遺産の相続人が障害者の場合、相続税から一定の金額を差し引く「障害者控除」の適用が受けられます。障害者控除では相続税が直接減額されるため、高い節税効果を得ることが可能です。
ただし、障害者控除の適用を受けるときは、所定の手続きを行ったり注意点に留意したりする必要があります。
この記事では、相続税における障害者控除について詳しく説明します。適用となる条件や注意点を知って、相続税の負担を軽減しましょう。
なお、本記事では国税庁の表記に倣い、障がいのある方を「障害者」と表記しています。
障害者控除とは
相続税の障害者控除とは、相続人が障害を持っている場合に、相続税額から一定の金額を差し引くことができる制度です。
この制度は、障害のある方の多くが親族の扶養に入っており、生活の支援を受けていることに配慮するためのものです。扶養していた家族が亡くなることで障害者に多額の相続税が課されれば、その後の生活に支障が出る可能性が高まります。このような事態を防ぐための制度が、相続税の障害者控除なのです。
障害者控除は基礎控除とは異なり、課税遺産総額ではなく相続税から直接税額が差し引かれます。そのため、税負担の軽減効果が非常に高い点が特徴的です。
障害者とする法的な判定基準
障害者控除の要件を満たす障害者であるかどうかについての判断基準は、障害者手帳の有無です。障害者手帳が交付されている場合は、障害者控除の対象者であると判断されます。
また、障害者手帳を持っていない方でも、以下のような場合は障害者であると認められることがあります。
- 障害者手帳を申請中で、医師の診断書が証拠書類として認められる場合
- 被相続人が亡くなったあとに障害者手帳の交付を受け、相続開始時に障害があったと判断された場合
- 寝たきり状態にあり、市区町村長などから認定を受けている場合
- 要介護認定を受けており、「障害者控除対象者認定書」が発行されている場合
ご自身やご家族が障害者に該当するか判断できない場合は、市区町村の窓口で一度相談してみるとよいでしょう。
障害者控除の対象者と控除額
障害者控除の対象者となる要件は、次の通りです。
- 相続や遺贈で財産を取得したときに日本国内に住所がある
- 相続や遺贈で財産を取得したときに障害者である
- 相続や遺贈で財産を取得した人が法定相続人である
なお、障害者控除の対象となる障害者には2つの種類があります。
障害の内容 | 一般障害者 | 特別障害者 |
精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある人 | – | 該当するすべての方 |
精神保健指定医などから知的障害者と判定された方 | 中度・軽度の方(療育手帳の障害の程度がB、B1、B2、C、愛の手帳の3~4度の方) | 重度の方 (療育手帳の障害の程度がA、A1、A2、愛の手帳の1~2度の方) |
精神に障害がある方で精神障害者保健福祉手帳の交付を受けている方 | 右の程度以外の方 | 精神障害者保健福祉手帳の障害の程度が1級の方 |
身体障害者手帳に身体上の障害がある方として記載されている方 | 障害の程度が3級から6級までの方 | 障害の程度が1級または2級の方 |
戦傷病者手帳の交付を受けている方 | 右の程度以外の方 | 障害の程度が恩給法特別項症から第33項症までの方 |
原子爆弾の被爆による障害者として厚生労働大臣の認定を受けている方 | – | 該当するすべての方 |
常に就床を要し、複雑な介護を要する方 | – | 該当するすべての方 |
年齢が65歳以上で、福祉事務所長等から認定されている方 | 右の程度以外の方 | 特別障害者と同程度の障害がある方 |
障害者控除の金額は、一般障害者と特別障害者で次のように異なります。
- 一般障害者:(85歳-相続開始時の年齢)×10万円
- 特別障害者:(85歳-相続開始時の年齢)×20万円
このように、障害者控除はご本人が満85歳になるまでの年数に応じて金額が変わる点が特徴的です。
※出典:国税庁「No.4167 障害者の税額控除」
障害者控除の計算方法
障害者控除を用いて相続税を算出するときは、次の計算を行います。
控除後の相続税額=障害者の相続税額-障害者控除の金額 |
例えば、45歳の一般障害者の方に課される相続税の金額が500万円だった場合、障害者控除後の相続税は次のように計算されます。
- 障害者控除の金額=(85歳-45歳)×10万円=400万円
- 控除後の相続税額=500万円-400万円=100万円
85歳になるまでの年数をカウントするときは、相続開始時の満年数を引く点に注意しましょう。45歳11か月の場合は、45歳として計算します。
相続税額より障害者控除のほうが大きい場合は?
障害者の年齢や障害者の区分によっては、相続税額よりも障害者控除の額が大きくなることがあります。この場合は、障害者に課される相続税はゼロとなり、控除しきれない金額は障害者である相続人の扶養義務者の相続税額から差し引くことが可能です。
扶養義務者とは、次のような人を指します。
- 父母や子、(曾)祖父母、(曾)孫など、障害者と生計を同じくしている三親等内直系血族
- 配偶者
- 家庭裁判所による審判で指定された三親等以内の親族
上記の要件に当てはまっていればよいので、実際に扶養しているかどうかは問われません。扶養義務者が複数人いるときは、該当者全員で協議を行って控除額を決めます。
このように、障害者控除は障害者本人だけではなく、親族の相続税を減額することも可能な制度なのです。
障害者控除を2回以上使う場合は控除額に注意
障害者控除は、過去に適用を受けている方でも再び利用できる制度です。ただし、2回以上適用を受ける場合は、控除額が少なくなることを理解しておきましょう。
2回目以降の相続で控除できる金額は、次のとおりです。
- 10万円(特別障害者は20万円)×(85歳-2回目の相続開始時の年齢)
- 10万円(特別障害者は20万円)×(85歳-1回目の相続開始時の年齢)-1回目の控除額
上記の計算式で算出した金額のうち、少ないほうが2回目に控除可能な金額となります。なお、1回目に全額を控除している場合は、2回目の相続で障害者控除を適用することはできません。
障害者控除の申請に必要な書類
障害者控除の適用を受けるときは、次の3つの書類を税務署へ提出する必要があります。
- 相続税の申告書
- 未成年者控除額・障害者控除額の計算書
- 障害者手帳のコピーなど要件を満たしていることを証明する書類
各種様式は、国税庁のホームページより入手可能です。
障害者控除に関するよくある質問
障害者控除に関連する、よくある質問にお答えします。
わからないことや不安なことがある方は、ここで解消していきましょう。
要介護認定は障害者控除の対象になるか
要介護認定を受けているからといって、必ず障害者控除を受けられるわけではありません。要介護認定のみの場合、障害者には該当しないためです。
ただし、精神保健指定医などから知的障害者と判定されている場合、市区町村長などから「障害者控除対象認定書」の交付を受けている場合は、障害者控除の対象になります。
療育手帳を持っている人は障害者控除の対象になるか
療育手帳とは、知的障害を持つ方に対して交付される手帳です。障害者手帳の一種なので、療育手帳を持っている方も障害者控除の対象となります。
代襲相続でも障害者控除の対象になるか
法定相続人が死亡・相続欠格などで相続できなくなった場合に、法定相続人の子どもが代わりに遺産相続することを「代襲相続」と呼びます。代襲相続人は民法上の法定相続人に該当するため、障害者控除の適用を受けることが可能です。
似たようなケースで、祖父母が障害のある孫に遺贈で財産を残すケースが挙げられます。この場合、孫は祖父母の法定相続人に該当しないため、障害者控除の適用要件を満たさない点に注意しましょう。
修正申告や期限後手続きでも適用できるか
障害者控除は、以下のいずれの手続きでも適用可能です。
- 修正申告:誤った内容の申告を修正する手続き
- 期限後手続き:申告期限を過ぎたあとに行う手続き
- 更正の請求:税額を多く申告したときに行う手続き
障害者控除の要件に「期限内申告」はありません。そのため、あとから手続きを行っても適用を受けることが可能です。
体調の問題や申告忘れで期限内に間に合わなかった場合は、落ち着いてからでもよいので手続きをしておきましょう。
計算した結果、相続税がゼロの場合はどうなるのか
障害者控除で軽減される金額が相続税額を上回る場合は、相続税の申告を行う必要はありません。
ただし、今回適用する控除額が明確になっていないと、次回相続が発生するときに再度計算する手間が発生します。申告を行わない場合でも、計算結果や控除した金額は記録に残しておくと安心です。
なお、同じ相続税の控除制度であっても、配偶者控除や小規模宅地等の特例を適用するときは申告が必要なので注意しましょう。
障害者控除の計算や手続きは、専門の税理士にお任せください
障害者控除は相続税額から直接控除額を差し引けるため、非常に節税効果の高い制度です。要件に該当する方は、忘れずに手続きを行っておきましょう。
障害者控除の適用を受けるときは、控除額を計算したり書類を作成したりする必要があります。手続きがご本人やご家族にとって負担になるケースも多いため、専門的な知識を持つプロに相談することがおすすめです。
「相続税申告相談プラザひろしま」では、相続と向き合い30年以上の専門家が相続手続きのサポートを実施しています。障害者控除でわからないことやお困りごとがあれば、お気軽にご相談ください。