不動産を相続するときは、財産分割や相続登記など多くの複雑な手続きが必要になります。相続の手続きには期限が設けられているため、相続の流れや遺産分割の方法をしっかりと理解し、期限内に手続きを済ませることが大切です。
本記事では、不動産を相続したときの手続き手順や必要となる費用を解説します。不動産相続ならではのポイントを押さえ、円滑な手続きを目指しましょう。
相続した財産に不動産があった場合の手続きの流れ
相続財産に不動産が含まれているときの手続きの流れは、以下のとおりです。
- 遺言書の有無の確認
- 相続人を確定させる
- 財産を特定して財産目録を作る
- 遺産分割協議を行う
- 不動産の相続登記
- 相続税の申告・納税
全体の流れを把握していれば、不動産を相続することになっても慌てずに対処できるようになります。まずは、各手続きの詳細をみてみましょう。
遺言書の有無の確認
相続が発生したら最初に行ってほしいのが、遺言書の有無を確認することです。
遺言書があれば、基本的に遺言書どおりに相続が行われるため、遺産分割協議の手間が大幅に軽減されます。なお、遺産分割協議後に遺言書が見つかった場合は、遺言書の内容が優先されます。
ただし遺言書は、単に中身を確認すればよいというものではありません。遺言書の種類や保管場所によっては、家庭裁判所による検認の手続きが必要になります。
遺言書の種類と保管場所ごとの違いは、次のとおりです。
作成方法 | 保管者 | 検認手続き | |
自筆証書遺言 | 被相続人が自ら作成する | 被相続人 | 必要 |
法務局 | 不要 | ||
公正証書遺言 | ・2人の証人の立ち会う・被相続人から聴き取った内容を公証人を記述する | 公正役場 | 不要 |
秘密証書遺言 | ・2人の証人の立ち会う・被相続人が作成した遺言書について、内容を伏せたまま公証役場が存在を確認する | 被相続人 | 必要 |
検認は、遺言書の内容を明確にして、遺言書の偽造・変造を防止するための手続きです。検認が必要な遺言書を検認せずに開封すると、5万円以下の過料が科されるため注意が必要です。
相続人を確定させる
遺言書の有無を確認しつつ、相続人の確定も進めていきましょう。
相続人を調べるためには、被相続人が生まれてから死亡するまでの戸籍謄本を取り寄せる必要があります。戸籍謄本を見ながら親族関係を洗い出し、法定相続人を確定しましょう。
なお、あとから新たな相続人が発覚した場合は、遺産分割協議をやり直さなければならなくなるため注意が必要です。相続人の確定は慎重に進める必要があります。
財産を特定して財産目録を作る
次に、どのような財産が遺されているかを確認して、財産目録を作成しましょう。
相続財産に不動産が含まれているかどうかは、市区町村から届く固定資産税納税通知書で確認できます。納税通知書が手元にない場合は、市区町村の窓口で名寄帳を取得すれば、被相続人が所有している不動産を調べることが可能です。
なお財産には、土地や建物などの不動産はもちろん、現金や預貯金、有価証券なども含まれます。また、借金や損害賠償責任などの「マイナスの財産」も含まれる点に気をつけましょう。財産目録を作成するときは、さまざまな種類の財産を含んだ遺産総額を算出しなければいけません。
相続財産に債務が多く遺産相続をしたくない場合は、相続放棄の手続きを行うことも可能です。ただし、相続放棄は「相続の開始があったことを知った日から3か月以内」に家庭裁判所に申述する必要があります。希望する際は、必ず期限内に手続きを済ませてください。
遺産分割協議を行う
相続人と相続財産が確定したら、遺産分割協議を行いましょう。
遺産分割協議とは、相続人全員で遺産の分け方について話し合い、確定する手続きです。原則、被相続人の配偶者や子ども、状況に応じて孫や直系尊属、兄弟姉妹、甥や姪などが参加します。
遺産分割協議をしても財産分割の方法に合意が得られない場合は、家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てることになります。遺産分割調停とは、裁判官や調停委員が当事者の事情や意見を加味したうえで、解決案の提示や助言を行う話し合いです。
調停が不成立となれば、遺産分割審判へ移行となります。遺産分割審判では、裁判官がさまざまな事情を考慮し、合理的な判断で遺産の分割方法を決定します。
不動産の相続登記
不動産の相続人が決まったら、相続登記を行って不動産所有者の名義を変更しましょう。
不動産を相続しても、相続登記を行わなければ所有権を第三者に主張できません。相続登記による名義変更は、必ず行っておいてください。
なお、相続登記の際は次のような書類が必要です。
- 被相続人の出生から死亡までの戸籍全部事項証明書(戸籍謄本)または除籍全部事項証明書(除籍謄本)
- 被相続人の住民票の除票又は戸籍の附票の写し
- 相続人全員の戸籍全部(個人)事項証明書
- 不動産を相続する相続人の住民票または戸籍の附票の写し
- 遺言書または遺産分割協議書
状況によって必要となる書類は異なります。詳細は、法務局へ直接問い合わせる、もしくは「相続登記ガイドブック」でご確認ください。
相続税の申告・納税
最後に、相続税の申告と納税を済ませます。相続税の申告・納税は、相続開始を知った翌日から10か月以内に行わなければいけません。申告先は、被相続人の住所地を所轄する税務署です。
なお、期限内に申告・納税ができない場合は、相続税に関する特例が適用されなくなったり延滞税がかかったりするため注意が必要です。
出産による相続人の変動や災害など、特殊な事情があって相続税の申告が間に合わない場合は、申告期限の延長が可能なケースもあります。延長措置を受けるためには申請が必要なので、早めに税務署へ相談しましょう。
不動産を相続した時に取れる4つの方法
不動産の相続と聞くと、土地や建物をそのまま受け取ることをイメージする方が多いかもしれません。相続人がひとりであればそのような相続方法でも問題はありませんが、相続人が複数いる場合は、どのように遺産分割をすることになるのでしょうか。
実は、不動産は以下の4つの方法で相続することが可能です。
- 現物分割
- 代償分割
- 換価分割
- 共有名義
相続人の状況や希望に応じて、最適な相続方法を選ぶことが大切です。ここでは、各相続方法の詳細を説明します。
現物分割
現物分割は、不動産をはじめとした財産をそのまま分割して相続する方法です。たとえば、200坪の土地を100坪ずつ法定相続人で分割する、という方法が例として挙げられます。
もっともわかりやすく手続きも簡単な方法ですが、建物を含む不動産の分割が難しいため、
主に土地のみを相続する場面で採用されます。ただし、土地の面積が狭い場合や分割により価値が著しく低下してしまう場合は、現物分割は不向きです。
また、土地は形状や日当たりなど細かい条件で価値が変わってくるため、完全に公平な割合で分割することは難しいでしょう。
代償分割
代償分割とは、特定の相続人がひとりで不動産を相続し、他の相続人に相続分の金銭を渡す方法です。
たとえば、長男が評価額4,000万円の土地をすべて相続する代わりに、母(4分の2)と次男(4分の1)へ相続分に該当する3,000万円を支払う、という方法が例として挙げられます。
代償分割は、相続人のなかに現金を欲っしている人がいる場合に有効です。また、相続財産となった建物に住んでいる相続人が、そのまま住み続けるためにこの方法を取る場合もあります。
ただし、相続分の現金が用意できない場合は、当然ながら代償分割は行えません。十分な資金がなければ、この方法を選択することは難しいでしょう。
換価分割
換価分割とは、不動産を売却した代金を相続人で分割する方法です。たとえば、4000万円の不動産を売却して現金化し、母が2,000万円、子ども2人が1,000万円ずつ受け取る、という方法が例として挙げられます。
換価分割は、相続人全員が不動産の相続を望んでいない場合に有効です。ただし、受け取れる金額が売却金額に左右されるため、希望通りの金額を相続できないリスクがあります。そもそも、不動産の売却自体が困難なケースもあるため注意が必要です。
また換価分割の場合は、相続税に加えて譲渡所得税の対象となります。遺産分割しやすい分、デメリットも多い方法であることは理解しておきましょう。
共有名義
共有名義とは、相続人全員が共有で不動産を所有する方法です。
相続人それぞれの「不動産全体に対する割合的権利(共有持分)」に応じて登記する点が特徴的です。たとえば、不動産を所有していた父が亡くなり兄弟3人が相続することになった場合、それぞれ3分の1ずつ共有名義で不動産を所有する、という方法が例として挙げられます。
共有名義にすると、不動産の権利関係が複雑になる点に注意しなければいけません。将来、不動産を売却したり貸し出したりするときは、共有名義者全員の同意が必要になります。ひとりでも反対者がいると話が進まなくなるため、不動産管理の手間が増える可能性は高いでしょう。
また、相続が繰り返されると共有名義人がどんどん増えていき、権利関係がより複雑化していきます。時間とともに全員の合意を取ることは難しくなっていくため、できれば避けておきたい相続方法です。
不動産の価値の評価方法
不動産を相続したり遺産分割をしたりするときは、不動産の価値が重要となります。代償分割や換価分割では、不動産の価値が相続できる現金に直結するためです。
それでは、不動産の価値はどのように評価すればよいのでしょうか。代表的な評価方法として、以下の3つが挙げられます。
- 相続税評価額
- 実勢価格
- 公示価格
- 固定資産税評価額
ここからは、各評価方法の概要と調べ方を解説します。
相続税評価額
相続税評価額とは、相続で取得する不動産にどれくらいの価値があるのかを評価した金額のことです。相続税評価額には、次の2つの種類があります。
- 路線価方式
相続税や贈与税を計算するときに基準とする方式です。
全国の道路ごとに「路線価」という土地価格を設定して、1平方メートルあたりの価格が1,000円単位で表記されています。この価格に面積や価格を補正する奥行価格補正率などをかけることで、その土地の評価額が算出されます。
路線価は、公示価格の80%前後に設定されることが一般的です。詳しい価格は、国税庁の「路線価図・評価倍率表」で調べられます。
- 倍率方式
倍率方式は、路線価が設定されていない土地の評価額を算出する際に用いられます。固定資産税評価額に、地域ごとに定めている倍率をかけて価値を評価します。
倍率は国税庁が定めており、こちらも「路線価図・評価倍率表」で調べることが可能です。
実勢価格
実勢価格とは、実際にその不動産を売却するとき、いくらになるかを算出した価格です。
多くの評価方法のなかで、もっとも高い価額が出やすい評価方法だといわれています。また、遺産分割審判が行われる際は、実勢価格が用いられます。
国土交通省は、土地取引の指標として公示地価(地価の目安)を公表していますが、必ずしも公示価格と実勢価格が一致するわけではありません。土地の特性や経済状況などを加味して、その時々で最適な価格が適用されます。
公示価格
公示価格とは、国土交通省が発表する、土地を売買するときの目安となる価格のことです。国土交通省の土地鑑定委員会が地価公示法に基づき、一定の基準日における全国約2万3,000か所における標準値の正常な価格を公表します。
注意したいのは、必ずしも価値を知りたい土地付近が標準地に選ばれるわけではない点です。標準地から離れた土地の場合、都道府県が毎年行う地価調査の結果である「基準地価」を参考にすることもあります。
なお公示価格は、実勢価格に対して90%程度の価格が目安となります。
固定資産税評価額
固定資産税評価額とは、固定資産税や都市計画税などの不動産に関する税金を計算する際に基準となる価格です。各市区町村が不動産1件ずつに対して算定し、3年に1度見直されます。評価額の目安は、公示価格の70%程度です。
固定資産税評価額は、建物の構造や建材、設備の質などによって変動します。詳しい価格は、固定資産税納税通知書や固定資産課税台帳、固定資産評価証明書で調べられます。
不動産を相続した際にかかる費用
不動産を相続したときは、さまざまな費用を支払うことになります。必要になる代表的な費用としては、以下の3つが挙げられます。
- 相続税
- 登録免許税
- その他費用
支払いが必要になったときに慌てることがないよう、しっかりと費用に関する知識も身につけておきましょう。
相続税
相続税は、被相続人から相続人へ財産が相続された際、その財産に対して課される税金です。不動産のみならず、現金や預貯金、骨とう品などさまざまな財産が対象となり、相続財産の総額が基礎控除額を超えたときに、相続税が課されます。
なお、相続税の基礎控除額は次のとおりです。
相続税の基礎控除額=3,000万円+(法定相続人の人数×600万円) |
相続財産の総額が基礎控除額を下回る場合は、相続税は発生しません。
登録免許税
登録免許税は、不動産の登記を行うときに課される税金です。相続登記はもちろんのこと、所有権移転登記や抵当権設定登記などさまざまな登記手続きで必要となる費用です。
相続登記を行う際の登録免許税額は、次の式で算出できます。
登録免許税=不動産価格(固定資産税評価額)×0.4% |
なお、登録免許税額を算出するために使用する固定資産税評価額は、土地・建物で分けて定められています。登録免許税は、その両方にかかる点に注意しましょう。
その他費用
相続登記の際は、他にもこまごまとした費用がかかります。
たとえば、住民票や戸籍謄本などの必要書類を取得する際にかかる費用や、書類を法務局に送るための郵送費が必要となります。相続登記を司法書士に依頼する場合は、司法書士報酬を支払う必要もあるでしょう。
どのような費用がいくらかかるかは人によって異なるため、余裕をもって費用を準備しておくと安心です。
相続財産の中に不動産がある場合は手続きなどが複雑!円滑に進めるためにも専門家に相談を
相続する財産に不動産が含まれる場合は、遺産分割の方法が複雑になったり相続登記が必要になったりと、手続きが複雑化しやすい傾向にあります。全体の流れをしっかりと押さえて、円滑に手続きを進められるよう準備を整えておきましょう。
なお、相続財産に不動産が含まれる場合は、プロに手続きをサポートしてもらうという手もあります。
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