意後見契約に関する登記が必要となります。

また、任意後見契約は認知症になる前ですが、実際にその後見制度が発動するのは、家庭裁判所に被後見人が認知症になったことを申し立てて、審判が確定したときです。

認知症発症前に家族信託しておいたほうがいい理由

繰り返しになりますが、認知症を発症してからだと家族信託はできません。とくに、後見制度ではできない財産運用を検討している場合、認知症発症前に家族信託しておくことをおすすめします。

上記も含め、認知症の発症前に家族信託しておいたほうがいい理由は、以下のとおりです。

  • 財産管理の自由度が高い
  • 二次相続に対応できる
  • 月額報酬がない

それぞれの理由を詳しく解説します。

財産管理の自由度が高い

「家族信託と後見制度の違い」でも説明したとおり、2つの制度では委託者の財産の取扱いが異なります。

家族信託は、委託契約により財産の取扱い方が変わります。そのため、信託する財産を選んだり、投資運用をしたりと幅広い選択肢を選べることがメリットです。

成年後見制度では、被後見人の財産はすべて託され、その取扱いにもさまざまな制約があります。イメージとして、被後見人の財産を積極的に動かすものではありません。

二次相続に対応できる

二次相続とは、最初の相続で相続人となった配偶者が亡くなった際、発生する相続です。たとえば、父親が亡くなった後、母親がその財産を相続したものの数年後に他界。父親が残した財産を含め、子どもに相続されることを指します。

家族信託では、委託者の財産から得られた利益を受け取る受益者を指定できるため、代々に渡って受益者を指定して契約することで、二次相続の対策になります。

相続については「遺言書に記載しておけばよいのでは?」と思われるかもしれませんが、遺言書では一次相続までしか指定できません。また、成年後見制度では相続対策自体できないのがデメリットです。

月額報酬がない

後見人制度では、後見人や後見監督人が第三者の専門家が選任された場合、2万円以上の月額報酬が発生します。この月額報酬は被後見人が死亡するまで継続されるため、早めに対策した場合はより大きな金額が必要になります。

一方、家族信託では一般的に受託者に報酬は発生しません。ただし、家族信託の契約手続きの初期費用はかかります。とはいえ、月額報酬を支払い続けるよりも低コストになる可能性は高いでしょう。

家族信託と成年後見制度のどちらがいいのか

ここまで、家族信託と成年後見制度のメリットやデメリットを説明してきました。

では一体、どちらの制度を利用するのがいいのでしょうか?

家族信託か成年後見制度かを選択するには、親の生活状況や将来の財産の扱い方を考慮しながら検討する必要があります。ここでは、家族信託に向いているケース、成年後見制度に向いているケースをそれぞれ解説します。

財産管理を柔軟に行うなら家族信託

前述のとおり、家族信託は財産の扱いを契約で指定できるため、財産管理を柔軟に行いたい人に向いています。

具体的なケースを挙げると、以下のとおりです。

  • 親の財産を運用したい
  • 不動産などの財産を代々遺したい
  • 相続対策をしたい
  • 運用中の不動産がある
  • 障害のある子に財産を遺したい

障害のある子どもに財産を遺したい場合、第三者を受託者に、受益者を子どもに指定します。この場合、財産の運用は第三者に委ねられるが、その利益は障害のある子どもにもたらされる仕組みです。

本人の生活も心配な場合は成年後見制度

家族信託は将来的に認知症を発症したときのため、財産の扱いについて契約しておくことはできますが、医療や介護など本人の生活をサポートするためのものではありません。

その点、成年後見制度は認知症によって判断能力が低下した場合に、財産だけでなく医療・介護など生活に関する契約や手続きをスムーズに進めることができます。具体的には、以下のようなケースに向いています。

  • 介護サービス・入退院・リハビリなどの法律行為を行いたい
  • 家庭裁判所や監督人などの専門家に介入してほしい

家族信託の手続きの流れ

両親の認知症対策として家族信託の契約を結ぶ場合、双方が納得できるような信託契約書の作成や登記作業など、複雑な手続きが必要です。

そのため、家族信託契約を結ぶときは専門家に相談し、手続きを進めていくことをおすすめします。ここでは、家族信託の手続きの流れについて説明します。

認知症になる前に専門家に相談する

家族信託は、基本的に認知症発症前に契約を済ませる必要があります。そのため、家族信託契約を結ぶことが決まったら、両親の判断能力が低下する前に手続きを進めましょう。

まずは、家族信託の専門家である弁護士・司法書士・税理士・行政書士に相談するのがよいでしょう。家族信託の専門家は、信託財産の内容へのアドバイスや精査といったアドバイスももらうことができます。

契約内容が決まったら具体的な手続きを進める

家族信託の専門家に相談して契約内容が決まったら、次は以下のように具体的な手続きに入っていきます。

  1. 信託口口座を開設する
  2. 不動産登記を準備する
  3. 公正役場で公正証書を作成する
  4. 公正証書に沿って手続きを進める

公正証書とは、依頼を受けた公証人が作成する公文書のことで、法的に内容が証明されています。財産信託は「言った」「言わない」でもめることもあるため、契約は公正証書で作成するのが一般的です。

無事、公正証書の作成が完了したら、財産信託する現金や預金を信託口口座へ移動させたり、不動産の信託登記手続きを完了させたり手続きを進めていきます。

後々になって困らないためにも早めに専門家に相談しよう

家族信託または成年後見人制度を利用することで、認知症を発症した場合に備えられます。財産信託だけなら家族信託、本人の生活に関わる契約についても介入したいなら成年後見人制度を利用しましょう。

もし、家族信託を検討しているなら、本人の認知症の進行の恐れもありますので、早めに手続きを進めておくのがおすすめです。
家族信託において、
①すべての金融機関でも信託口口座を開設できるわけでもなく、金融機関各々で信託口口座に関する信託契約の取り決めがあります。
➁すべての司法書士が信託登記に対応しているわけではありません。
という状況があり、家族信託に関して熟練した専門家の対応が求められます。
相続税申告相談プラザひろしま」では、家族信託の契約に関する相談はもちろん、その後に生じる税務署に対する対応、契約が終了後の対応もお手伝いできます。

認知症により判断能力が低下する前に、まずはご相談ください。無料相談も受け付けております。