養子縁組をすると養子は法律上の子どもとなるため、養親が亡くなったときに法定相続人となることが可能です。しかし、養親に養子以外の子どもがいる場合、相続順位や手続きに違いが出るのか疑問に思う方は多いかもしれません。
養子縁組は相続対策として活用されることもありますが、メリットの一方でデメリットもあるため、双方を理解したうえで手続きを進めることが大切です。この記事では、養子縁組を行った場合の相続について説明します。
養子縁組とは
養子縁組とは、もともと血縁関係を持たない他人同士が親子関係を結ぶ制度です。養子縁組が成立すると、その日から子どもは養親の嫡出子(夫婦の間に生まれた子ども)になり、実子と同様に扱われるようになります。
一口に養子縁組といっても、手続き後の実親との関係性によって分類することが可能です。ここでは、養子縁組の2つの種類についてみていきましょう。
普通養子縁組
「養子縁組」というと、こちらの普通養子縁組を指すことが一般的です。
普通養子縁組は、養親と養子の間に親子関係を結んだうえで、実親との親子関係も継続する制度です。未成年を養子にするときは家庭裁判所の許可が必要ですが、成年を養子にするときは同意があれば成立させられます。
普通養子縁組の場合、養親と実親の両方と親子関係があるため、どちらが亡くなったときも相続権が発生します。
特別養子縁組
特別養子縁組は、実親との親子関係を断ち切って養親の養子となる制度です。未成年者の福祉増進のために設けられている制度で、普通養子縁組よりも厳しい条件で審査が行われます。
特別養子縁組の場合、実親との法律上の親子関係が消滅するため、実親が死亡しても法定相続人にはなりません。相続権が発生するのは、養親が亡くなったときのみです。
養子縁組の代表的なパターン
養子縁組を行う理由は家庭によってさまざまですが、代表的なパターンとして以下の3つが挙げられます。
- 孫と養子縁組する
- 子どもの配偶者と養子縁組する
- 連れ子を養子縁組する
なお、上記のようなパターンでは、普通養子縁組の手続きを行うことが一般的です。
ここでは、各パターンの詳細をみていきましょう。
孫と養子縁組する
よくあるのが、祖父母が孫と養子縁組を行って法定相続人にするケースです。
原則、孫は民法上の法定相続人に該当しないため、祖父母の財産を相続することはできません。孫が法定相続人になれるのは、被相続人の子どもが死亡している場合など、限られた状況下のみです。
しかし、養子縁組の手続きを行えば、孫を実子と同じ第1順位の法定相続人にすることができます。そのため、確実に相続権を与えるために養子縁組を行うケースがあるのです。
なお、孫に財産を渡す方法としては、生前贈与も検討できます。しかし、贈与税の非課税枠よりも相続税の非課税枠のほうが大きいため、節税対策として養子縁組を選択する方は少なくありません。
子どもの配偶者と養子縁組する
子どもの配偶者と養子縁組をするのも、よくあるパターンです。
例えば、要介護状態の父親を息子の妻が介護していたとします。面倒をみてくれていた息子の妻と養子縁組の手続きをしておけば、父親が亡くなったとき実子と同様に相続権を与えられるため、恩返しができます。
被相続人に特別な貢献をした人は、法定相続人でなくても「特別寄与分」として金銭を請求することが可能です。しかし、どれほど貢献したのかについての判断が難しいこと、相続人に請求する必要があることから、実際に請求が認められるケースは少ない傾向にあります。
そのため、自分に尽くしてくれた子どもの配偶者へ確実に財産を残す方法として、養子縁組が活用されるのです。
連れ子を養子縁組する
婚姻相手の連れ子を実子と同様に扱いたい場合も、養子縁組を行うことが一般的です。
どれほど配偶者や連れ子と睦まじく暮らしていても、血縁関係がなければ法的な親子とは認められません。連れ子と法的な親子関係を成立させるためには、養子縁組を行う必要があります。
特に、養子縁組を行わないと相続対策ができない点に注意が必要です。再婚相手の連れ子が自動的に法定相続人になるわけではないので、財産を残したい場合は、しっかりと養子縁組の手続きを済ませておきましょう。
養子と実子で相続における違いはない
養子縁組を行って法的な親子関係を結べば、養子と実子で相続における違いは発生しません。相続順位や法定相続分も実子と同じになりますし、普通養子縁組と特別養子縁組における違いもありません。
例えば、夫婦の間に2人の実子がおり、養子を1人迎えたとします。この場合で父親が死亡すると、配偶者が2分の1、実子2人と養子1人がそれぞれ6分の1ずつ財産を相続することになります。
相続における養子縁組のメリット
養子縁組の手続きを行うと、相続面で以下のようなメリットが生じます。
- 相続税基礎控除額が拡大する
- 生命保険の非課税控除額が拡大する
- 死亡退職金の非課税控除額が拡大する
どのようなことなのか、各項目について詳しくみていきましょう。
相続税基礎控除額が拡大する
養子縁組を行って法定相続人が増えると続税の基礎控除額を拡大できます。
相続税を計算するときは、次の計算式で算出される金額を遺産総額から控除可能です。
相続税の基礎控除額=3,000万円+(600万円×法定相続人の数) |
例えば、法定相続人が3人いる場合は「3,000万円+(600万円×3人)=4,800万円」の控除が受けられます。この場合、遺産総額が4,800万円以下であれば相続税は非課税となり、4,800万円以上であれば、基礎控除額を超えた金額にのみ課税されます。
つまり、法定相続人が多いほど控除額が大きくなり、相続税額を減らせるのです。養子縁組で法定相続人を増やすことで、大幅に節税できます。
生命保険の非課税控除額が拡大する
養子縁組で法定相続人を増やすと、生命保険の非課税控除額の拡大にもつながります。
被相続人が亡くなって死亡保険金を受け取るときは、次の計算式で算出される金額まで相続税が発生しません。
死亡保険金の非課税控除額=500万円×法定相続人の数 |
つまり、法定相続人が2人いる場合は「500万円×2人=1,000万円」までであれば、死亡保険金に相続税が課されないということです。死亡保険金が非課税控除額を超える場合は、1,000万円を超えた金額のみが課税対象となります。
養子縁組を行って法定相続人の数が増えれば、死亡保険金の非課税控除額が増額されるため、相続税の減額に効果的です。
死亡退職金の非課税控除額が拡大する
死亡退職金に関しても、次のように法定相続人の数に応じた非課税控除額が設けられています。
死亡退職金の非課税控除額=500万円×法定相続人の数 |
生命保険の非課税控除額と同様に、相続税は上記の計算式で算出された金額を超えた退職金にのみ課されます。こちらも養子縁組で法定相続人を増やすことで、非課税控除額を引き上げることが可能です。
人数の上限に注意
養子縁組を行って法定相続人を増やせば、基礎控除や非課税枠が拡大されて相続税の負担を軽減できます。しかし、計算に含められる人数には、次のように上限があるため注意が必要です。
- 実子がいる場合:養子の上限は1人
- 実子がいない場合:養子の上限は2人
例えば、実子が1人いて養子が2人いる場合、法律上では子どもが3人いることになります。しかし、計算の際に法定相続人としてカウントできるのは、実子1人と養子1人のみです。
ただし、特別養子縁組の場合や、被相続人の配偶者の子どもで養子縁組を行っている場合など、一部制限なく実子として取り扱われるケースもあります。養子をどのように扱えばよいのか判断するのが難しいときは、税理士などの専門家に相談してみるとよいでしょう。
相続における養子縁組のデメリット
養子縁組には、相続における以下のようなデメリットもあります。
- 相続税の2割加算が適用される
- 一人あたりの相続分が少なくなる
- 養子縁組する相手によっては相続税が高くなる
- 養子縁組により家族関係が変わる
各デメリットの詳細を説明します。
相続税の2割加算が適用される
相続税の2割加算とは、両親や子ども、配偶者などの一等親以外が遺産を受け取った場合に、各人の相続税額が2割加算される制度です。孫や第三者と養子縁組をして財産を相続するときは、相続税の2割加算が適用されます。
相続は、本来親から子ども、子どもから孫へ承継されることを想定しています。そのため、一代飛ばして相続する場合や偶然性の高い相続の場合は、税負担の均衡を図るために税負担を重くされるのです。ただし、代襲相続に該当するときは2割加算が適用されません。
一人あたりの相続分が少なくなる
養子縁組をして法定相続人を増やせば、一人当たりの相続分が減ります。例えば、もともと実子が3人だった家族に1人養子が加わると、一人あたり3分の1だった相続分が4分の1に減ってしまうということです。
養子縁組をする理由はさまざまですが、相続分が減ることで実子が不満を抱く可能性は十分に考えられます。一方で、遺産協議トラブルが発生するリスクがあることは理解しておきましょう。
養子縁組する相手によっては相続税が高くなる
養子縁組をする相手によっては、法定相続人の数が減少することで相続税が高くなるケースがあります。
例えば、子どもがいない夫婦がいたとしましょう。夫にはすでに亡くなっている兄がいて、兄と配偶者の間には3人の子どもがいます。このケースで夫婦のうち夫が亡くなった場合、法定相続人の数は妻と兄の子ども3人を合計した4人です。
ここで、兄の子どものうち1人を養子にしたケースをみてみましょう。この場合、法定相続人は妻と養子だけになってしまい、法定相続人の数が2人に減少してしまいます。
法定相続人の数が減れば、基礎控除や非課税枠が縮小されます。そのため、養子縁組を行わなかった場合と比べると相続税が高くなってしまうのです。
養子縁組は、必ずしも相続税対策に有効というわけではありません。「自分の場合はどうなのか」をしっかりと考え、手続きを行うべきかを慎重に判断する必要があります。
養子縁組により家族関係が変わる
例えば、Aに実子BとCがいて、Bの子Dを養子にすると、BとDが親子関係というのは従来と変わりませんが、新たにBとDが兄弟ということにもなり、家族関係が変わります。相続は相続税のことだけを考えればよいわけでもないので、ここは慎重に考えたいところです。
ましてや、Cから見れば甥であったDが、養子縁組により兄弟になっています。法定相続分から考えれば、養子縁組前はBとCは1:1であったのが、養子縁組後はDの相続分も考慮するとBとCが2:1になり、Cが不利になっているとも考えられます。そのためDの養子縁組により、BとCの人間関係が不和になり、争族に発展することも考えられ、考慮しないといけないポイントです。
また、養子縁組により苗字が変わることもありますので、このチェックも事前に必要です。
養子縁組の手続き方法
普通養子縁組は、次の書類を市区町村の戸籍係に提出して手続きを行います。
- 養子縁組届
- 戸籍全部事項証明書
(養子および養父の本籍地でない役所に届出する場合) - 本人確認のできるもの
なお、養子縁組には養親と養子本人の合意が必要です。養子が15歳未満の場合は、養子の法定代理人が本人に代わって合意します。
未成年を養子にするときは、市区町村へ届け出る前に家庭裁判所への申立を行い、許可を得る必要があります。ただし、養子が連れ子もしくは孫の場合は、家庭裁判所の許可は不要です。
特別養子縁組は、養親が養子となる子どもをあらかじめ6か月以上監護しており、監護状況も含めて家庭裁判所が必要と認めた場合のみ成立します。また、「養親に配偶者がいること」「養子となる子どもが15歳未満であること」など、細かい要件が定められています。手続きを希望する際は、養親の住所地を管轄する家庭裁判所に申立を行いましょう。
なお、養子縁組の手続き自体に費用はかかりません。戸籍謄本を発行する際の手数料や、家庭裁判所に申し立てるときに必要な収入印紙(800円)のみで手続きが可能です。
※参考:法務省「養子縁組について知ろう」
養子縁組による相続税節税の相談は専門家へ
養子縁組は、相続税対策に有効な制度です。養子にすることで、実子と同じように財産を相続させたり相続税の基礎控除や非課税枠を拡大したりできるようになります。
ただし、養子縁組には「相続税の2割加算が適用される」「相手によっては相続税が高くなる」などのデメリットもあります。さらに、明らかに相続対策だとわかる養子縁組に関しては、否認されるリスクがあるため注意が必要です。
「相続税申告相談プラザひろしま」では、相続と向き合い30年以上の専門家が相続手続きのサポートを実施しています。養子縁組による相続対策でわからないことやお困りごとがあれば、お気軽にご相談ください。